192 ダンジョン完成
一夜明けて。
さて、こんな楽しくないところに長くいられるわけもなく、俺は仕事モードに入ったラナンシェとリンザに残りのことは任せて隠れ家へと戻ってきた。
できる女ラナンシェが王城の装備室から【交信】が使える魔法道具を借りだしていたので離れていても問題はない。
ていうか戦争以外で俺が役に立つと思うなよ。
俺がいない方が雑務は順調に片付くだろう。
隠れ家へと戻ったのは、ルニルアーラと話し合ったことを形にして防衛装置用のダンジョンを完成させるためだ。
警備用の魔物として、現在は兎に似ているがいざ襲われてみれば身に纏った真空の刃で襲いかかる首狩り兎や、野ネズミに似ているが戦いになれば仲間を群れで招集し巨獣の真似をして戦う物真似鼠を配置している。
首狩り兎は舐めていたら本当に一瞬で死ねるし、物真似鼠は戦闘になればとにかく目立つので警報装置としては最適だ。
この上でさらに狼に似た魔物である影狼を配置する。
こいつは無数の狼がいるように見えるが、実は一匹という魔物だ。
だが、その本体は影を通して自分と分身の間を高速で行き交っているため、討ち取ることはかなり難しい。
そして影にももちろん、攻撃能力がある。
対処できなければ減るどころか増え続ける影の狼に襲われ続けることになる。
首狩り兎と物真似鼠はすでに配置しているので、これから配置する影狼のことを隠れ家の周囲を守っている警備隊の隊長に話す。
うさんくさそうに話を聞いていた隊長は、俺が影狼を出すとさらにうさんくさい顔をした。
信じようと信じまいとどっちでもいいがね。とりあえず手は出すなとは注意しておく。影狼はお前たちぐらいなら全滅させられるぞ?
鍵の件は当人たちがやって来なければ機能のテストができないが問題はないはずだ。
残るはお互いのすれ違い対策だが……それはここでの話し合いを望んでいる者同士で話し合ってもらうとしよう。
俺もずっとここで山小屋の管理人みたいな真似はやってられないしな。
とはいえラーナとは会いたいので、転送装置が起動した際はおれに鈴の音が届くように調整する。
後はどこでも使える持ち運び可能な簡易転移装置を作れば俺的な利便性は完璧かな。
しかしあれだな。
いつかはがっちりと本物のダンジョンを造ってみたいな。
まぁ、それになんの利点があるんだ? っていう疑問が残るが。自分で宝を配置して挑戦者たちに持っていかれるだけならただ損するだけだ。
なにか旨味があるから古代人たちもダンジョンを遺していったのだろうが、さてそれはなんなのか。
いや、俺が導いている答えが正しいなら、そもそもダンジョンという形である必要がないのだ。
ああ、旨味と言えば……と俺は隠れ家から少し離れた場所で少しばかりの細工をした。
まぁ、ちょっとした実験だ。
結果がわかるのはまだ先だな。
夜は隠れ家でイルヴァンとノアール相手にダラダラと酒を飲みながら過ごす。
飲みながら、これからのために魔力発生炉をいくつか作り、それに細工を施していく。
出来上がった端から無限管理庫に放り込んでいると二人共が俺に物問いたげな視線を送ってくる。
「それをどうなさるおつもりなんですか?」
「俺の目的がなにか知ってるか?」
「たしか、魔導王を泣かせる、でしたよね?」
「……まぁ、それもあるな」
だが、そんなことよりも大きな目的がある。
そんな目的は、俺が目指しているより大きな目的の過程で成し遂げられてしまうに違いない。
それはつまり……。
「ラーナに勝つことだ」
そしてそれには、ラーナの至った段階に辿り着く必要がある。
魔力発生炉を我が身に宿して魔力量を上げるだけでは追いつかない。
そんな小手先の技ではなく、もっとおおきな仕組みを作り上げなければラーナの実力に追いつくことはできない。
そのために必要なのがさっきから作っている細工物だ。
ここに来る途中で買っておいた柵用の鉄の棒を力任せにねじ曲げていって掌大の球を作り、その中に魔力発生炉を収めたものだ。
さらに鉄の棒には紋章を打ち込んでいく。
実験が成功したらもっと良い素材を探すつもりだが、いまはこんなもので良いだろう。
「それで……その球ではなにをするつもりなんですか?」
ノアールの目は鉄球に対しての好奇心ではなく食欲を見せて輝いている。
迂闊に手を離したら次の瞬間にはノアールの口の中……ということがありそうだ。
こいつを食べたらどうなるかな?
