250 新米伯爵はやり放題 10
結論。
神も結局人の子。
あ、俺もそうか。
いやいや、どうもまだ神になったという感じがしないからな。
「頼んだよ。ほんとに頼んだよ」
神が必死に頼んでくる様はなんだか人間染みていてなんか嫌だな。
なにを言っても『お前が言うな』に帰ってくるところもまた嫌だな。
「その代わり、今代の風の《勇者》はきっちりと育てておくから。《神》位は無理だろうけど《王》位にはしておくから!」
「いくらなんでも必死すぎないか?」
たしかにミリーナリナは可愛いが、だからって神が惚れるか?
「いいじゃないか、可愛いんだから」
おお、ついに神がむくれたよ。
「まぁいいけどよ。だが、彼女との仲を取り持てとか、そういうのは受け付けないからな」
「そんなのはいらないよ。性欲とかはもう枯れちゃってるからね」
「うえ……」
「見守ることの楽しみがわからないとは、君はまだまだ時間の使い方がわかっていないよ」
「わかりたくねぇ」
ていうかもうこいつとの会話もいいや。
「用はこれでお終いか?」
いいかげん、この時間が止まったみたいな状態も気持ちが悪い。
とくになんか、ここですがり付きそうな勢いで停止している……なんだっけ? ああ、シビリスか? こいつがキモイ。
気のせいかノアールもなんかポーズを決めているようにも見えるしな。
なんだこれ?
「そうだね。まぁ用なんてあってないようなものだからね。後はこの風の《勇者》君を鍛えて遊ぶとするよ。完成をお楽しみに」
「……あんまり期待しないで待ってるよ」
「では、約束を守ってね」
「ある程度な」
「それで十分さ。では」
軽く手を振る姿のまま風神の影とやらは消えていった。
「まったく……自由か」
呆れてはいるものの、暴れられる理由を手に入れて少し喜んでいる自分がいることも確かだ。
「まぁ……《太陽王》だと調子に乗っているあいつに上には上がいるって教えてやるのもありか」
まったく、今回は派手なことをするつもりはなかったのにな。
「おや? 《勇者》がいません?」
「はっ! え? 兄貴!? あれ?」
時間の流れが戻ったようでノアールがシビリスが動き出す。
「おう、終わった。帰るぞ」
「は?」
「え?」
事態が理解できていない二人を放置して帰ろうとしたのだが、寸前に我に返ったシビリスに縋り付かれて、ザルドゥルにやられたこいつの仲間を回収して帰ることになった。
《聖戦士》としてシビリスがどれだけできるようになったのかを見たくて治療は任せたのだが、それなりに使えるようになっていた。
「え? いや、そんなことないっすよ~」
なんか照れ臭そうにグネグネするシビリスに俺は首を傾げる。
こいつ、こんな奴だったっけ?
「俺、あの日から心を入れ替えてちゃんと修行してますから。兄貴ほどにはなれなくても、ちゃんと世間の役に立てる人間になろうって!」
「ああそうかい。そりゃすごい」
正直、こいつの努力話なんかどうでもいいのだが、シビリスが話すのが止まらない。
自分の話だけでなく一緒にいた仲間の話にまで流れ着こうとしていた時、青い髪の女騎士がそれを止めた。
「待ってシビリス」
「うん? どうした? シアンリー」
「そもそも、その方は誰なんだ?」
「え? 誰って……」
「この風神の試練場は許可無き者は入れないようになっている。あなた、許可証は持っているのでしょうね?」
「あっ……」
「え?」
俺が漏らした声でシビリスが唖然とし、他の仲間たちが一気に緊張の色を見せた。
シビリスも狼狽している。
「あ、兄貴……もしかして」
「ミリーナリナが用意してくれる話にはなってる」
「……それはつまり、いまは持っていない。ということよね?」
「……まぁ、そうとも言う」
「あなた。それ、この国の法律を犯しているって自覚はある?」
「ん~」
「まっ……まぁまぁ、みんな、ちょっと待ってくれ」
殺気立つ仲間たちにシビリスが慌てて間に入る。
うーん、この反応からして、女騎士だけじゃなく、他の連中も国が抱えている冒険者なのか?
「いや、待ってくれってみんな! この人はランダルス公爵の恩人なんだ! 許可証はちゃんと発行されてるって!」
「ランダルス公爵家だからって、手順を覆していい理由にはならないわよ。シビリス」
「うっ……」
シアンリーに睨まれてシビリスは何も言えなくなっている。
ヘタレめ。
しかしこの女、ミリーナリナの名前の時にも反応したがランダルス公爵家のことが嫌いなのか?
いや、セルビアーノ商会の悪評を考えれば好きになる理由はないのかもしれないが。
つまりは潔癖な性格なのか?
うーん、どうもそれだけじゃない気がするんだが……。
「なぁ、この女騎士はなんなんだ?」
「それが……」
「私のことを知りたいのなら、まずはご自分が名乗ったらどうかしら? この無礼者!」
シビリスの言葉を遮り、シアンリーが牽制してくる。
「その通りかもしれないな。失礼した、お嬢さん」
俺はタラリリカ貴族風に礼をする。
「俺の名前はアストルナーク・ダンゲイン。タラリリカ王国で伯爵位を授かっております」
「タラリリカ王国の伯爵?」
「ええ。そういうわけで、シビリス君とは縁があるのですよ」
それで、そちらの名前は?
無言の問いに、シアンリーは居住まいを正した。
「私はシアンリー・ファランツ。ファランツ王国の第五王女よ」
「第五王女とは、これは失礼を。……おや、ではザルドゥルとは兄妹ということになるのでしょうか?」
たしかあいつ、王子だったとか言ってなかったっけか?
「母は違いますが」
「それはそれは」
「……しかし、他国の貴族だからと言ってここにいていい理由にはならない。むしろ、いてはならない理由にしかならないと思いませんか?」
そう言ったシアンリーは俺に剣先を突き付けた。
「ファランツ王国の王女として法を犯したあなたを見逃すことはできません!」
「滅びる一歩手前の癖に俺なんかにかまってる暇なんかあるのかね?」
「「「なっ⁉」」」
「兄貴~」
俺の挑発に殺気立つ王女たちと、その間で頭を抱えるシビリス。
「はっ!」
それを見て、俺は笑った。
こういうグダグダこそが俺の望むところだな。
うん。
『庶民勇者は廃棄されました2』の刊行に向けて加筆修正中です。
色々とエピソードが変化していますのでどうかお楽しみに。
また、まだ一巻を購入しておられない方は下のリンクから各種サイトに移動できますのでこれを機に是非。




