表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
庶民勇者は廃棄されました  作者: ぎあまん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/265

24 怨敵を求める事


 ステンリールによる本格的な魔族追跡が開始され、それに伴って冒険者たちの緊張感も増した。


「それともう一つ、気になることがある」


 足跡を追いながらステンリールが言う。


「魔族の足跡があった辺り、破片が散らばっていただろう?」

「そうだね。それがなにか?」

「思うんだが、おれたちが入ってきた方にしても同じような壊れ方だったし、破片は外側に散らばっていた。これはつまり、同じ奴が壊したって事じゃないか?」

「それはつまり、魔族が壊したって事か?」


 その結論だと、魔族はすでにダンジョンを抜けて人類領に入り込んだということになる。


「いや、それだと足跡のつじつまがあわない。つまりおれが考えているのは……」


 ステンリールの考えはこうだ。

 魔族たちはあの洞窟を通って、地下から人類領に入り込んだ。その洞窟には主と呼ばれるような大物の魔物がいたが、そいつは魔族たちを怖れて逃走。結果的にダンジョンの壁をぶっ壊して魔族たちに道を作ってやるという結果となった。


「その大物が森でうろつき回ったからダンジョンの魔物が抜け出したりしたわけか?」


 なるほど。

 ただダンジョンに穴が開いたからと考えるよりは納得できるものな気もする。


「問題は、その大物がどうなったかだがな……」


 と、ステンリールが言葉を止める。

 おれも気付いたし、ダンテスもそうだ。一拍遅れてケインも気付き、テテフィだけがわからずに慌てる。


 血の臭いだ。


 慎重にそちらに近づくと、そこにはやはり死体があった。

 魔物ものではない。

 人間だ。


「うぇ、ひでぇな」


 死体を最初に確認したダンテスが顔をしかめた。

 おれも確認して、同じ顔になってしまう。

 そこにある死体は四つ。

 そのどれもが体中に穴のようなものを作っていた。


「外側の肉よりも内臓を好んで食べているね。こんなことをするのは……」


 ケインは冷静に死体を調べて原因を特定しようとしている。

 実を言うと、おれの方は一体、こんなことをする魔物に心当たりがあった。


「ルナークさん。もしかしてですけど、この死体の方々は」

「ああ」


 テテフィがなにかに気付いておれを見る。


「たぶんだけど、この前森で出会った先客、だろうな」

「こいつらをやったのは、さっきステンリールが言ってた大物か?」


 ダンテスに質問されたが、そんなことはおれにはわからない。

 わからないけれど、この冒険者と会っていたときに感じていた視線の主が彼らを追いかけてダンジョンに戻ったとかんがえれば辻褄が合う。


「だとしたら、その方がマシなのかな? その大物は外の環境が好きになれずにダンジョンに戻ったのかもしれない。それでここで、冒険者たちと出くわした」


 呟きつつ、死体を確認する。冒険者らしき死体を見つけたら、なるべくギルドの免許証を回収するのが決まりとなっている。

 その代わり、それ以外の所持品に関しては発見者の好きにしていいというのも、セットだ。

 免許証は無事に四人分見つかり、それはテテフィに預けた。これで街に戻れば彼女がギルドに届けてくれることになる。

 さて、後の持ち物だが。

 防具の類はほとんどがダメになっていた。剣士の鉄の鎧には穴が開いているし、他の連中も同様に穴だらけだ。背負い袋は血やら体液やらが飛び散り染みて、中にも浸透していたので諦めた。


 結局、おれは剣士が持っていた剣をもらい、ダンテスとステンリールは装飾品をいくつか、ケインは魔法使いの持っていた書物をもらうことになった。


「せっかくダンジョンに来て、最初に得るもんが同業の死体漁りかよ」


 ダンテスの嘆きにおおいに同調しつつも、得るものがあっただけまだマシだとも思う。


 追跡を再開する。

 魔族はこの死体を調べることなく通り過ぎていったようだ。

 ただ、先に進むほどに追跡は困難となっていく。ダンジョン内はきれいな石床であるため、靴跡に付着し、そして剥離するような汚れがないのだ。いままでは天然の洞窟を進んできたことでそこで土などが落ちた跡を追っていたのだが、段々とそれが少なくなり、そしてついにわからなくなってしまった。


