表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
庶民勇者は廃棄されました  作者: ぎあまん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/265

66 戦場観戦 1


 慌てふためくラナンシェを口止めさせるのに苦労したが、彼女はなんとか黙っていてくれることになった。


 その理由としてはおれを襲った一撃を城壁にいた見張りが誰も目撃できなかったからだ。おれの方も失った左腕はすぐに回復したし、周囲に散らばった血痕も影獣を使って回収し、イルヴァンの食事となった。


 痕跡がなにも残っていなければラナンシェの主張は誰にも信じてはもらえない。

 彼女にとっては消化不良の気分かもしれないが、おれにとってはちょっと期待していたことが確実になって楽しくなってきた。


 ダークエルフがここにいる。


 そしておれを見つけている。


 それなら、出会う日も近いだろう。


 ……と、期待してから一週間。語ることもない日が続いた末、ようやく戦場へと出る日がやってきた。

 おれが暇をしている間にタラリリカ戦士団を率いる将軍は交代で帰還する戦士団との情報交換や戦士たちの最終調整など忙しく動き回っていたようで、それがようやく終わったのだ。


「とはいえ、今回は戦士団の勘を取り戻すための大規模偵察です。戦闘などはないと思ってください」

「そうなのか?」

「はい。それとともに、殿下にはここでの戦いの流れというものを理解していただきたいと思います」

「そういうのは事前に講義を受けたが?」

「座学だけでは身についたとは言えません。その身で体験してこそ真に身につくというものです」


 その意見にも戦場に出るのにも異議はないので、おれは黙って頷くことにしておく。

 というか、もう正体はばればれなのにちゃんとおれを王子扱いしてくれるこの将軍は本当に生真面目だ。


 さてそれで、いざ初めての戦場となったのだが、その前にルニルたちとの話し合いがあった。


「我々はすぐに別行動を取ることになる」

「まぁ、聞いてたしな」


 特に驚くことでもない。

 事前に停戦交渉を行うための下準備として魔族側と意識の共有を行うのが今回の目的だろうと、おれは予測している。

 人類側でさえ少数派だろう停戦派が独断でなにかをしたところでここでの争いが止まるとは思えない。

 だが、敵側にも自分たちと同じような考えを持つ者がいる、という事実は自分たちの努力が徒労ではないという証明にもなる。

 両陣営の停戦派の士気を上げるためには、お互いに自分たちの存在を確認し合うことが重要となるに違いない。


 幸いにもおれが偽物なのはばれているが、ルニルが本物の王子だということは、それほど知られてはいないようだ。


 先行偵察の一部隊としてルニルたちが別行動をしたとしても、注目されることはないだろう。

 というのが彼女たちの考えだ。


 それに、おれも概ね同意なのだが……。


「ニドリナ」


 話し合いが終わった後、おれはニドリナにこっそりと声をかけた。


「なんだ?」

「ルニルたちの方に付いててくれ。隠れてな」

「はぁ?」


 おれの言葉にニドリナはあからさまに嫌な顔をした。


「なにかあったときの連絡役だ」

「なんでそんなこと……」

「用心のためだな」

「用心したかったら、お前がそこら中に喧嘩を売らなければいい話だ」

「それはそれ、これはこれ、だな」

「クソ野郎」


 まったく、口汚いったらないな。


 そんなこんなと準備をし、ようやくおれはタラリリカ戦士団に混ざって戦場へと出た。



 大要塞を出てすぐは塹壕地帯となっている。荒野に幾重にも掘られた溝の中に戦士たちが隠れ、向かって来た敵を弓矢や魔法で迎撃するのだ。


 これには騎馬を始めとした地上を行く騎乗部隊などを使えなくさせるためでもある。空は空で別の対処がされているため、グリフォンやペガサスなどの空を行く騎乗魔物を使った飛行部隊が迂闊に近寄ることはできないようになっている。


 ちなみに、空の敵への対処を行っているのは魔導王だという。

 あの引きこもりもちゃんと仕事をしているようだ。


 おれたちは大要塞の地下通路から塹壕地帯に入る。塹壕は馬を連れて進めるほどに整えられている。今回は馬を連れていない。馬は貴重な消耗品だし、攻撃魔法が雨霰と降る主戦場では馬は瞬く間に死んでしまう。

