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庶民勇者は廃棄されました  作者: ぎあまん


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31 冒険者ルナークは合わない


「ごめんなさい。抜けてもらえないかしら」


 とある女性冒険者に言われ、おれは「あ、そう」と気のない言葉を返すしかなかった。


 スペンザの街にある冒険者ギルドの喫茶室でのことだ。


 彼女たちに誘われて一度だけ同じ依頼をこなした。

 声をかけられたとき、これからも同じパーティに入ることを前提にしてというものだったのだが、残念ながらこの結果だ。


 そそくさと去っていく彼女の背を見送り、おれはカウンター席に移動してお茶を頼んだ。


「やれやれ」

「また断られたの?」


 隣に座ったテテフィに聞かれ、おれは肩をすくめた。

 彼女はまだ仕事中のはずだが、担当受付である日雇い連中が仕事を探すのはほぼ午前中だけだ。呼ばれて受付に行ったとしても間に合うのだろう。


「今度は何したの?」


 今度、という言葉があるように他の冒険者パーティに勧誘されたのは今日が初めてではない。

 やはり、普通に冒険者らしい装備を整えていると周りの見方が変わるようだ。勧誘されたのはこれが初めてではない。


「なにもしてないんだけどなぁ。普通にこなしたぞ」

「本当に?」

「もちろん」

「女の子に手を出した?」

「…………いや」

「どうして、答えるのをためらったのかしら?」


 じろりと睨まれて、おれは降参を示す。


「誓う。おれからは手を出してない。情熱的な女戦士だったんだ」

「……まさか、依頼中に?」


 ああ、ゲスを見るような目で見られてる。

 いや、うん。わかる。


 依頼中にするのは間違いだよな。


「だけどこれは、今回だけだ」


 他は違う。


「なんか合わないって言われるんだよな。信頼できないとも言われた」


 洞窟に巣くった魔物を討伐する依頼のときにはこう言われた。


「おれたちが必死に戦ってるとき、お前は遊んでるように見えた」


 もちろん、そのときもおれは成果を出した。やりすぎないように、やらなすぎないように。

 だけどおそらく、そういうことを考えながら戦っていることを見透かされているのだろう。


「君が強いのはわかる。強い仲間がいるのはうれしい。だけどなんだか、君といるとバカにされているような気がするんだ。悪いな」


 バカにはしていない。もちろん。

 だがたしかに『彼らの全力に合わせてこちらは調整している』というのは事実だし、それが上から目線だと言われればそうだろう。

 下から見ながら手加減なんてできないのだから。


 他の連中にも同じような理由で断られた。


「まぁいいさ。しばらくは一人でできる依頼をこなすことにする。もう勧誘されて断られるのはまっぴらだ」

「ケインさんたちの勧誘はどうするの?」


 そういえば、ケインたちには嫌がられなかったな。

 とはいえ、彼らが求めているのは冒険者としての仲間でないことは明らかだ。


「できる限りほっときたいね。なんだかろくでもないことになりそうだし」


 おれはポケットから取りだした依頼札をゆらゆらさせる。


「また採集仕事でも繰り返すさ」

「あなたは英雄になる気はないの? なれるのに」

「どうやって?」


 唐突な質問におれは質問を返した。


「おれは目立つのを嫌がられた。そして嫌がったそいつらはいまだに生きている。おれがいまから目立とうとすればそいつらはどうなる? いや、どうすると思う?」

「それは……」

「な?」

「……そうね」


 それでテテフィは納得してくれた。


 ……もちろん、やろうと思えばやれる。

 そして勝つ自信もある。

 慎重たれというのがあの地獄で学んだおれの教訓だが、先日出会った魔太子の実力を見る限り、勇者連中の実力もある程度予測できる。

 だから奴らを相手にするだけなら問題ないだろう。


 だが、奴らは個人ではない。たとえ『勇者』やそこから昇華した『勇者王』や『魔導王』を相手にしようとも、一対一で負けるつもりはない。同時に来られたってやってみせよう。


 だが、連中が国家を率いてきたらどうする?


 おれは、どこまで戦い続ける?


 そういうことを考えると面倒になる。


 改めて勇者と名乗るのもいいかなと思うこともあったが、そういうことを考えれば考えるほど、うんざりしてくる。


 あきらめてのんびりと暮らすのもいいのかもしれない。


 一人で冒険者をして、採集屋になってしまうのもいいかもしれない。


 だがどうも割り切れない部分もある。



 そんなことを考えながら、採集の仕事に向かう。


 今回の依頼は蛍火草という。

 半精霊的な草で、夜にしかその存在を確認できない。採取するには特別な道具が必要で、今回はその道具を借りた上で向かう。

 依頼主の錬金術士は老人で、自分で採取に向かうのはもう億劫なのだそうだ。


 蛍火草は以前の森よりもさらに北、より大山脈に近づいた場所にある断崖に咲いている。

 たしかに、老人が取りに来るには億劫な場所だ。


 登山用のザイルを設置し、おれは断崖を下りていく。


 下りている途中に気付いたが、この断崖の側にある大気に天然の魔力の渦がある。これが月の光を通したとき、ガラスに光を当てたような凝集をして断崖の一点に注がれる。


 魔力を大量に含んだ月光の収束光だ。


 それを吸うために、蛍火草は現われる。


 別名は妖精の寝床。一枚一枚の葉が大きい上に、その上で咲く花が鈴のような形をして輝いている。

 寝床の横に置くライトのようだという。

 そんなライトが置かれるような高級な寝床には縁がなかったので知らないが、妖精でも寝ていれば絵になることはたしかだ。


 おれは背嚢から借りてきた採取道具を取り出す。蓋付きのガラス瓶だ。

 特殊な細工がしているようだが、それがなにかはわからない。が、採取するのに困らない。教えられた手順の通りに岩を砕いて根ごと取りだして、瓶に収める。蓋は閉まると細工が動いて開かなくなった。


 採取成功だ。

 背嚢に戻し、あとはザイルを手繰って戻るだけ……。


 ブツン……と。


 手応えが消えた。


 ザイルが切られた。


 そう理解したとき、崖の上に誰かがいるのが見えた。


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