239 女王の戴冠 04
女王の戴冠式が近づいている。
俺は俺で忙しいんだが、王都は王都で忙しいのでなんやかやと呼び出されてしまう。
転移できるとばれたのは失敗だな。
呼べば来ると思われてしまっている。
というか、王国からタラリリカ王家直轄領になったランザーラのことでの呼び出しが増えた。
そしてその度にさえない顔のハラストを見ることになる。
どうも俺がランザーラにいる間にレクティラがやってきたようで、彼女の息子であることをルニルアーラにばらされてしまったらしい。
その日から彼女がなにか悟ったような目で自分を見るのがつらいらしい。
「僕はどうすればいいのでしょう?」
「知らんがな」
「そんな言い方はないでしょう。あなただって彼女との間に」
「俺はもうばれてるから問題ない」
「くっ……」
話題のルニルアーラはいま戴冠式で着る衣装の調整をしているので男連中は外に追い出されている。
「しかし、お前の母ちゃんにも困ったもんだ。いや、なんか企んでるんだろうなとは思ってたけどな」
まさか俺との間で子供を作るとは。
「あの人は勇者の血筋に固執して歴代のタラリリカ王と接触していたんです。現役の勇者が目の前に試してみたくなって当然です」
「しかし、自分をどうにかするならともかく、子供を作ってどうするんだろうな?」
「そんなこと、僕にわかるわけないじゃないですか」
知らんがなと言った仕返しか、俺の疑問に対してハラストが冷たい。
それはともかく。
あの娘……確かシャオランとか言ったか。
娘なぁ。
あれから【雷天眼】を通してあいつらを探しているが今のところ見つけられてない。さすがに周辺の国全てを把握できていないのもあるが、どうもうまく隠れる方法があるんだろう。
スペンザの変な武器屋に注文していたのが完成したので数は増やせたが、まだまだ足りない。
「……それにしても、ユーリッヒの奴、気張ってるなぁ」
ハラストとの会話が途切れたので【雷天眼】を通してグルンバルン帝国の状況を観察している。
反乱を起こして新しい皇帝になったばかりだっていうのに、もうファランツ王国に宣戦布告をしている。
「人類領会議はグルンバルン帝国の行動を黙認しています」
「あそこはもともと、魔族が関係していない限り発言権はないだろ?」
「そうですけど。……もしかしたら魔導王が帝国に協力しているのでは? という噂もあるそうです」
「ふうん」
それはあり得るかもな。
ユーリッヒは最終的に俺を潰しに来るだろう。
なにしろ、俺があいつが成功したままなんて我慢できないしな。
そして魔導王シルヴェリアは俺を嫌っている。
正確には自分が手に入れられなかった《天》位を持っているから嫌っている。
俺を嫌いな者同士が手を組むというのはあり得る話だろう。
だから別に驚かない。
そんなことよりも。
「最高に調子に乗ってるときにぶん殴ってやりたいな」
「あなたは……」
あいつの侵略の手がどこまで伸びるのかわからないが、あいつの勢力が最盛期に入った瞬間にそれを全力で叩き壊してやりたい。
それはもう、子供が積み木の山を崩す時みたいにいい笑顔を浮かべてやりたい。
「それで、なにか考えているのですか?」
「なにを?」
「その彼への嫌がらせですよ」
「ん~」
「その顔は、考えていませんね?」
「伯爵の仕事だけで頭がいっぱいだっての」
「彼との差が開くばかりですね」
「は?」
「え?」
「はっはっ……そんなもん、俺の圧勝に決まってるだろ?」
なにしろ神だぞ?
しかしそんなことハラストは知らない。
ていうか、俺の周りにいる連中で俺のことを知ってる情報に差異があるよな。
ここらで一度、全部ばらしていい奴を集めて、情報の共有化でもするか。
「たしかに、個人の実力であなたが負けるとは思っていませんけどね」
「だろう?」
ハラストの言葉に俺は頷く。
「しかしでは、社会的地位では負けても構わないと?」
「…………む」
ちっ、痛いところを突いてくるな。
そこで負けるのが悔しいから貴族になったようなところもあるしな。
「いっそのこと、あなたもどこかで国王になってみてはどうですか?」
「むむむ……」
「南の都市国家群はどうですか? ランザーラが通れるようになったので、行くのはたやすいでしょう」
「お前、あそこに俺の故郷があるって知ってるか?」
「おや、そうだったんですね」
「さすがの俺も実の親の前でどやるのは恥ずかしいぞ」
「故郷に錦を飾ればよいではないですか? あそこの政情不安はいつものことという話ですし。いっそのこと、あなたが統一したらどうですか? その地で生まれた雷の勇者がそれを行う。立派な大義名分ですよ」
「……お前、本気で俺をここから追い出したいんだな」
「あなたの力は欲しいですが、あなたの子種はいりません」
「はっきり言いやがった」
「彼女には、せめても家庭ぐらいは普通の幸せを手に入れてもらいたいだけですよ」
「……ていうかその流れだと、俺の国が大国になってタラリリカ王国が属国になるって未来もありえるってことだけどな」
「ぐっ!」
「さてさて俺は女王の愛人か、はたまた女王を妾にする大国の王か。どっちかなぁ」
「もうほんと、勘弁してほしい」
がっくりとうなだれるハラストをしてやったりと笑い、俺は近づいてくる気配に反応して扉を見た。
そこには戴冠式の衣装を着たルニルアーラが立っていた。
「どうかしら?」
「威厳と美しさを兼ね備えた大変素晴らしい姿ですよ。陛下」
「まだ早い」
俺の誉め言葉にルニルアーラは頬を染めながらそう返した。
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「庶民勇者は廃棄されました」第一巻 六月二十五日に発売されました。
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■アニメイト
「冒険者的方向性の違い」
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