 急ぐ場合には魔法で強化した馬に戦車を引かせるのが主流なのだという。


 今回は戦士団所属の魔法使いに【隠身】という視覚遮蔽の魔法をかけてもらってから塹壕を出ることになる。

 この辺りは前線なだけあって、塹壕のあちこちが崩れているし焦げ臭い臭いが染みこんでいる。


 大きな戦いはなくとも、小さな戦いは常にどこかで行われている、ということらしい。

 たしかに、耳を澄ませば攻撃魔法の爆発音が聞こえてくる。


 塹壕地帯はかなり広く、戦士団のほとんどはここにこもっているという。

 タラリリカ戦士団もこの偵察任務が終われば、一区画の担当を引き受けることになるのだという。


 まるで蟻の巣か、迷宮の広げ合いだなとおれは思った。

 塹壕はそのまま、この戦場における自分たちの支配領域であり、自分たちの優勢度を示す指標だ。

 それを広げるために戦士は塹壕を掘り、あるいは相手塹壕を潰す。聞こえてくる攻撃魔法の音がほとんど爆裂魔法なのは、塹壕を破壊するためなのではないかと思えてくる。


「各所から部隊を放ち、敵の塹壕の広がり具合を確認させます。殿下はわたしとここで報告をお待ちください」

「なんで?」


 ルニルたちの出発を見送った後で将軍にそう言われ、おれは首を傾げた。


「御身をなんとお思いか?」

「偽物」


 前線に立つことはないと言われる前におれは小声でそう答えて黙らせた。


「本物が危ない目にあっているときに偽物が奥に引っ込んでてどうする。むしろ、本物が無事なように陽動作戦の一つでもやってみせるのが正しいんじゃないのか?」

「それは……」

「どうせおれの正体はばれてるんだ。周りからだってバカが調子に乗ってるって思われるだけだろ。大丈夫、ちょっと暴れたらすぐに退くからさ」

「む、むむむ……」


 将軍が呻く。

 できればバカの部分は否定して欲しかったな。


 とまれ、将軍の反応を見る限り、おれが陽動役を引き受けることに反対はないようだ。


「んじゃ、ちょっくら行ってみようか」

「お待ちを! いま護衛を!」

「いらないし、むしろ危ない」


 それでも【隠身】の魔法だけは飛んできた。

 光が体を透過するこの魔法はあいにくと完全ではない。よく目をこらせばぼんやりと人の姿が見えることだろう。


 陽動のつもりで出てきたんだから目立たないと意味がないんだがな……。

 とりあえず【隠身】の解除はせず、その代わりなるべく気配は消さないようにして主戦場へと向かっていく。


 多数の破壊手段が幾つも繰り出されたろう主戦場の土地はそこら中が凹凸になっている。大要塞から見たときよりもはるかにひどい。これではまともに走ることはできないし、馬などが活躍できる場所も限定的だろう。


 警戒の視線が行き交うヒリヒリとした緊張感が主戦場には漂っている。


 おれの知らない魔法の光球がそこら中をうろうろしている。おそらくは警戒用の魔法だろうと、とりあえず距離は取っておく。


 ……と、移動していると地面に違和感があったので足を止める。

 見れば地面の中に鉄の筒が埋めてあり、内部には魔力の反応があった。触れたら爆発する類だろうか。

 そんなものが他にもたくさんあった。


 まったく、罠には事欠かないということか。こういったものを踏まないためには進路を爆裂魔法で掃除していくしかないだろうし、そうなれば目立つので迎撃が簡単になる。


 となると、こういう【隠身】の魔法で姿を隠した少数が必死に罠をかいくぐって行う偵察というのはかなり重要ということになるのか。


 王都での講義では、最近の戦場は大魔法を使うための準備とその潰し合いが戦いの主流になっていると言っていた。


 たしかに、こんなめんどうな戦場で戦士たちを出撃させるのに神経をすり減らすぐらいなら、大規模な魔法で一気に焼き払いたくなる気持ちもわからないでもない。


 ただこれも、お互いに決定打になるほどの成功をしたことはないようだ。


 さて、だらだらと考えながら主戦場の真ん中ほどに来ただろうか。

 ここまで来れば警戒用の魔法だと明らかな光球の数が増えてきて、いまのようなぶらぶら歩きではこれより先に進むのは無理なようだった。


「それなら、どんなものか試してみよう」


 と、おれは拾った光球に石を投げてみた。

 次の瞬間、凄まじい音が主戦場に響き渡った。


よろしければ評価・ブックマーク登録をおねがいします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