174 東方国境決戦 5
俺だけでの話なら痛打ではない。
隠れ家造りの時に作った魔力発生炉が余っていたので、それを砦に設置してみたのだ。
とりあえずは俺への魔力支援のみで暇があればあれこれ細工するつもりだったのだが、どうも魔導王に見つかって破壊されてしまったようだ。
どういう壊し方をすればあんなことになるのか、あいにくと研究というか経験不足なのでわからないがとにかく爆発した。
砦の西側部分が見事に崩れてしまっている。
……怪我人とか出てなきゃいいけどな。
「やれやれまったく。……余計なことをしてくれるよ」
とはいえ混乱を招いてしまったようだが、砦の攻防戦にそれほどの影響はなさそうだ。
最初から乱戦だしな。
冒険者たちは自分たちのパーティを中心に生き残る方向で立ち回っているようだし、兵士連中はハラストの活躍に鼓舞されている。
全体的に押されているはいるのだが、被害という意味ではさほどではなさそうだ。
ハラストが確実に数を減らしているし、勝利は時間の問題だろう。
なんとかなるな。うん。
「なんだ? もしやあの爆発で支援を失ったのか?」
蟻杖王の声は挑発してるようでもあり、落胆しているようでもあった。
「なに? お前らそんなに死にたいのか?」
「おお! そうよ! 最初から言っているだろう」
「なんでだよ?」
「我らは地下住まい故にな。住む場所が限られているのでな。増えすぎれば自ら間引かねばならん。だが、たとえ必要であろうとも自ら同族の命を断つことはできん。故に戦いを求めて地上にやって来たのよ」
「……死ぬために他人の縄張り荒らすとか、たち悪すぎるな」
人口問題を解決するために他種族に戦争を仕掛けるって……普通は住む場所か食べるものを求めてのものだろうが。
まさか居住空間確保のための間引きとか……考えつかんわ。
ていうか、虫って共食いしなかったか?
してろよ。
「大人しく共食いでもしてろよ」
「貴様……それを本気で言っているのか?」
「人間同士で考えらりゃエグイが、虫同士の共食いなんかしらん」
「蟲人の目でも共食いは醜悪だ」
「ああそうかい!」
呑気にこんなやりとりをしている間にも巨ムカデは俺を跳ね飛ばそうと長い体躯をくねらせているし、俺は【飛雲雷】を使ってそれを避けている。
だがどうして緊張感は足りていない。
その理由は蟻杖王の言葉ではっきりとした。
そりゃ、死にたがっているような奴らの攻撃に緊張感なんてあるはずもない。
当たれば死ぬだろうが、そもそもまともに当てる気もないのだ。
いや、当てる気はあるのかもしれない。
「……ちなみに聞くが、お前らって普段は戦争はするのか?」
共食いしないというなら同種での戦争はないだろう。
だが、こいつらは間引きのために地上に上がってこなければならないという。
ということは……つまり?
「愚問だな」
蟻杖王はもったいぶるように笑う。
「どうしてそんな野蛮なことをせねばならん?」
「やっぱりか!」
最初の戦いからなんか変だとは思ったのだ。
見た目通りに硬いし膂力も相当なものなのだが、戦い方がまるでなっていない。
正直、下手だ。
「天敵もいないとか、そりゃ、地下で増え続けるはずだな」
これなら俺がキメラ軍団を相手にした方が良かったか?
いや、数の暴力はこの程度の戦闘技術は簡単に覆すしな。
問題ないな。
「なにを手間取っている? もしや、最初のあの光はもう出せないというのではなかろうな? いや、出せるであろう? そうか、あれは開戦前に準備したのだな」
「ああん?」
「もしそうであるならば、もう少し手加減せねばならんかな?」
「……どういう意味だ?」
「あの威力の魔法を戦闘中には使えないのであろう? なら、もう少し隙を作ってみせればいいのではないのか?」
「てめぇ……」
個体としての性能の高さ。
蟻杖王の命令で合体して巨ムカデなんて化け物になれるその異常な統率力。
種族としてはとても強い。
強いが……戦いを知らない。
戦いを知らないし恐れもしていないからそんなバカなことが言えるのだ。
ああ、いや、違うな。
生きている環境も違うし考え方も違うんだ。
ここで戦っている目的もバカげているしな。
だからそんなバカなことが言える。
そう……バカなことだ。
「てめぇ、人のことバカにしてんじゃねぇぞ!!」
冒険者連中に侮られても特になにも感じない。
そっちはいままであえて実力をみせなかったからな。
だが、やることをやった上でこんなことを言われたのは初めてだ。
むかつく。
これが挑発だとしたらたいしたもんだ。
いいぜ、乗ってやろうじゃねぇか!
「後悔するなよ!」
【聖霊剣現】・付与・【雷帝】×三・重唱・属性上昇・属性超上昇・【雷鳴轟閃】・術技昇華・【天雷天破】
【聖霊剣現】で剣化させた聖霊に【雷帝】を付与した高魔力によって勇者技の【雷鳴轟閃】を昇華させてやった。
その名も【天雷天破】
解き放った雷撃は巨ムカデを瞬く間に炭化させる。
「素晴らしい!」
これで恐怖におののけばまだかわいいものを……いや、こんなでかい虫がなにしたってかわいくはないか。
なにげにおれの【天雷天破】の影響圏から蟻杖王は抜けだしていた。
翅を展開して空を飛んでいやがる。
「その調子ならまだまだいけるな? まだまだいるぞ。、まだようよう巣の二つ分というところだ」
そんなことを言っている間に穴からさらなる巨ムカデが姿を見せる。
新たな穴を作って今度は二匹だ。
いや……。
地面の爆発がさらに続く。
呆れるとはこのことか?
巨ムカデがさらに六匹追加してきやがった。
合計で八匹だ。
「巣を十も潰してくれれば上々かと思っていたが、これはもっといけるな! さあ、お前の命を賭して我が種の存続に身を捨てよ」
「……やなこった」
めんどくせぇ……。
でかいの一発撃って怒りも覚めた。
魔力に余裕はあるが、「殺してくれ!」とか変なことを言う奴らが相手だといまいち燃えない。
怒りを持続させるのも体力がいるんだよ。
それに……。
「もう俺の出番は終わった」
「なに?」
仕込みはとっくに終わっているんだよ。
地下へ下りたときにぶん投げたノアールはどこへ行ったと思う?
ノアール【真力覚醒】・付与・【上位召喚】土精王・【王獣解放】
主戦場でオーガの部隊を相手に暴れ回ったあの技だ。
地の上位精霊を喰らったノアールは、はたしてどんな姿になっているのやら。
と思ったら新たな爆発が地面で起き、それが姿を現わした。
「むっ……」
蟻杖王もそれの登場に驚いている。
その姿は短い四肢に太い胴体の鼠のような姿をした巨獣だった。
いや、地面から出てきたのだからモグラか。
ただし獣毛は針鼠のそれだ。
そして口が異様に大きく、巨大な牙がこれみよがしに並んでいる。
針のあちこち、牙の隙間にひっかかっているのは蟲人の欠片だろう。
存分に食事を楽しんだ後のようだ。
と、巨獣の毛皮から針の一本がおれに向かって飛んでくる。
槍に等しいそれを掴む。
……なんだろうな。ニドリナにしろイルヴァンにしろ、そしてこいつにしろ。隙あらば殺そうとするのが俺の仲間の基本なのだろうか。
「戻りました」
素知らぬ顔でノアールは針から人の姿となり、当たり前のように【飛雲雷】に乗る。
「地下にいた蟲人は全て食べ終わりました。残りはここにいるものだけです」
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