ちょっとばかし興味があるが……。
「この前食あたりをしたばっかりだろうが?」
「むう……」
蟲人との戦いで起こった食あたりは、ノアールが一度に吸収できる上限がそこにあったということを示しているはずだ。
だとすれば、魔力発生炉を食わせるというのは、いまのノアールには危険だろう。
ノアールは名残惜しげな視線を鉄球から離さない。
この視線があるから、さっきから一個作る度に無限管理庫に収めているのだ。
「しかしそれなら、魔導王を泣かす方法は見つけたのですか?」
「いんや」
「だめじゃないですか」
「最短の手段はザンダークを一気に焼き尽くすってのがあるな」
あいつだっていきなり本拠を焼かれたら泣くだろ。
そもそもただ殺したいだけなら殴り込みをかければいいだけである。
魔導王だけでなく、ユーリッヒに対してもそうだ。
だが、そうはしない。
どうせなら連中が最高に調子に乗っているときに潰してやりたいじゃないか。
あるいは企みのことごとくを妨害した上で奴の周囲を丁寧に踏み潰し、身一つ、絶望しか残っていない状況まで持ち込むか。
復讐の仕方には色々ある。
いまの俺にはそれを冷静に吟味するだけの余裕があるのだ。
とはいえ、目障りだから一気に潰したいという欲求もちゃんとある。
「そんなことをしたら、また恐れられることを恐れなければならなくなるんじゃないですか?」
「それな」
「いいんですか?」
「それがどうもわからん」
別にいいんじゃね? と思わないでもないんだがな。
「恐れられすぎたら身動きが取りにくくなるのではないですか?」
鉄球への食欲を振り切れないままノアールが言う。
「ああ……そっちか」
監視が付きまとうのは確かにめんどうだな。
それに国内外全ての移動で許可が必要になったりするかもしれない。
しかし貴族になった時点で国外での活動には制限がかかったと思うべきだし、国内を見直す余裕ができたらまた政権闘争とかも起きるんだろうし、下手に力を隠しておくぐらいならたっぷりと見せつけて「俺に下手なことをしたらわかってるね?」な感じで周りを威圧する方向に持っていくのが理想ではなかろうか?
ていうか、ラーナの手法がまさしくそれだよな。
「……まぁ、ザンダークを焼くのはひとまずやめとこう。準備だけはしておくが」
ザンダークに秘された魔法兵器がタラリリカに使われる雰囲気を見せたときにそれ以上の攻撃で破壊する。
それが一番、楽しい報復方法だな。
鉄球作りが一段落したところで、次だ。
今夜はすっかり物作りの気分だな。
無限管理庫に入って引っ張り出してきたのは腕輪だ。ミスリル銀を基本として細かい装飾が施されている。絡み合う薔薇蔓なのだろう。葉はエメラルド、花弁はルビーを加工した物で作られている。
特に魔法的な能力が隠されているわけではない。
どこで手に入れたのかも覚えていないが、たぶん地獄ルートの初期だろう。無限管理庫がなければなんの能力もない物なんて全力で放り捨てていただろうが、無限管理庫があったからとりあえず入れとけってことで残っていた……という感じに違いない。
そしてそのまま換金することすら忘れていた腕輪に今回は細工する。
といってもそれぞれに能力を再現した紋章を打ち込み、そしてノアールとイルヴァンに渡すだけだが。
「あの、これは?」
「どういうことですか?」
単純に装飾品の美しさに見惚れた後、二人は訝しげに俺を見た。
「まさか求婚!?」
「え? そんな!」
「どうしてそうなる」
それは俺製の魔法の道具……ということになるのだろう。
現在製造できる魔法の道具とは明らかに製法が違うので迂闊に他人に渡すことはできないが、この二人なら問題ない。
どっちも俺から離れないしな。
それにノアールは武器への追加能力となるだろうことを期待してだし、そしてイルヴァンは……。
「お前ちょっと弱いからな。なんか能力でも足してやらないと」
「ひどい!」
ちょっと涙目になったイルヴァンだった。
よろしければ評価・ブックマーク登録をおねがいします。




