259 新米伯爵はやり放題 19
ノアールと《魔導王》のゴーレムが戦う横で、俺はシャアランと遊んでいた。
戦い?
いや、違うね。
遊びだ。
「もう! パパっ! 真面目に戦ってよ!」
「真面目にやっているさ」
「どこがよ!」
怒鳴りながらシャアランは拳を放ち、蹴りを打ち、尻尾で薙ぎ払ってくる。
流れるような連続攻撃は感心するほどだ。
「真面目に受け止めてやってるぞ?」
「片手でね!」
確かに。
俺はシャアランの連続攻撃を全て左手だけで受け止めた。
あっ、尻尾の薙ぎ払いは足を狙ってきたんで、それは避けたけどな。回避と左手の受けだけで相手をしている。
シャアランはそれが気に入らないように「むきーむきー」叫んでいる。
よくもまぁ、諦めないものだ。
「それで、お前は何でここに来たんだ?」
「だって、パパがいるから」
「会いに来たのか?」
「うん!」
「なら、こんなことしなくてもいいだろう?」
「え? なに言ってるの?」
キョトンとした顔で首をひねる。
「パパに会うなら戦わないと意味がないじゃない?」
「意味が分からない」
相手を煙に巻くのは俺の十八番のつもりだったがこれには俺も参った。
さすがは俺の娘ってか?
「えー、なんでわからないのう」
しかもあのすね方からして、あいつ本気で言ってるな。
「わからん」
「ひどい! でもわからなくていいからもっと真面目に戦え~~~~」
「だから戦ってるって言ってるだろ」
う~ん。
後ろではそれなりに真剣な戦いが起きているというのに、こっちはなんとも間抜けだな。
「こんなの戦いじゃない!」
「むっ」
シャアランの雰囲気が変わった。
怒ったか?
仙気を高めて集中させている。
練るのに時間はかかっているが、その威力は結構なものになりそうだ。
「真面目に戦わないなら、その気にさせるまでだよ」
「ほう?」
シャアランの前で仙気の塊ができていく。
ああ、この感じ、なんか覚えがあるな。
死の《勇者》リストリヤーレとやり合っていた時に邪魔した一撃か。
あれは確かに強力だった。
「で?」
「パパは大丈夫でも、後ろの砦とかは無事じゃすまないよ!」
ああ、そう来たか。
「それをするなら遊びじゃ済まさないぞ?」
「遊びじゃなくて……これは、戦いだよ!!」
「言ったな?」
俺の警告を無視し、シャアランは練り高めた仙気を解き放つ。
対抗する魔法はすでに選んでいる。
【竜撃吐息】
【飛神盾】
瞬間、周囲が光に包まれた。
見物人に成り下がっていた帝国軍の連中は突然の閃光で目を潰されて悲鳴を上げている。
俺は冷静に、伝説にある竜の吐息がごとき光線の行く手に魔法の盾を出現させた。
その先は俺ではなく、背後にある砦だ。
リストリヤーレの地下迷宮をも揺るがしたシャアランの一撃だ。さすがにそれほどの破壊力は想定していないので壊されるだろう。
もちろん、壊させはしないが。
【飛神盾】に衝突した【竜撃吐息】は霧散することなく、その軌道を空へと変える。
「やる」
……と、思わずつぶやいたのは失敗だったかもしれない。
「ふふ~ん! そうでしょそうでしょ!!」
シャアランを調子に乗らせてしまった。
「だから~~」
たたんでいた翼が姿を見せたかと思うと複数の仙気の収束が発生する。
「真面目に戦わないと、今度こそ砦を壊しちゃうぞ」
翼を出すことで何かが変わるのか、それともようやく調子が出て来たのか……仙気の収束速度がさっきの比ではない。
「お前も真面目じゃなかったんじゃないか?」
「?」
俺の言葉にシャアランが本気でよくわからないという顔をした。
さっきと今での色々な違いに気付いていないのか?
「変なこと言ってないで、ちゃんと真面目にね!」
「ちっ!」
【竜撃吐息】×五
【飛神盾】×五
五つの光線に五つの盾。
五つ全てがさっきと同じ結果とはいかなかった。
三つは空へと反らしたのだが、二つが破壊された。
貫通されなかったのは幸いだが、四方八方に飛散した光条が戦場のあちこちに着弾し、爆発する。
ああくそ。帝国軍だけならともかく、ヴァリツネッラ要塞の中にまで落ちたな。
「ああもう!」
そしてシャアランはそんな結果を悔しがっている。
「でも、あとちょっとって感じだったよね! 次はやれそうだよね!」
「……ふうん」
「じゃあ、次もやるよ? いいね? こうなったらパパのその魔法の盾を全部こわしてやるんだか……ら」
【拳斬波】
呑気に喋っているシャアランの側に衝撃波を飛ばした。
「っ!」
反応できなくて驚いてるな。
「うーん、さっきまでは子供のじゃれ合いで許してやれたんだが、これはだめだな」
「……え?」
混乱した顔で俺を見ている。
「そんじゃ、ご希望通りに真面目にやってやるよ。覚悟しろよ?」
「え? え?」
「痛いぞ。最悪死ぬかもな。……いや、まぁ……」
「え、あの……パパ?」
「親ぶりたいわけじゃないが、大人が真面目にやってることを、子供が邪魔したらどうなるかは理解してもらうぞ?」
いや、こういうのに大人も子供もないか。
なーんかイラっとするなぁと思ってたが、その理由が何か分かった。
こいつは遊び気分でここにいるんだよ。
そうだよな。こいつって、生まれてまだ一年も経ってないんだよ。こんな調子だとレイファに仙気の使い方と戦い方ぐらいしか習ってないんじゃないのか?
ばぶー言いながら親の仕事場に乱入してるようなもんだ。
そこにさらに竜としての能力が加われば人間がやっていることなんてただ騒々しいだけの遊びみたいに見えたとしても仕方がないかもしれないな。
当人は遊びのつもりでもやられた周りはそうではない。俺は冗談で受け止められても周りの人間はそうじゃない。
他人に迷惑をかける時は反撃される可能性というものを理解してかけるべきだ。
「というわけで、悪い子には拳骨制裁だ」
いやー俺も昔は親父や近所のおっさんによくやられたな。
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よろしくお願いします。




