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庶民勇者は廃棄されました  作者: ぎあまん


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128 光の帝国へ 8


 太陽神の試練場に現われるのは人型の……魔物と呼ぶには少しためらわれる……障害だ。

 総称は陽兵とでもしようか。全員揃って装備が黄金だというのは趣味が悪いが。太陽神の関係者としてはそれっぽくもある。

 城門が開き、陽歩兵が津波のように迫ってくる。正面から受け止めるのはザルドゥルとセヴァーナだ。

 セヴァーナが氷の魔力で強化効果等のある特殊な領域を作り出し、ザルドゥルが弓を撃ちながら指示を飛ばす。

 騎士たちは神官に補助されながら陽歩兵の攻撃を受け止め、魔法使いが範囲魔法を連発して数を減らしていく。


 基本的な戦い方だな。

 対するこちらは……。


「補助とかいるか?」

「いらん」

「いりません」

「お前らちょっとムキになってない?」


「「なってない!(いません!)」」


 なんなんだろうな、こいつら。

 やや呆れつつも、補助役に【下位召喚】で水の精霊を喚んでそれぞれに付けておく。回復薬を喚ぶときに触媒にするか、それとも喚んでから体に混ぜ込ませるかで、その薬効を魔法のように扱うことができるので、水の精霊はいざというときの保険に最適だ。


 まぁ、この二人ならそんなものもいらないかもしれないが。


 ニドリナは元々、『斥候』から派生する『暗殺者』の称号を極めている。たぶん最高位の『死神』を持っているだろうから回避系等や特殊移動の技術は充実しているだろう。


 ハラストは称号としての補佐がどれくらあるかわからないが、仙気の充実は感じとれている。いまの状況ですぐに押し負けることもないだろう。


「となると、おれはどうするかね?」


 なんて考えていると、城壁からの攻撃がおれに降り注いだ。

 どうやら初撃で胸壁を砕いたことで注目を集めたらしい。遠距離からの射撃はニドリナたちには通用していないがザルドゥルたちには通用しているようだ。


 よしなら、あいつらの相手はおれがするとしよう。


【竜弩】状態の黒号からさらに針を連発して陽兵の列に穴を開けると、【蛇蝎】に変化させて鞭になった先を城壁に食い込ませ、自身を城壁の上に引き上げた。


 着地したおれに矢と魔法が撃ちまくられる。仲間への誤射を怖れない猛撃の中、おれはふとした思いつきを確認するため、ひらりひらりと回避を続ける。

【蛇蝎】状態の黒号が勝手に暴れて陽弓兵と陽魔兵を片付けてしまったが、無理して止めるつもりもなかった。

 そしておれの手には陽弓兵の放った矢が残った。

 黄金の矢だ。普通の木製の矢に金メッキをしたものではない。本物の黄金の矢だ。


「小遣い稼ぎができるな」


 おれはぼそりと呟き、黒号に話しかける。最近、こいつとは意思の疎通ができるのでは? と思っていたのでその実験もしてみよう。


「おい、魔法使いだけをやれ」


 黒号が答えたのか、おれの握った柄から短い震動が伝わった。【蛇蝎】状態の黒号がうねり、陽魔兵を次々と串刺しにしていく。

 意思の疎通に成功したようだ。


 そしておれは片手で次々と黄金の矢を確保していく。


 かつて、あの地獄でも同じようなことをした黄金騎士から黄金の剣を奪ったときと同じ要領だ。

 本体である黄金の騎士を倒したとき、その剣をどちらが持っているかで、ともに消滅するか、おれの手に残るかがわかれる。

 つまり、おれがこれを持った時点で所有権がおれに移ったというわけだ。


 藁束で作った盾に大量の矢を打ち込ませてから逃げる……とかいう方法を繰り返せばあっという間に金持ちになれそうだが、誰か思いつかなかったのだろうか?

 そんな不純な心持ちでここに来る奴はいなかったってことなのかね?


 あるいはここを出たときに全て消えてしまうとか?


 それは嫌だな、苦労が無駄になることはよくあるが、だからといってそれに慣れるわけでもない。

 そのことを考えればほどほどで済ませておくに限る……か。


 脇に抱えるほどの束を無限管理庫に放り込むこと十度。無心になるといくらでもやっていられそうだが、これで本当に無駄に終わったら泣けるのでやめよう。


「さて……ついでに色々と試すとするか?」


 例の変な武器屋で購入した様々な武器を黒号に喰わせた結果、さきほどの【竜弩】のように幾つかの形態を手に入れたのだ。

 いままでは使う機会がなかったし、ニドリナたちは城壁の上の陽兵までは対処できない。

 軽く見渡して城壁に登る手段は見つけられなかったので、ここにいる陽兵たちに対処しようと思えば、同じように魔法や矢による遠距離射撃で対応するしかない。

 あるいは魔法などで防御策を講じて無視し城門を突破するか……というところだろう。


 つまり、ここならおれがなにしてもかまわないってわけだ。

 そういうわけで、次なる形態はこれだ。


【変幻盾】


 名前付けに色々と悩んだが、結果的にこうなった。

 初期状態は上半身を隠せるぐらいの円盾なのだが、その厚みはただの盾よりもあり、その中身には複雑な機構が隠されており、変幻自在に姿を変えて攻撃することができる。


 普通の盾としてももちろん使えるが、これはあくまでも武器だ。


 使い方その一。まずは投擲。内部に仕込まれた鎖によって引き戻すこともできれば、そのまま振り回して遠心力でぶん殴ることもできる。盾の縁には刃が仕込まれているのでそれを出せば切り刻むことも可能。


