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庶民勇者は廃棄されました  作者: ぎあまん


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68 魔族領へ 1


 そういう接触の仕方をしてきたか。

 しかし、ルニルたちの接触する相手がダークエルフ族であったのだから、こういうことはむしろおれの方が予想しておかなければならなかったということだろう。


 ルニルは何回攫われれば気が済むのだろうと思ったことは内緒だ。


 慌てて救援部隊を編成しようとする将軍を止めて、おれはニドリナの案内で再び塹壕を出た。


 今度は少し楽をするために【隠身】ではなく、上位の【透過】を使う。ニドリナの部下の暗殺者たちが使っていた技術だが、おれは魔法でそれを使った。


 完全に見えなくなるが先を行くニドリナのことは気配でわかる。

 ニドリナが躍起になって気配を殺そうとしているのをわかりながら、おれはその後に付いていく。


 苛立つからって殺気を飛ばすのは止めなさい。


 なんてことをやりながら、おれたちは主戦場を横切り西の大山脈グレンザを目指す形で進んでいった。

 塹壕帯は東西に渡って広がり、お互いの陣営を睨んでいるが、それもグレンザの裾野の辺りになると緩くなる。

 その部分はすでに二つの大山脈に生息する竜たちの領域だから。迂闊な軍事行動を行なえば竜たちの攻撃を受けることとなる。


 ニドリナは裾野にある大きな岩の影に入り込むと、その岩を短剣の柄で強く叩いた。

【透過】を解除したニドリナに合わせてそこで待っていると、やがてその大岩の一部が横に動き、中に狭い空間が現われた。


 そしてそこにダークエルフ族の女がいた。

 浅黒い肌に銀の髪。そしてエルフを示す長い耳。あのときに見た彼女と同じ特徴だが、あいにくと彼女ではない。

 彼女はもっと鋭い美人だった。

 それに比べれば、ここにいるダークエルフ族の女は鋭さや他にもいろいろと足りない。


 彼女ではない。

 そんなおれの視線が気に入らなかったのか、思い切り睨まれてしまった。


「こちらがそうなのですか?」

「それは当人に確認させればいいだろう」


 ニドリナのぶっきらぼうな返答にダークエルフ族の女は気に入らない顔をしたが、その女は気を落ち着けるように一度目を閉じると「こちらです」と岩の中へと消えていった。


 追いかけて中へ入るとすぐに下る階段があった。

 階段は短く、すぐに広い部屋に出た。テーブルなども用意された話し合いなどができるような造りだ。

 ルニルたちはここでダークエルフ族の使者と会い、話をしていたのではないか。そう感じさせる。


 だが、その女はこの部屋では止まらず、さらに奥にあるドアを開けた。

 そこは狭い部屋だった。

 そして強い魔力に満ちていた。


「これは?」

「お入りください」


 説明を求めるおれを無視し、女はそれしか言わない。

 確実に敵意がある……が、これは絶対に彼女の意図があると確信しているおれは迷わず部屋の中に入った。


 三歩入ったところで視界が歪んだ。


「むっ……」


 落下しているような、上へ引き上げられているような……感覚の混乱に耐えた一瞬後には視界に別の光景が映っていた。


 生の木がそのまま壁になったような奇妙な空間だ。

 床の石は見事なぐらいに磨き上げられていて、そこに彫られているのは紋章だ。

 ということは、さっきのは紋章術の一つかと、おれは感心してその並びを観察していた。


 周囲には他にもダークエルフ族の男女がいたが、おれが探している彼女はいない。

 案内の女がなにかを言う気配もないのでおれはそのまま紋章を眺めていた。


 これなら、おれがいま知っている紋章で再現できるなと考えていると……。


「人間!」


 いきなりそう呼ばれた。

 ニドリナがすごい勢いで警戒し始めたが、おれは逆に相好を崩してしまった。


 視線を上げれば、そこにいたのはやはり彼女だ。


「よう、ダークエルフ」


 おれがそう呼んだ途端、周囲のダークエルフ族の男女が一気に殺気だった。


「貴様っ!!」


 などと叫んでいるが、彼女は周囲の反応にまるでかまわずおれに抱きついてきた。


「三百年ぶりだぞ。待たせすぎだ!」

「三百年?」


 彼女の言葉に、おれは耳を疑った。




