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庶民勇者は廃棄されました  作者: ぎあまん


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41 偽りの王子


 アスト……いや、いまはルナークか。

 彼を見送ると、ラランシアはため息を一つ零した。


 とんでもなく成長しているようだった。

 おそらくは大要塞で活躍する勇者たちなど相手にならないほどの強さを獲得したのだろう。ダンテスを押さえ込んでいた彼から感じたものにはそれだけの気迫があったと、ラランシアは長年の経験から感じとっていた。


【天啓】によって下された神の言葉とそこに込められた神気は、彼に普通の者とは違う扱いを求めている。


 そんな深い神気を込められた言葉を聞くのは初めてだ。

 一体、戦神の試練場の奥でなにがあったのか?

 その強さと神からの愛を感じてラランシアはわずかに嫉妬した。だがすぐになんとも言えない哀しい気持ちになる。


 それはやはり、ルナークの言動だ。

 ともに修行に向かわせた二人の勇者にされた仕打ち。それが彼の心に深い歪みを与えている。


 それが悪党という暴虐に墜ちていないことは多くのものにとっての幸いではあるが、しかしその歪みが、せっかく手に入れた力を腐らせていくことになっているようにラランシアには見えた。


 なんとかしなければならない。

 できればラランシアが側にいてそれをしてあげたい。


 そしてそれに関して、今回の件は彼にとっても良い結果を招くはずだとラランシアは信じている。


「でも、彼の言い分が正しい」


 まずはこちら側を正さなくては。

 ラランシアはそう決心すると、王子たちのいる部屋に戻った。


 ルナーク王子は静かに怒っていた。

 周囲に当たり散らしていないのは、彼女の理性がそれを許さないからだが、しかし表情を隠すまでには至っていない。


 結果的に、不満を溜め込んだ表情をケインたちに見せ続けることになり、空気は緊張で固まってしまっていた。


 そこにラランシアが戻ってくる。


「ラランシア様、彼は?」

「帰りました」


 質問に答えると、ケインはがっくりとうな垂れルナーク王子に向き合った。


「王子、申しわけありませんでした。我々の人選ミスです」

「それは違います」


 王子がなにかを言う前にラランシアが口を挟む。


「王子、彼以上の適任はいません」

「しかし! 奴のあの態度はなんだ!」

「あなたの態度も、なんでしょう?」


 強めの口調でラランシアは返す。

 その瞳は王子を黙らせるには十分だった。


「依頼人の側が納得していない仕事を、まともな冒険者が受けると思いますか? あなたは自分が納得していないことをその態度でずっと表わしていた。彼はそれを察知して、依頼から逃げる選択を選んだだけです。やり方は乱暴ではあったし、失礼でもあったでしょう。ですが、『身分を偽っている王子からの納得していない依頼』なんてものを受けるような愚か者ではなかったという証明でもあります」

「ぐっ……」


 一気にたたみ込まれ、ルナーク王子はラランシアの視線から逃げた。


「ラランシア様、彼とは知り合いだったのですか?」


 ケインの質問にラランシアは頷く。


「数年前に、彼を鍛えました。そのときから優秀な生徒でしたが、見ない間に驚くような成長をしたようです」

「ラランシア様のお弟子だったのか」


 ダンテスがそれで納得しているが、彼の強さはそんなものではない。

 どうやらケインたちにはそれがわからないようだ。残念なことである。


「ラランシア、彼でなければダメなのか?」

「はい。彼ならば【天啓】を使える者、全てが同じ答えを出すでしょう。たとえいかなる国の、いかなる神の大神官であろうとも」

「それほどまで、ですか」

「はい。彼ほどに神々に信頼されている者も少ないでしょう。あいにくと彼自身が神を信頼していないので奇跡は使えないようですが」


【天啓】によって授けられた神からの言葉や意思を偽ることはできない。もしも偽りを言おうものなら神からの信頼を裏切ったということになり、奇跡を使うことができなくなる。


【天啓】を使えるほどの神官にとってみれば、神からの信頼を裏切ることを強いるような国からは逃げ出すことだろう。


「……王子、彼の協力は必要です」

「む……」

「しかし、お気に召さないというのであれば、それはそれでよろしいでしょう。ですが、そのときにはわたしの協力もここでおしまいとさせていただきます」

「ラランシア様! それは……」


 いままで黙っていたナズリーンが顔を青ざめさせる。


「あなたの理想を叶えるために考えた作戦ですし、成功するために必要な要因は揃いました。あなたがそれを無視して茨の道を進みたいと言うならそれもいいでしょう。しかし、勝利に最善を尽くすことを戦神は推奨します。そして、負ける戦から逃げる事を戦神は咎めません」

「……わかった。彼に協力を頼もう。ラランシア、説得を頼めるか」

「いいえ。王子が自ら出向くのがよろしいでしょう」

「なんだと?」

「ラランシア様、さすがにそれは……」

「何度でも言いますが、彼ほどの適任は他にはいません。ですが、唯一問題があるとすれば彼が貴族に対して強い不信感を持っていることでしょう。ですからまずは、王子が彼に個人として信用されることが必要です」


 ラランシアの言葉で王子はまた表情を歪めた。

 だが、今度は怒っているのではなく思い悩んでいる様子だ。


「わかった。そうしよう」


 ルナーク王子は決心して立ち上がった。


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