233 天の顕現 03
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彼女は空にいた。
黄金を透かす半透明の翼を広げ、燃えるような赤い髪を風になびかせ、暗雲立ち込める雪嵐の中で轟風をものともせずに空にいた。
不可解な光をあちこちから零しながら小刻みに振動する巨城を見下ろしていた。積み木の家のように揺れる巨城にかすかな笑みを向けていた。
「あそこに……いるんだ」
かすかな笑みは口角を吊り上げる確かな笑みへと変わり、鋭い犬歯を覗かせる。
「やっぱり、挨拶っていったらこれだよね」
そう呟き、彼女は胸元に吐息を落とす。
それを皮切りに彼女の前で変化が起きる。
細い光の線が火花を散らしながら縦に横にと渦を巻き、やがて巨大な熱量を秘めた球体となった。
「さあ、どうぞ」
その言葉とともに球体は巨城に向かって落とされた。
†††††
頭上で何かが破裂した。
「やりやがったな! 誰だ⁉」
叫んでみたものの、こっちは動けない。
雷気と死気の融合は佳境に入っている。いま動けば何が起こってしまうやら。
さらに何かをぶつけてきた。
頭上から聞こえてくる爆発音は激しく、届く振動は何もかもがごちゃ混ぜになったこの場所でさえもそれなりに存在感を主張してくる。
大した力の持ち主が暴れているようだ。
「誰だ? ラーナ……じゃないよな?」
彼女にしてはやり方が乱暴すぎる。
では誰だとなると、心当たりもない。
「くそがっ、邪魔するんじゃねぇよ」
そう吐き捨てるのが精いっぱいだ。
なにしろ手が足りない。
いまのところは城を破壊できていないようだから無視するに限る。
「いまは集中だよ。集中……」
ドウンドウンドウン……‼
「集中、集中」
ドウンドウンドウン……‼
「しゅ……うう……ちゅうぅぅぅぅぅぅ」
ドウンドウンドウン……‼
そろそろキレてもいいよな?
なんて、考えていたら。
「させぬ! させぬさせぬさせぬ‼」
「ああもう!」
トラウマに襲われて活動停止になっていたリストまで復活しやがった。
そりゃ、あいつからしたら力を奪われているようなもんだからな。止めに来るのは当たり前。
けどな……。
「こっちは手が足りてないって言ってるだろうが!」
キレた。
邪魔すんなとぶん殴る。たまった鬱憤をぶちまけるその思考だけが先を行った。
その思考とすでに融合して新たな気となっていたそれが反応した。
反応は俺の思考に食らいつき、俺の体を動かす。
ついに天井を打ち破ったなにかと、下から迫ってくるリストをぶん殴る。
もちろん、雷気と死気の融合と吸収は続けたまま。
現実的には絶対に無理なその行動を現実のものとする。
【無限鏡面】
怒りで軋む思考の中で生まれたその言葉は、俺の意識を分断した。
三つに。
†††††
一つの思考は空に。
「邪魔してんじゃねぇ!」
天に向かって叫ぶと、俺を見下ろし邪魔している馬鹿野郎に向けて拳を放つ。
創世級の武具は一切なかった。
冒険者をしているときの格好になっている俺は翼を生やした女を見る。
両手で俺の拳を受け止めたそいつは涙目で笑っていた。
「くぅぅぅぅぅ……効くぅぅ」
「あん? 竜か?」
なんで竜が俺の邪魔をする?
大山脈にこもって天へと至る修行をすることだけが生きがいの連中が、どうしてここに?
「さすがだね! 強いね!」
「あ?」
なんだかうれしそうに笑うのが理解できなくて、俺は顔をしかめる。
「お前誰だ?」
「シャアランはシャアランだよ」
「……で、そのシャアランが何の用だ?」
「ご挨拶!」
「うん?」
「挨拶して来いってママが言ってたから来たんだよ!」
「ママ?」
「じゃあね、パパ! 今度はちゃんと遊んでね!」
「はっ?」
パパ?
…………。
…………。
…………。
…………。
「……まっ、いいか」
なんだかよくわからんことは後回しだ。
†††††
一つの思考は下に。創世級武具を装備した俺はリストを迎撃する。
「やぁぁぁぁぁらせるかぁぁぁぁぁぁぁぁっ‼」
「うるせぇ!」
最初は気取った老執事だったが、いまは見る影もない。
乱れに乱れた灰髪を引き連れたこいつは、別の獣のようだった。
「貴様などにやらせるものか! 貴様などに!」
死の聖霊から引き離されたリストはまともに力を発揮できないようだ。
もはやただ創世級武具を振るうだけの戦いとなっているが、それでも武具の格がそのまま威力となる。
そもそも、死の聖霊が味方しなくなったからって全ての力が失われたわけじゃない。《勇者》の称号によって象徴化された力が使えなくなるだけだ。あるいはそこに紐づけされているかもしれない《天》位の力も使えなくなっているかもな。紋章術とか。
だけどそれ以外にも称号は持っているはずだ。例えば俺なら《剣聖》《拳聖》《武聖》とかの感じで。
リストももちろんそれを持っているだろう。
だから戦えている。
そしていまここにいる俺はたぶん、本物の俺の中から《剣聖》が分離した姿のはずだ。
上へと向かったのが《拳聖》の俺。
【無限鏡面】とはつまり、称号に実態を与えて分離させる技法。実体付きの分身を生み出す秘術だ。
「わけがわからんね」
リストと剣劇を演じながら呟く。
なんでいきなりこんなことができたのか、実際、よくわかっていない。雷気と死気の混合気をすでに一部吸収したからできたのだとは思うが、それなら出来上がった力は一体なんだったのか?
目覚めよと聞こえてくる声はその力に引き寄せられ、そして【無限鏡面】を可能にしたのか?
お、《拳聖》の俺が戻ってきた。
そのまま俺と合流し、これで俺は《武聖》となったわけだ。
ていうか、リストがぎゃんぎゃん喚いてうるせぇ。
「貴様に何がある⁉ ただ成り行き任せに生きているだけの貴様がこれ以上先に進んでどうしようというのだ? 使命感などあるまい! そんなものが力を手に入れてどうしようというのだ? 大人しく、道を開けろ!」
「やかましい‼」
「がっ!」
くだらんほざきなんかしてるから隙が出て来てるじゃねぇか。
「負けそうだからって口で勝とうとしてんじゃねぇよ!」
そういうのはユーリッヒのクソ一人で十分なんだよ。
「生きてるから生きてんだよ。生きるのにそれ以上の理由がいるか! 勝手に呼び寄せといて勝手に負け犬になったんだろうが! 自分で勝手に自分の道を塞いだだけの間抜けが吠えてんじゃねぇ」
「なっ! ぬう……。うっ!」
言い返せずに呻くリストがいきなり自分の胸を押さえて呻きだした。
「ぐっ! なっ! これは……」
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