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庶民勇者は廃棄されました  作者: ぎあまん


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242/265

242 新米伯爵はやり放題 02

不定期更新中です。


 その後、ラナンシェは『俺が知り合いの富豪に援助を願いに行く』という前提で何をお願いすればいいのかを列挙していった。

 そこからさらに書類の山を片付けていく。

 ダンゲイン伯爵領の中心地であるゲインの町は、納税のための物資集積地程度の役割しかなかった。

 その町がいま大きく変化しようとしている。

 大きな理由は新たな地下迷宮がこの地に誕生したからだ。

 その名は不死王の迷宮。ランザーラ王国で起きたゾンビ禍によって誕生した。と、いうことになっている。

 ちなみに、ランザーラ王国で起きたゾンビ禍を解決したのが俺ということになっている。完璧な事実ではあるし隠す気もないのだが、その時にゾンビ禍を地下迷宮という形で封印したということになった。

 この辺りの真実は微妙なところだが、真実の全てを公表する必要もない。

 俺だって無駄に恨みを買いたいわけでもないしな。

 そんなわけで、この町に新たな冒険者ギルドが作られようとしている。

 今はその建物を建築中で、先んじてやってきた冒険者ギルドの職員は伯爵邸の一部を使って業務を行っている。

 現れたばかりの地下迷宮に最初に飛び込む勇気ある者はなかなかいないが、それでも零ではない。

 それに不死王の迷宮は古代人の地下迷宮ではなく、神々の試練場に等しい存在だという噂をすでに流してある。

 つまり、冒険の報酬が無限に現れる、と。


「もちろん、事実だぞ」


 昼食を一緒に食べているテテフィにそう説明する。

 ルニルアーラの戴冠式があった夜、俺に関係する女たち……とついでにハラストに俺のことをちゃんと説明した。

 俺は《勇者》であり、戦神の試練場の地獄ルートという場所の試練を潜り抜けた結果、《天孫》という称号を得、そして今回のランザーラ王国での一件を経て、その称号が《雷精天荒人神》というものに変わった。

 つまりは神になったのだと説明した。

 そしてラーナ……地獄ルートの最後の試練を共にくぐり抜けたダークエルフ、魔族の首長、大魔王ラーナリングインもまた同じように《天》位を得て《神》位へと昇華していることも話した。

