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庶民勇者は廃棄されました  作者: ぎあまん


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20 テテフィに怒られる事


 あの後、テテフィに怒られた。


「ちゃんと断ってくださいよ」


 食事へと向かう道すがら、テテフィはそのことでおれを責めた。


「だけど、ギルドに許可もらって交渉してるって言ってたじゃないか。それってもう半強制で参加ってことなんじゃないのか?」

「危険な任務に急造のパーティで向かうのは死亡率が高いのでギルドでは推奨してません。ですが、パーティに補充が必要であればその能力を有する者に声をかけることも止められないっていう建て前です。上からは断っても良いって言われてたんですよ」


 なるほど、おれの早合点だったって事か。


「それなら、さっさと断ればよかったじゃないか」

「断ってたのに相手が納得してくれなかったんです!」

「へぇ」


 それはまたおかしな話だとおれも思う。


「ていうか、あいつらって有名な冒険者だったのか?」


 とりあえず自分の生活を落ち着かせることばかり考えていたせいで、冒険者ギルドに通っていながら同業の噂にはとんと疎いのだ。


「それなんですけど……」


 おれの質問にテテフィは言葉を濁らせる。


「タラリリカ王都では有名な方々のようですが、スペンザに足を伸ばすことはほとんどないそうで、こちらではあまり知られていません」

「なんだよ。地元でもない連中が偉そうにしてたってことか?」

「だから、ギルドも少し扱いに困っているみたいです。今回のあの人たちの指名依頼というのも王都にある冒険者ギルドの方に貼り出されたものだそうで」


 ギルドというのは言葉を変えると組合……つまり、同業者による助け合いを目的とした組織だ。だからギルドと名の付く組織は冒険者だけに限らずいろいろとある。


 そしてそれらのギルドはほとんどの場合、それぞれの都市でのみ機能している事がほとんどだ。


 冒険者ギルドはそれぞれの国家内では情報を融通しあっているが、国外のことまでは対応しきれない。

 そして同じ国家内のギルド同士だからといって全てを共有しているわけでもない。


「王都周辺で活躍してる奴が、いきなりスペンザに来て仕事するから人材を紹介しろって言ってるのか。……無茶苦茶、なんだよな?」

「みたいですね。わたしにしたところで、もはや神官ではないのでお役に立てないと何度も言ったのですが、回復魔法が使えれば良いの一点張りで」

「ふうん。……なんだか、意地でもテテフィを連れていきたかったみたいだな」


 まぁ、おれもその雰囲気を感じとったから、同行させろと条件を出したのだが。


「……もしかして、帝国からの」

「それはわからない」


 テテフィはクォルバル家とその関係者がいまだに彼女を諦めていないのではないかと心配しているのだ。

 それはないと思うのだが……実際にはどうなのかわからない。


 打てる手は打っておいたつもりだ。


 追っ手の騎士たちは二人ほど生かして帰したので、どちらかはちゃんと報告しただろう。

 さらにもう一手として、スペンザの街にある太陽神殿で神官の称号が失われていることを正式に確認もさせている。


 吸血鬼に襲われたテテフィが生き残っていると知ったとしても、吸血症によって神官として……聖女としての資格を失っていることが他国の太陽神殿に確認されてしまっているのだ。

 そんな彼女をいまさら捕まえて勇者の聖剣に捧げるようなことはしないだろう。


「わからないが、こんなめんどうな手順を取るものかな?」


 わざわざ他国の冒険者を使って離れたところにおびき出す。冒険者の仕事は危険なものが多いので、依頼中に死亡したといえばそれで納得してしまうこともおおいだろう。


 だが、わざわざそんな面倒なことをするものだろうか?