 名前も知らないダークエルフ……彼女の名前がラーナリングインという名前だということをベッドの中で知った。


「ラーナと呼んでいいぞ」と妖しく笑って唇を合わせてくる。


 天蓋付きのとんでもなく立派なベッドだ。

 ただの寝るための部屋なのに歓楽都市でおれが泊まっていた部屋よりも広い。

 その中央に五人ぐらいが寝られそうなベッドがある。


 それ以外は飾りがあるだけだ。


 おれにとっては半年ぶりぐらい。彼女にとっては三百年ぶりの逢瀬は、やはり年月の分だけ彼女の方が燃えた。


 その積極性に酔いしれて、おれはほとんどラーナにされるがままに身を任せた。


 ラーナがとりあえずの満足を得たのは日が昇り始めた頃だった。厚いカーテンの隙間から陽光が見え隠れしている。


「ふう……」


 おれの胸の上で豊かな双丘を潰してラーナが頬をすり寄せた。


「……ああ、で? そろそろいろいろ説明してくれるか?」


 なにしろ再会以後、すぐに手を引かれてここにやってきてそのまま……だったのだ。三百年ぶりという以外に教えてもらえたのは名前だけだ。


「そうだな。……わたしが地上に戻ってきたのは三百年前だ。地下迷宮に入ったのはそれよりももう少し前。お前……ルナークでいいのか?」

「ああ」


 その言い方でラーナがおれの事情をかなり知っていることがわかった。


「ルナークはそうではないみたいだな」

「おれが地上に出てきたのはだいたい半年前だ。そもそも、あそこに入ったのだって三年前ぐらいだぞ」

「入った地下迷宮は?」

「戦神の試練場」

「わたしが入ったのもそうだが、場所はもちろん違う」

「だよな」


 ダークエルフがおれと同じ地下迷宮に入れるはずがない。だから使った地下迷宮が違う可能性は考えていた。

 しかしまさか、時間までずれているとは思わなかった。


「三百年か……エルフ族は長命だって話だが本当なんだな」


 人間同士なら三百年の時間のずれは埋めることはできなかっただろう。


「まぁ……そうだな」


 それにラーナは変に言葉を濁した。

 年齢の話が嫌なのだろうと、おれは解釈して話題を変えた。


「それで、ラーナはどうしてこんなすごいところで暮らしているんだ?」

「ふふん、知りたいか?」

「そりゃあな」


 もったいぶって笑うラーナを見ていて、おれはやり返したい気分になった。

 彼女を抱きしめ、上下を入れ替える。


 受けて立つと微笑むラーナと舌を絡め、首筋を攻める。


「おれの左腕をぶっ飛ばしてくれた癖に、まさかこんなところに誘われるとは思わなかったからな」


 主戦場に立ったときはラーナが現われるかもしれないと少し期待していたのだ。

 しかし彼女は表われなかった。


「それは……お前が他の女を口説いているから……」


 甘い吐息が言葉を途切れさせる。


 ああ……やはりそれが原因か。


「こっちは長く待っていたのに……お前は楽しく過ごしているのが…………腹が立ったから」

「そりゃ、すまなかったな」


 詫びながら彼女への愛撫は続けていく。

 やがておれも彼女も準備が整い、何回目かわからないラウンドに突入したのだった。




 結局、眠らないままに時間がやって来て部屋に侍女らしき女たちが入ってきた。

 ノックもなし。

 こっちの都合などお構いなし……というよりこっちが何していようと黙って受け入れる準備があるのだろう。


 ……と、思うのだがおれを見る目は冷たい。


 立派な風呂へと案内され二人で体を洗い、それから与えられた服で朝食に向かった。


 おれには生地の質はいいが質素な柄の服を与えられたがラーナは違った。

 なんていうか、豪華だ。


「それで、ラーナは一体どんな立場なんだ?」


 食堂に向かう途中でおれは改めて聞いた。


「ああ、そうだな。……大魔王をやっている」

「へぇ、大魔王か」


 そりゃ偉そうだと思った後でおれは首を傾げた。


「それって称号か?」

「いや、違う。名誉職のようなものだな」

「そうなのか」

「そうだ」


 おれが驚かないことが気にいらないのだろう、側にいる侍女が凄い目で睨んできた。


 だが、おれとしてはラーナならそんな地位になっててもおかしくないと思えたのだからしかたがないのだ。


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