 もちろん、俺が勝手に話したのではなく彼女が自分でそう言ったのだ。

 女たちの反応は色々だった。

 その中でテテフィは目を丸くして驚いていたものの、最後には信じたようだ。


「……それってどういう理屈なの?」

「ん~簡単にいえば戦った際の魔力や生体エネルギーが蓄積されて、それが物質化することで特別な武器や防具とかになるんだよ」


 ただ、それだけだとどう考えても物質化するまで気が遠くなるような戦闘数が必要になると思うが、実際にはそこまででもない。

 もちろん、高性能なものが簡単に出てくることはないだろうが。

 そこには地下迷宮型魔法陣に存在するさらに複雑な仕組みが関係するんだが……説明がめんどい。

 大まかには先ほどの説明で間違っていないのだから、それでいいのだ。

 神になったことで前よりも色々と分かったが、それを言語化するのが難しい。理解はしているが他人に教えられるほどではない、という表現が正しいだろう。


「でもそれって、他の人には教えられないのよね?」


 俺が神になったことに対してテテフィは言う。


「そうだな、言わない方がいいだろうな」

「それなら、あまり気にしない方がいいのかしら」

「だな。気にするな」

「それにしても……あなたは普通じゃないと思っていたけど、普通じゃないことをとことんまで極めるつもりなのね」

「いまさら中途半端なんかしたって誰も喜ばないだろ?」

「他の人のことなんてどうでもいいって思っているのに?」

「ははっ! まぁそうかもな」

「……なんてね」

「うん?」


 テテフィの言ったことに返したのに、彼女には珍しい悪戯めいた笑みを浮かべた。


「あなたは誰かに期待されると応えてしまいたくなるのよ。良くも悪くも。だから、どうでもいいなんて思ってない」

「おおう……」


 久しぶりにテテフィの純粋な言葉を聞いて体が震えた。


「や、やめてくれ、そんな清い心で俺を見るな」

「どこの邪神よ」


 テテフィの呆れ声でその話題は終わり、俺たちは食後のお茶を飲みながら色々と足りないもののことを話し合った。



†††††



 とにかく建材が足りない。

 どこと話し合っても結論はそれだった。

 これから増える住民たちのことを考えれば食糧の補充ももちろん重要だけれど、なによりもまず新しい住民を迎え入れるための箱が足りない。

 そしてその箱を作るための建材が足りない。

 やってくるのは冒険者と冒険者ギルド、そして移民だけではない。

 タラリリカ王国における戦神神殿の大神官ラランシアが俺に忠誠を誓い、ここに移住してきたことで、ここに改めてちゃんとした戦神の神殿を作らなければいけなくなった。

 彼女に付いてきて何人かの戦神の神官もやって来ている。


「木を切るにしたって計画的に切らなければ後々で困ることになる。だから外から買うのが望ましいのだけど」


 食後のお茶に混ざったラナンシェが言いながら俺を睨む。


「いまのタラリリカ王国の状況だと、国外の商人相手にそんな大口の商売はできないから」


 人類領会議によって世界の敵みたいな扱いを受けているタラリリカ王国だが、だからと言って国境が完全に閉じてしまっているわけではない。

 小規模な行商人はちまちまと国境を越えて行き来している。

 とはいえそんな彼らの持ってくるものだけでは国内の需要を満たせるわけがない。


「……つまりは、大きな商機ってわけだな」

「そうね。普通で考えればそんな結論にはならないんでしょうけど、あなたにとってはそうなのかもしれないわね」

「王家はランザーラ領にある廃都市からの宝探しで忙しい。だが、そんなところに残っている食糧なんて怖くて使えない。金はあるがそれ以外は全部足りない。そんな状況だな」


 そこで俺の出番だ。

【雷天眼】で好きに国内外を移動できるし、無限管理庫を使えば大量の物資を簡単に輸送できる。


「さっきも話したがとりあえずファランツ王国にある伝手を頼ってみる。輸送はできてもそんだけ大量の物資を集めるのには強い商人の助けが必要になるしな」

「そうね」

「ああ、そういやニドリナたちはなにしてんだ?」

「いつも通りよ」

「そうか」


 ニドリナと一部の狂戦士たち、そしてラランシアの連れてきた戦神の神官たちが組んで不死王の迷宮に挑戦中だ。ニドリナは一人で挑戦したかったのかもしれないが《侍》に消化できなかった狂戦士たちも地下迷宮には興味津々だったし、戦神の神官たちも同様だ。面倒なのでその世話をニドリナに任せた。

 最初は嫌々だったが、もともと暗殺者を教育し統率していただけあってまとめるのがうまい。いつのまにか狂戦士たちの手綱も握れるようになっていた。

 あるいはなにか、指揮に関係する称号でも手に入れているのかもしれない。《将軍》みたいな感じのを。


「じゃ、あいつらはいいか」


 ニドリナは顔見知りだから連れて行こうかと思ったが、楽しそうにしているからいいか。

 リンザたち侍集団は治安維持のために必要だ。

 とすれば残るのは……。


「お前は行くか?」


 俺は執務室のソファを一つ占拠してうつ伏せに転がっているノアールに話しかけた。


「…………」

「いつまでむくれてんだ?」

「……知りません」

「めんどいなぁ」

「……あの、どうしたんですか?」


 テテフィだけは状況が分かっていなくて困惑している。


「戴冠式のときに剣を一振り献上したんだが」

「あっ、知ってます。なんでも神話級じゃないかって話でしたよね」

「うーん。まぁ、神話級に限りなく近い伝説級ってとこだろうな」

「うちの子をバカにしないでください!」


 俺の言葉に反応してノアールがガバっと顔を上げる。


「……ええと?」

「ああ、その剣って、ノアールから生まれたんだよ」

「えっ!」

「で、ちょうどいいからと女王陛下の戴冠式で献上したのですよね」

「えっ⁉」


 補足したラナンシェの言葉でテテフィは信じられないものを見る目で俺を見た。


「ルナークさんが悪いです!」

「なんで⁉」

「ノアールさんがかわいそうですよ。剣とは言え、ノアールさんにとっては大事なお子さんだったのでしょう」

「その通りです!」

「きゃっ!」

「あなたは理解者です!」


 がっちりとノアールに抱き着かれ、テテフィも困惑している。

 だがすぐに順応して彼女の頭を撫でている。生きた武器だって知っているのに普通に受け入れているのだからテテフィは神に認められるかどうかなんて関係なく聖女である。


「むう……」


 とはいえ、いつまでもノアールに向くれらていても困る。


「……とはいえ、あの剣を俺のところに置いていたところで使わんぞ。俺にはお前がいるし」

「……むっ」


 テテフィの胸に顔をうずめながらノアールが唸った。

 まぁ、他にもすでに創世級の武具も一式手に入れたしな。よほどのことがない限り使うことない。


「女王に預けりゃ、その内いい使い手を見つけてくれるだろうよ。いまならハラストか? 無限管理庫で死蔵されるよりはマシだと思うぞ?」

「ぐう……」


 もう一押しだな。

 俺はふらっと立ち上がると無限管理庫に入り、すぐに戻ってきた。

 手には一振りの剣……太刀を持って来た。


「こいつをお前にやるよ」

「え?」


 俺の動きでテテフィから離れていたノアールがそれを受け取る。少女姿のノアールよりもはるかに長い。


「大太刀竜喰らいだ。神話級の中じゃ一番のお気に入りだな」

「え?」

「お前がそれを再現できるようになれば、俺はもっとお前を頼ることになるぞ」

「…………」

「どうだ?」


 むう……と、ノアールが顔をしかめる。


「そんな……ルナークさん、そういう問題ではないと……」


 テテフィが呆れてそう言おうとした。

 だが……。


「もう、しょうがないですねぇ」

「えっ⁉」


 ついに怒りの表情を崩して涎を零しそうな顔をして大太刀竜喰らいを見るノアールにテテフィが驚かされることになる。

 忘れてはいけない。

 どれだけ少女の姿をしていても、ノアールは剣なのだ。


6月25日に発売されました書籍版「庶民勇者は廃棄されました1」ですが、無事に続刊決定となりました。

とはいえ、長期続刊を期待するにはまだまだ販売部数が弱いとのこと。ですので、よろしければ購入による応援をお願いします。

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