 その間に魔物との戦闘でもあれば血液や体液、魔法の炎で発生した焦げなんかで新しい足跡の素ができたのだろうが、魔物の姿さえも見られない。


 追跡が不可能になり途方に暮れながらも進んでいると、おれたちはとある場所に辿り着いた。


 そこは少し広いが、それよりも問題なのはいままでのような単調な光景ではないということだった。


「お宝部屋ってわけじゃなさそうだな」

「謎部屋だね」

「謎部屋?」


 ケインの言葉に疑問を投げかけつつも、おれは部屋の光景から目を離せなかった。


「ああ、古代人のダンジョンではときどき見つかるんだ。こういう、用途のよくわからない部屋がね。壁や床には謎の紋章だらけで、なにか魔法的な意味があるのだろうけどいまのところ解析に成功したって人は聞いたことないね」

「へぇ……」


 と、感心してる風を装っておれは表情を隠す。


 これ、おれわかる。


 ここにあるのは全て、おれが使う紋章と同じものだ。

 知らない物の方が多いが、中にはわかるものもある。

 そしてわかるものを繋げていくと予測できることがあった。


 これは、このダンジョンの地図だ。

 そしておそらくただの地図ではない。


 設計図……いやそれだけでもない。機能回路図……だけでもない。


「……操作盤?」


 その言葉が頭から捻り出てきて、ようやく納得できた。

 それから口に出してしまったことに気付いてケインたちを見たが、彼らは宝箱を発見したようでそちらに熱中していておれを見ていなかった。

 ただ、テテフィには聞かれていたようだ。

 おれが黙って唇に人差し指を当てると、テテフィも頷いた。


 しかし、ここで紋章が使われているというのはどういうことなのか?


 古代人たちは紋章を知っていたのか?

 いや、知ったから使えるというものではないことを、おれ自身がわかっている。


 ならば古代人というのはおれと同じ『天孫』なのだろうか?


 昔の『天孫』が作ったダンジョンが、古代人のダンジョンとして遺されているということか?


 気になるし調べたいのだが、ケインたちがいるのでそうもいかない。後日、一人で来ることにして、今回は眺めておくだけにした。


 そして眺めているだけで、いろいろわかった。


 この操作盤はダンジョンの迷路やそこにある罠などに干渉できると共に、いまその場所になにがいるかもわかるようになっているのだ。


 ときどき、紋章がじわりと形を変えるのだが、それがそこでなにか変化が起きたという印だ。

 ケインは紋章がわかっていないので、その変化の意味を察することができていないようだが、おれにはわかる。


 このダンジョンの中でおれたち以外で大きく動いているものがある。


 一つはおそらく例の魔物だろう。


 そしてもう一つが魔族だ。


 そして……これは幸運なのかどうなのか、一つはこちらに接近していた。


 しかも、けっこうな速度だ。

 これはどうやら、こちらを見つけられているのだと判断した方がいいだろう。


「おいっ!」


 ケインたちに呼びかける。

 宝箱の中身に興奮している姿は冒険者らしいが、切り替えの早さもさすがというところだ。おれの声で危険が迫っていると理解したらしく、すぐさま武器を構えた。


 そして奴が入ってくる。


 それは直立した芋虫のようでもあり、樹木のような軟体生物とも形容できる姿をしている。

 おれは見たことがないが海という塩水が満ちた場所にはこれによく似たイソギンチャクというものがいるらしい。

 無数にある触手の先は割れ、その中で牙がうねっている。先端部分は口のように閉じるだけではなく、裏返って牙を棘のように屹立させることもできる。

 棘付きの鞭のように振るい、傷ができたところに触手を潜り込ませて中を食っていく。これはそういう生き物なのだ。


「ローパー」


 ケインがその名前を口にした。


 戦神の試練場では十階ぐらいに現われる気色の悪い魔物だ。


よろしければ評価・ブックマーク登録をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