179 貴族への道 1
蟲竜を倒し、魔導王が撤退すれば後は簡単だった。
魔導王が見えないところで魔法による支援を行っていたのだろう。キメラ軍団の動きは目に見えて悪くなり、兵士や冒険者たちでも楽に相手ができるようになってきた。
さらに俺が合流すればもっと早かったろうが、それはハラストに止められた。
「正直、あなたは活躍しすぎました。この辺りに精根尽き果てて休憩でもしてみせないと恐れられるだけです」
「疲れちゃいるが、別に動けないほどじゃないぞ?」
「だからですよ」
苦笑されたが、その本心を隠し切れていない。
こいつも俺を恐れている。
「わかってるよ」
「わかっていませんよ」
今度はため息だ。
「竜の国であなたの強さを見た僕でさえ、今日のあなたは恐ろしかった。なら、普通の冒険者や兵士の常識しかない彼らにはあなたはどう見えました?」
「……頼りになる男だな。女はこぞって「抱いてっ!」と言いに来るに違いない」
「冗談は止めてください」
「いや、冗談ではなく願望だ」
まじめに答えたつもりだがハラストには長々とため息を吐かれてしまった。
わかってるけどな。
俺の力が突出しているのなんてとっくにわかっているし、それを使い放題に使ったら他人からどう見られるか…………。
そんなことは地獄ルートから戻ってきたときにはもう予想が付いていた。
だからまぁいまさらなんだが……ハラストの助言は少しばかり俺の予想を上回っているかもしれない。
「しかし、それじゃあどうするよ?」
「今回は新式の大魔法の実験をしたということにしましょう。ルナークさんはその高い魔力と豊富な魔法知識で製作に協力してもらったということにすれば説得力もあるかと。陛下に許可をいただかねばなりませんが」
「説得力あるか?」
「こういう場合、必要なのは現実と接点があるかということです。あなた個人が大魔法を超える魔法を詠唱なしで使えるなんて言われるより、そちらの方が現実感がありますよ」
「……なるほど」
たしかに説得力があるかもしれない。
そんなわけで休憩がてら俺に動くなと説得した後でハラストは戦場に戻り、俺は元気になったノアールと一緒に砦で大人しくしておいた。
「体調は大丈夫か?」
「はい。マスターが消化を手伝ってくれたおかげでスッキリしました」
「そりゃなにより」
「はい」
「…………」
「…………」
「…………」
「あの」
「うん?」
「もしかして暇ですか?」
「かなり暇だな。なんかいい時間潰しでもないものか」
ここは砦にある上官用の個室で、周りは忙しい連中ばかりだから誰かが来ることもないだろう。
だから寝たふりをしておく必要もないのだが、とはいえやることもない。
ベッドに転がりながらダラダラとするしかない。
「隠れ家の防衛装置でも考える……」
「なら、伽をいたしましょう」
「うん?」
「ではさっそく……」
そう言って服を脱ごうとするノアールの手を掴んで止めた。
なんだろうなこいつ。元は剣のくせにどうしてそう性欲に興味があるのか。
そして興味があるくせにどうしてロリを選んだのか。
蟲人の考えることもわからなかったが、武器の考えることもわからん。
「だからガキに興味はないんだって」
「それはありえない」
「決め付けんなよ」
「確かめてみるまで納得しません」
「おいこら待て」
「刺激してみればわかることです」
「どこ触ろうとしているか」
「ふふふ、体は正直ですね」
「生理現象に正直もクソもあるか」
少女の姿をしていても中身は幻想級に昇華した生ける武器だ。その膂力は常人にかなうものではない。
とはいえ本気を出せば払いのけるのも簡単なのだが……そこはやはり少女の姿というのが効果的だ。本気を出しづらい。
「ちょっと待ったぁぁぁぁ!!」
そんなこんなで揉み合いをしていると、影からイルヴァンが飛び出してきた。
「なにやら楽しそうなことをしている様子。混ぜてください」
「こんなときにかよ」
「さきほどの戦闘でのご褒美もいただいていませんし」
「たいして活躍しなかっただろうが」
「それはそれ、これはこれ」
ちゃっかりしてんな。
「ていうか、なんでいまなんだよ」
「わたしもちょっと鬱憤を晴らしたいので」
「鬱憤?」
「虫ごときに首を絞められたのでイライラしているのです。ですからちょっとスッキリしたいなと」
そんな理由かよ。
いや、こっちだって戦闘明けで体がまだ落ち着いてないんだから、そういうこと言うなよな。
ああそうか、ノアールの誘惑を拒否しきれないのはそっちが原因か。
そんな俺の考えを読んだかのようにイルヴァンは妖艶に笑う。
「それに、ノアールさんは自分でしたいというよりは行為に興味があるのではないですか、なら見せて差し上げればいいじゃないですか?」
「ガキの前でするのかよ。なかなかハードだな」
「子供ではありません。無機物です!」
胸を張って言うことなのか、それ?
「まぁいいか」
体力は余裕だが、思考の方が疲れた。
考えるのが億劫だ。
ノアールは抱かないんだからそれでいいだろ。
なにがいいのか自分でもわからないが、とりあえず俺もスッキリしたいしな。
まぁでも、スッキリしない理由はいまの俺の状況ではなく、魔導王の最後の言葉だろう。
やれやれスッキリするかな、これ?
と、心配した通りやることやってもスッキリしなかった。
キメラ軍団との戦いが終わるのとほぼ同じぐらいに首都から報せが来た。
極秘の内容として俺に伝えられたのは、国王ルアンドルの死だった。
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