「それも……そうですね」


 おれの疑問を晴らす術はなく、テテフィも納得いかないながらも理解するしかないという顔をするしかなかった。


 道を進んでいたおれたちは、テテフィが同僚に教えてもらったという店に入った。チーズたっぷりのグラタンが美味しい店だそうだ。


「まぁ、ともあれ、なんだかんだで生活も落ち着いてきたよな」

「そうですね」


 料理の前にワインで乾杯しつつ、おれたちはしみじみと頷く。


「そういえば、お金が貯まったって言ってましたけど。無理してませんよね?」

「嘘じゃない。ちょうど明日支払いに行く約束をしたところだったんだ」

「なら、いいんですけど」

「ていうか、テテフィの装備はどうするつもりなんだろうな」

「それは、あちらが用意してくれるそうです」

「へぇ、そいつは豪気だな」

「でも、わたしは……」

「うん?」

「わたしは冒険者になりたいわけではないので」

「ああ、そっか」


 どうもテテフィは、おれと共にした逃避行で自分には冒険者としての資質はないと思い知ったらしい。

 そこで日銭を稼ぐつもりで採集などの簡単な仕事をこなしつつ、就職先を探すつもりだったところギルドに受付として雇われた。

 彼女としては落ち着くところに落ち着けた、というところだろう。


「ルナークさんのお手伝いなら喜んで引き受けますけど」

「そうか。悪い。おれが早合点したせいで」

「いえ、それよりむしろ、またわたしがご迷惑をおかけしたようなものですし」

「いや、それはどうなんだろうなぁ」


 どうもその部分には疑問が残るのだが。

 まぁしかし、ここまで来たら奴らと行動を共にしてとことんまでその腹の奥を見るしかない。


「危険があればおれが守る。心配するな」

「それは心配してません。ルナークさんは強いですから」


 テテフィが微笑みを浮かべたところで、注文していたグラタンが来た。

 焦げたチーズの匂いに食欲を刺激され、おれたちは改めて乾杯したのだった。


「そういえば、今朝、なにか言いたげじゃなかったか?」


 おれが聞くと、スプーンに乗せたグラタンを吹き冷ましていたテテフィは思い出したのか目を見張った。


「そうでした。ルナークさん、あの森に行ってなにかありませんでした?」

「いや、とくになにも?」

「そうなのですか?」


 と、おれを見るテテフィの目は疑わしげだ。


「いえ、最近、あの森の周辺で魔物被害が増えていまして。採集を生業にしている冒険者の人たちがあの辺りに近づきたがらないんです」

「へぇ……」


 だからあの依頼は報酬がよかったのか。

 納得し、そして後悔する。

 それならあの辺りの採集仕事を全部引き受けてしまえばよかったな。


「被害の中心地があの森なので、おそらく森でなにがしらかの変化が起きて魔物が移動しているのではないか、というのがギルドの予想です。それで、その依頼をギルドからの依頼として貼り出すか、太守に進言してそちらからの依頼としてもらうかと話し合っていたそうなんです」


 ほどよく冷めたと思って口に入れたグラタンは、しかし中にまだ熱が残っていたらしい、テテフィがはふはふと悶える姿を見ながら、おれはもう少し冷まそうとワインを口に含む。


 テテフィはそんなおれを見て、少し恨みがましそうに睨んでから、同じようにワインを飲んで舌を冷やした。


「……そんなときにあの人たちが現れたんです」

「うん?」


 あの人たち。

 ということはあの冒険者たちか?


「あいつらか?」

「はい。あの人たちはあの森の調査に来たんです」



†††††



 約束の日になり、おれは剣を吊るし、背中には様々な道具が入ったリュックを背負って集合場所である冒険者ギルドの前に到着する。


「おはようございます」


 おれのすぐ後にテテフィがやって来た。彼女にはおれが来るまでは集合場所に来るなと言っておいたので、どこかで様子を見ていたのだろう。


 おれが来る前にテテフィを攫っていくというのを危惧しての助言だったのだが、奴らの方がまだ来ていなかった。


 テテフィもおれと同じように冒険者らしい格好となっているが、彼女のものはどうやら新品ばかりのようだ。

 それに対し、おれのは中古品ばかりである。まぁ安さ重視で選んだから仕方がない。


「これが終わったら、全部差し上げます」


 とテテフィに言われたのが少し情けない。


「まぁ、無事に終わったらな」


 そんなことを言っていると連中がやって来た。


「おいおい、薬草採集にしては立派な装備じゃないか」


 ゴツイのがおれを挑発してくる。

 あからさまな挑発なのだが、どうしても無視できない。


「そっちは重装備だな。大丈夫か? そんな装備でちゃんとゴブリンから逃げられるのか?」


 むしろ、向こうが怒って殴りかかってきてくれれば正当防衛を言い張れるのになと思うのだが、ゴツイのは顔を真っ赤にはするのだが手を出してこない。


 そんなおれたち二人を優男は無視している。


「さあ、出発しよう」


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