 難点。扱いが難しい。鎖を使って振り回し続けるということがそもそも難しいし、刃が出た状態で引き寄せた場合、最悪こちらが切り刻まれることになる。


 使い方その二。隠し爆雷剣。盾は受け止めた衝撃をエネルギーとして蓄積する機構を持ち、それを縁にある隠し刃の一つに収束させ、打ち込むことができる。他の形態での使用も可能。


 難点。初手が受け身なので主武装というよりは隠し要素。なにより爆発がけっこう近いので危ない。


 使い方その三。斧槍。盾の内部に折り畳みの柄があり、それを組み合わせることで斧槍のような使い方もできる。柄の内部に投擲の際の鎖が隠されているので、即座にそちらへの移行もできる。


 難点。盾に備わった機構のために重量バランスが悪い。


 使い方その四。剣斧。盾そのものが分解し、組み変わり、巨大な剣とも斧ともいえない形のものとなる。重量バランスの問題も解決し、巨大武器の系統の中では使いやすい部類となる。


 難点。爆雷剣に応用される衝撃エネルギーが必要となるため、すぐに使えないこと。


 正直に言えば、着想は面白いが実際に使うにはちょっと……という感じの武器だった。なにより原物は機構が複雑すぎて耐久性におおいに問題があった。こんな場面で全力で使おうものならあっという間に壊れていただろう。さらには血脂や肉片が機構にひっかかろうものならそれでおしまいという残念なものだった。


 だが、黒号にその姿を模させたので耐久性の問題や機構におけるひっかかりは解消された。爆雷剣のための衝撃エネルギーはおれの魔力や仙気で代替できるし、変形にかかる面倒な手間は黒号に命じるだけでお終いだ。


 ならばこんな奇妙な機構はいらないだろうという話になるが、おれがこれに期待しているのは拡張性だ。

 一つの形から次々と他の姿へと変化する。その連続的な変化は黒号の特性を生かすのに必要な中間技能的な役割を果たすだろうと、おれは期待している。


 なにしろこいつを勝手に動かすと、この前の山賊退治の時みたいなキモイ変形しかしないからな。少しは学習させないと。


 そんなわけで【変幻盾】の変形を使いこなしながら存分に城壁の陽兵を黒号に喰わせた。

 イルヴァンも出そうかと思ったが、太陽神の領域で吸血鬼が無事でいられるはずもない。この世界を照らす陽光も本物と同じ力を持つだろう。


 うーん、なんだかんだとあいつの出番がないな。


 そんなことを考えながら戦っていると、唐突に城壁上から陽兵の姿が消えた。

 どうも下でザルドゥルたちが城門を守る陽兵将軍を倒したことで、ここの戦いは終わってしまう仕組みのようだ。


「お疲れ」


 城壁から飛び降りて合流する。騎士たちからの奇妙な視線を無視して勇者二人を見ると、ザルドゥルはなんともいえない顔を、セヴァーナは微かにため息を漏らしていた。


「どうかしたか?」

「いいや。君が城壁の兵を押さえていてくれたおかげで楽に戦えたよ」

「そうかい。そりゃよかった」

「無事に第一の城門は突破できたが、まだまだ先は長い。休憩とドロップ品の整理だな」

「だな。ところでドロップ品の分配は?」

「冒険者のようなことをいうな」

「いまのおれは冒険者だからな。お貴族様と違ってこいつで生活している」

「……そうだな。第一所有権はそれぞれのチームにある。できれば回復などの必要性の高い消耗品は融通しあえるとありがたい」

「了解。それでいこう」


 見回せば傭兵たちの死体の代わりに金貨や素材などの物品が落ちている。魔物の死体が消え、その強さに応じたなにかが残ることがある。これがドロップ品という、古代人のダンジョンや自然の洞窟に住む魔物にはない、神々の試練場独自の旨味だ。


 話し合いを終えて二人のところに戻ると、少し不満そうにおれを見ていた。


「なんだよ?」

「……結局、あなたが一番倒しましたね」


 とハラストが言う。

 なるほど、城壁の陽兵をおれが独占していたのが気に入らないのか。

 だが、知ったことではない。


「誰も城壁に上がってこなかったからな」


 それが全てだ。


「なら、次はそうはさせませんからね!」


 と、妙なやる気を見せるハラストはがんばってドロップ品を拾うのだった。

 ちなみに、集めた矢を確認したらちゃんと残っていた。やったぜ臨時収入。


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