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庶民勇者は廃棄されました  作者: ぎあまん


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146 そんなことより! 1


 昔のことを不意に思い出してさらに暗い気分になった。

 こういうときって連鎖的に過去の嫌な記憶が出てくるよな。まったく。


 問題もなくグルンバルン帝国を抜け、タラリリカ王国のスペンザへと戻ってきた。

 スペンザに到着したのは昼前だった。

 ハラストはそのまま王都タランズまで戻るというので、すぐに冒険者の宿のおれの部屋で素材やらなんやらを分け合う。


 ザルドゥルたちが持ち帰れなかった分もいただいてきたので、けっこうな量になっている。

 とりあえず武器作りに必要な分だけを確保し、ハラストは残りの処分をおれに任せた。

 ニドリナも同様に武器作りの分だけを確保しておれに預けていく。


 勝手に処分するぞと言っておき、黄金の矢を処分して稼いだ金も山分けしておく。


 その後はそれぞれ別行動ということでおれはスペンザでのセルビアーノ商会を見つけ出し、そこで残りの素材の処分を任せる。

 奴隷の一件で揉めたのはここだ。

 なのでおれの登場に最初は嫌な顔をした連中だが、上級会員の印と大量の素材を見せると一気に態度を変えた。


 どうやらタラリリカ王国への敵対心は貿易にも影響を与えているようで、国外からの物資の流入がかなり減ってきているということだ。

 商会は独自ルートで仕入れることができるが、それとてタラリリカ王国行きだとばれるといつもよりも高い税を要求されることが多く、思うようにはいっていないらしい。


 こんなことになっているのではないかと思って向こうで素材の処理を任せなかったのだが、どうやらうまくいきそうだ。


 もしかしたらおれには商売の才能があるのかもな……などと思ってもいないことを考えつつ冒険者ギルドに顔を出す。


 あれやこれやしていたから日没に近い時間だ。

 やる気もなく依頼札を眺めていると、例の奴隷の一件で知り合ったセリとキファが近づいて来た。


「聞いてよルナークさん、仲間がぜんぜん集まらないんだ」


 戦士のキファが近づいて来るなりそう言った。


「仲間になったと思ったオードバンはいきなりいなくなるし」


 魔法使いのセリもそんなことを言って頬を膨らませる。


「ていうか、君らってそんな口調だったっけ?」


 この前とは違う敬意を感じて、おれは首を傾げた。

 そしてオードバンって誰だよ?


「「だってニドリナさんが強かったから」」


 と二人は声を揃えて答える。

 どうもおれがいない間にニドリナと関わることがあったらしく、それであいつの強さを体験したらしい。

 地下水道の魔物掃討という依頼を複数のパーティでこなした結果、ニドリナの強さはスペンザの冒険者ギルド公認になったということだそうだ。


 それから奴隷のときのおれの動きをいまさら思い出して、おれも強いと改めて思ったという。

 なんだか色々とツッコミどころのある子たちである。


 それでも諦めずにおれへの勧誘を開始する二人をいなしていると、空気がざわついた。


 見れば受付の奥にある職員用の空間から見慣れた姿が出てきた。

 ラランシアだ。

 冒険者ギルドの偉いさんらしい人物に付き添われて出てきた戦神の大神官は、おれの姿を見つけるとまっすぐにこちらに近づいてきた。


「ルナーク、戻ってきていたのですね」

「今日のことですよ。ラランシア様」

「そうですか。それはちょうどよかった」

「ちょうど、とは?」


 なんだか嫌な予感がしておれは顔をしかめた。


「スペンザの兵士たちの訓練に呼ばれていたのですが、こちらのギルドマスターに冒険者たちの訓練も頼まれましてね。ルナーク、手伝ってくれませんか?」

「おれが、ですか?」

「たまには嫌味なく人の役に立つのもいいですよ」

「……なにがいいんですか?」

「いい気分になれます」

「なるほど……わかりました」

「では明日から三日。午前に訓練場だそうですよ」


 そう言い残してラランシアは去っていく。


「あ、兄貴! ラランシア様とお知り合いなんですか!?」


 セリがいきなり兄貴呼ばわりしてきた。


「あっ! そういえば前に聖戦士修行してたって……え? もしかしてラランシア様の弟子なの?」


 二人が騒ぐものだから、冒険者ギルドに残って耳を澄ませていた連中が聞きつける。

 即座におれへの見る目が変わっていくのがわかって、おれは顔を撫でるのだった。




「みんなに見直されるのが嫌なの?」


 夕食の席でテテフィにそんな質問をされた。


「わたしは嬉しいわよ。あなたがすごいことをみんなに知って欲しい」


 そんなことを言ってくれるテテフィはかわいいが、しかしどうにもそんな気になれない。


「ところで、おれってギルドだとどんな評判なんだ?」

「……聞きたい?」

「是非とも」


 テテフィのぎこちない笑みを見る限り、ろくな噂ではないのだろう。


「腕は立つみたいだけど、女癖は悪い。依頼中でも平気で手を出すって」

「手を出したのは一回だけだし、合意だぞ」

「一人働きが好きなくせに姫を独占しているクソ野郎」

「姫って誰だよ」

「ニドリナさん」


 なるほど。

 ていうかなんでニドリナが姫扱いなんだ?

 あんな普段から仮面被ってるような奴が。

 そしてテテフィもこんな場所でクソ野郎なんて言葉を使うとは、ずいぶんと冒険者に毒されてきたものだな。


「……凄いことを知られて、嬉しいことってあるのかね?」


 そもそも、冒険者でいようと思っていた間は自分の強さを見せつける気はなかったんだよな。

 遠慮しなかったのは大要塞に行ってから……つまりあいつらがいたからだ。

 どいつもこいつもにおれは強いと見せつけたいわけじゃない。


 ああくそ、ユーリッヒの言葉が頭から離れないな。

 だからこんな、くだらないことを考えてしまう。


「凄い人ならバカにされずに頼りにされる。誰かに頼りにされるのは嫌い?」

「わからないな。……なにしろ、誰かを頼りにしたのなんて何年も前の話だ」


 いままでの人生で一番厳しい時期を誰にも頼らずに生きてきた。

 利用し合うというのはわかる。

 例えば商会の連中を使うのはそうだ。

 利益という共通事項があればお互いの能力を利用し合える。


 太陽神の試練場でのニドリナやハラストたちの関係もまた違うだろう。


「まぁでも、テテフィに頼りにされるのは嫌いじゃない」


 誰でも……ってことにはならないがね。


「ふふ、ありがとう」


 そう言って微笑むテテフィはぐっと来るものがある。


 だが、彼女に手を出せば束縛の未来があるのはわかっている。


 ここは我慢だ。


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