211 太陽の階段 01
「庶民勇者は廃棄されました」第一巻6月25日発売です。
タラリリカ王国を襲った東西国境の災難。
本来なら、人類領会議はこの作戦でタラリリカ王国を殲滅させる腹積もりだった。
だが、そうはならなかった。
西のランザーラ王国。
東のキメラ軍団。
そして中央では反対派貴族の反乱。
これらに乗じて人類領会議によって集結させた各国の軍が攻め入る予定だった。
だが、そうはならなかった。
各国の足並みがそろわなかったことも一つの理由だ。
南ではオウガン王国で王太子が起こした不手際で大きな内政問題が発生し軍を出せず、武王を擁するエクリプティオンは海獣の異常発生を理由に動かなかった。
勇者を喪失したばかりのザラン連邦も国軍の再編成を理由にし、ファランツ王国も勇者ザルドゥルの治療を理由にした。
そしてなにより、彼らが動いたとしても道を作ることができなかった。
それらの諸国がタラリリカ王国へ、人類領会議の所有する大歓楽都市ザンダークへ入ろうと思えば必ず通らなければならない国がある。
それがグルンバルン帝国だ。
その帝国が今、内乱に入っていた。
突如としてクォルバル侯爵家を継承した太陽の勇者ユーリッヒ・クォルバルは即座に軍を起し、グルンバルン帝国の首都グンバニールへと侵攻を開始したのだ。
突然の行動とはいえ、一貴族の反乱に後れを取るような帝国軍ではない。グルンバルン帝国皇帝アイドナッハは即座にクォルバル侯爵軍の討伐を命じ、周辺貴族に侯爵領の切り取りを許した。
だが侯爵領に隣接する貴族たちがクォルバル侯爵に呼応し、討伐軍に抵抗を始めた。
さらに皇帝直轄軍が侯爵軍との最初の衝突で敗北するとさらに他の貴族たちまでもがクォルバル侯爵に味方するようになる。
この貴族たちの動きにはグルンバルン帝国に隣接するファランツ王国がクォルバル侯爵支持を表明したことが後押しとなったのは明らかだ。
クォルバル侯爵領とファランツ王国は帝都を挟んで真反対の位置にあり、侯爵軍に集中すればファランツ王国からの援軍に対処できなくなる。
人類領一の大国を誇っていたグルンバルン帝国は、こうしてあっさりと崩壊の兆しを見せた。
その後、皇帝直轄軍は撤退を繰り返しながら三度侯爵軍と衝突したが、そのすべてに敗北した。
逆に侯爵軍は勝利するごとに周辺貴族からの助力を得てその規模を増していき、帝都を包囲するに至る。
そして今日、帝宮に侯爵軍が足を踏み入れた。
「おのれ」
玉座で待ち構えたアイドナッハは侵入してきたその男を睨みつけた。
十万に達しようかという軍を率いておきながら、謁見の間にやってきたのはただ一人だった。
そして皇帝を守る騎士の数もわずか十数人。
かつては謁見の間の端から端まで隙間なく並んでいた貴族、騎士、文官たち……その全てがいまはここにいない。
「なにを考えている! ユーリッヒ・クォルバル‼」
「なにを、とはまた悠長な質問だな。先帝陛下」
皇帝の激しい問いをユーリッヒは涼しく受け流した。
全身を守る白い金属鎧は薄暗い謁見の間にあってもその輝きが焦ることはない。強力な力を宿し、自ら光を生んでいる証拠だ。
外した兜を左腕に抱え、晒された素顔には汗も浮かんでいない。
「勇者が興した国を勇者が後継する。別におかしな話ではあるまい?」
「世迷言を。もはやそのような時代ではないことぐらい貴様も承知しているだろう」
「なるほど。では、単純な力によって貴様は滅ぼされたとしよう」
「ほざけ! ここに来て一人になるとはな! 慢心のツケを払うとよい!」
皇帝の言葉で騎士たちが一斉にユーリッヒに向かう。
皇帝の近辺を守護する親衛騎士たちだ。その実力が並以下であるはずがない。
肉体強化の魔法はすでに満ち、忠義の心は主君の苦境に常ならぬ力を生み出し、全身鎧をものともしない速度でユーリッヒに迫る。
「どうであれ、もはや私の大義の前には貴様の処遇などどうでもよいからな」
金属の砲弾にも等しい突進を前にユーリッヒは静かに手を向ける。
瞬間、光が生まれる。
その光が超速の一撃を放とうとしていた親衛騎士たちを弾き飛ばし、床に転がした。
「見るがいい。これが私の大義だ」
「なっ! おお……」
あまりの事態に残った親衛騎士たちの表情がひきつり、そしてアイドナッハは茫然とした。
ユーリッヒの周りに光の紋が生まれていた。
差し出された手の前に、彼の両翼を守るように、そしてその背後でまさしく威光のごとく。
彼の金色の髪は光に溶けて輪郭を失い、淡く燃え上がる金色の炎の冠となっていた。
「貴様……“王”位を取ったか!」
「その通り、私こそが太陽王ユーリッヒ・クォルバル。なればこそ、もはや只人の皇帝の下にあるなど、ありえないことだ」
「ぐ、ぬ……」
勇者は神に選ばれた存在だ。
ゆえに多くの国はその始祖に勇者を据えた。勇者が興した国であるならば、つまりは神に認められた国家であると、それがその国が存在する大義名分となるからだ。
そうして人々が定めた王と、ユーリッヒの持つ“王”位は違う。
それは勇者に選ばれた者が登る次の階梯。
それより上が存在するのかは誰も知らない。
しかし、“王”位を持つ者は他にも存在する。
人類領会議唯一の所有地、大歓楽都市ザンダークの都市長を務める魔導王シルヴェリア・サーベイナス。
南方の国、エクリプティオンの国王、武王アルデバニーヤ・エクリプト。
人類領の長い歴史において“王”位を持つ者は少ないながらも現れ、勇者を超える力をもって人々の上に立ってきた。
ならば、ユーリッヒが新たな“王”位保持者となったのならば、貴族たちの素早い変わり身の理由がもわかる。
「さあ、どうする先帝? ここで膝を付くか。それとも権力に固執した愚か者として歴史に名を残すか?」
ユーリッヒは氷の表情を崩すことなく玉座に告げる。
そう。
もうユーリッヒは皇帝アイドナッハを見てはいない。
彼が遮る先にある玉座しか見ていなかった。
「どうする騎士たちよ。古き忠義に従って滅びるか? それとも新たな栄光を共に進むか?」
「…………」
親衛騎士たちは黙って剣を……構えた。
「惜しいな。良い忠義は得難いものなのに」
ユーリッヒは彼らを惜しみ、そして剣を抜いた。
アキバblog様にて「庶民勇者は廃棄されました」1巻の記事が掲載されました。
http://blog.livedoor.jp/geek/archives/51584668.html
第一巻発売に向けて6月中から発売日6月25日周辺まで不定期ながら更新していきたいと思います。
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