127 光の帝国へ 7
約束の早朝、おれはニドリナとハラストを伴って太陽神の神殿前にやってきた。
「例えばの話だけど……ここで大量の兵士が出迎えてたらどうする?」
「お前を差しだして逃げる」
即答するニドリナはいつもの通りだ。おれはハラストを見る。
彼は苦笑して肩をすくめる。
いつもの爽やかさの奥には前よりも力強さが潜んでいる。
一月ほどだが、グルンバルン帝国の地下に潜むゴブリンたちとの長い戦いは彼の強さに影響を与えたようだ。仙気は大山脈を登った時よりも充実している。
「彼らの冥福を祈ります」
「良い答えだ。だいぶおれに毒されてきたな」
「残念な話です」
日没時の太陽神殿は夜に溶け込むように姿を消している。それは日中の宮殿と競うほどの壮麗さからは想像できないほどの存在感のなさだ。
宮殿の方は夜でも照明を絶やさずにその存在感で帝都の夜を示しているのに。
「太陽は夜には姿を消すのに、神殿だけが自己主張してたらかっこ悪いってことかな? どう思う?」
おれは神殿前で待っていたセヴァーナに話しかけた。
あちらも三人だった。セヴァーナと騎士が二人。彼女は不機嫌を、騎士たちは警戒心を隠すことなくおれたちを出迎える。
「頼みごとの方法としては、良いやり方ではないわね」
「喧嘩を売ってきたから買った。和解を申し出て来たから利用させてもらった。それだけだ」
責めるセヴァーナにおれは誠意のない釈明をする。
実際、帝都グンバニール周辺の治安はかなりよくなったはずだ。そのついでで薬草や魔物素材の市場が一時的に混乱したかも知れないし、混乱の被害者はいたかもしれないが、致命的なことにはならなかった。
できなかったのだ。
実際、帝都で不足し始めたこれらの物資は即座に周辺の都市から運び込まれた。
「さすがは人類領一の広さを持つ国だ。おれ程度がちょっかい出したぐらいじゃビクともしない」
「それで、どうしてあなたがいまさら試練場に? 彼を笑いに来たにしては時期が良すぎるけど」
「それを説明する気はないが、あいつの身に起きてることにおれは関わっていないとだけ言っとく。見つけたら指差して笑ってやるつもりだけどな」
そんなおれの言い種にセヴァーナではなく背後の騎士たちが顔をしかめる。
「セヴァーナ様、なぜ、このような者たちを」
「そうです。このような者をつれて、国の威信が」
「そんな心配は不要です。ザルドゥルも待っている。行きましょう」
騎士二人の忠言を気怠げに振り払うセヴァーナに従い、おれたちは神殿の中に入った。
試練場の入り口は神殿の内部にある。
「これは……」
中で待っていたザルドゥルはセヴァーナを見てほっとし、次におれを見て表情を引きつらせた。
「君がどうして……? いや、これは僥倖なのかな?」
なんて強がりを見せながらおれに近づいてくる。
「きみが邪魔をしないのであれば」
「邪魔はしないさ。生きてなきゃ笑えないからな。……手を出してきたらその限りじゃないが」
「わかっている。彼にその冷静さが残っていることを祈ろう。とにかく、君が来てくれたことで全ての勇者が揃ったわけだ。ユーリッヒを救うのにこれ以上は望めない」
言葉の後半は、おれにではなく不審げな視線を向けてくる部下たちに聞かせるものだった。
それが功を奏するのかどうか。ザルドゥルと一緒にいた連中には帝国出身の者もいただろうし、おれがタラリリカ王国と関係していると思っている者もいるだろう。
実際に関係しているしな。
しかし、国の外に出てみないとわからないことってあるもんだな。
まさか、タラリリカ王国がここまで悪者扱いされているとは思わなかった。
「まぁとにかく、行くなら行こう。いまさらこの程度のダンジョンで苦戦することもないだろ?」
「そうね」
「そうなんだけどね」
おれの言葉にセヴァーナは頷き、
そんなわけでおれたちは太陽神の試練場へと入っていく。
太陽神の試練場は、地下迷宮型のそれではなかった。
以前に行った植物公園という古代人のダンジョンと同じ、露天型とでもいうべき空間が広がっている。
沈まぬ太陽が中天で輝き、それを仰ぐように塔の形をした神殿がある。
そして、それを幾重にも守る城壁。
「太陽神の試練場は攻略型のダンジョンだ」
とザルドゥルが説明してくれた。
それぞれの城壁を守る魔物を倒し、突破の証明を手に入れて越えていく。全ての証明を手に入れた者たちのみが中央の塔に入ることができ、そこで最後のボス、太陽の殉教者と戦う事ができる。
ちなみに、一度使用した証明はその場で消滅するのだそうだ。
「敵は多く、そして統率の取れた動きをする。決して侮るな」
という言葉は、まさかおれに向けたものじゃないだろう。
「中に入ったら別行動とか思っていたが、そういうわけにはいかないな」
道筋は一本しかなく、そして戦いは大多数を相手にしたもの……か。
「入場制限は神殿の利益のためだけじゃなかったんだな」
入場を希望する者に神殿に奉仕させるのが目的だと思っていたし、まぁそれも企んでいただろうが、なにも考えずに入場して死亡する者を減らす目的もあったのだろう。少数精鋭が大好きな冒険者には不向きなダンジョンだからな。
「さて、どうするかな? 連携の話とかまじめにやるべきなのか?」
ザルドゥルやセヴァーナの部下たちはおれが喋るのが我慢ならないという顔をしている。
だからおれは喋る。
「ザルドゥルのところが、斥候一、魔法使い二、神官二、騎士が一。セヴァーナのところが騎士二。で、こっちは騎士一に剣士一。で、勇者が三? とはいえ二人とも前衛で剣を振るって型じゃないな。おれが先頭に立つか?」
「貴様などに我らの先頭に立たせるものか!」
「じゃ、別働隊ということで」
我慢できずに騎士が叫び、おれはにやりと笑い、ザルドゥルが頭痛を堪える。
「ルナークたちは遊撃隊ということで隙を突く感じで頼む。……君のその調子では全部を任せるということにはならなそうだしね」
「そりゃそうだ。全部おれがやったら面白くないだろ? セヴァーナもそれでいいか?」
「ザルドゥルのところは前衛が足りない。わたしたちはそちらに行くしかないでしょうね」
「平和的な配分とはこのことか? 了解。じゃ、そういうことで。始める時期はそっちで決めてくれ」
そう声をかけると、おれたちは少し離れた場所に移動した。
「目算が外れましたか?」
「まぁな。中に入ったらすぐに別行動するつもりだったんだが……」
ハラストの言う通りなので反論もできない。おれは肩をすくめるしかなかった。
「お前の調べ方は甘い。わざと危険なものにフタをして開けるのを楽しみにしているみたいだ」
「わかってるんならあえて指摘するなよ。恥ずかしくなるじゃないか」
「……はぁ」
ニドリナのため息を聞き流し、おれたちは向こうの話し合いが終わるのを待つ。
しかし、ザルドゥルはあの傷の治療を諦めたのか?
どこの国の何番目の王子だか忘れたが、金には困っていないだろう。時間と腕の良い回復魔法の使い手、それと良い錬金術士がいれば傷跡はきれいになくなるだろう。
その時間を惜しんでまでユーリッヒと行動していた理由はなんだ?
「なぁ、どう思う?」
「わかりませんけど、彼に友情に似た感情があるのは確かじゃないですか?」
「友情ね」
「……なにか、言いたそうですね」
「いや、ハラストはなんか経験ありそうだなぁと思ってただけ」
「ありませんよ!」
「そうかぁ? だって騎士団とかかなり男社会じゃないか。ハラストみたいな爽やかイケメンは狙われそうだよな」
「わかる!」
おれの呟きにニドリナが強く頷いた。
「やめてください。……いや、本気でやめてください!」
その熱心な否定が逆に怪しいんだが……まぁいいか。男同士のケツの取り合いに興味があるわけじゃない。
ザルドゥルはもっと貴族的だと思っていたから、それが意外だっただけだ。
「戦闘だけど、おれは支援でいいのか?」
「僕はそれでかまいません」
「わたしもだ」
「じゃあ、遠距離と回復と支援、後衛の役目は全部担当する。うわーい忙しい」
「そんなものは必要ない!」
「ええ、ありません」
ザルドゥルが出撃を告げ、やる気に満ちた二人が前に出て、おれはその後に続く。
おれたちの接近に反応して城壁に備えられた門が開く。
兵士たちが吐き出される。
胸壁の影から弓兵が、魔法使いが姿を見せる。
おれたちが一定の距離に近づくのを待っていたようだ。
おれは黒号を抜き、新しい形態を試してみる。
【竜弩】
この前立ち寄った変な武器の店で見たものの一つだ。クロスボウから弓を取り外し、代わりに竜の頭を模した筒を取り付ける。引き金は引き絞られた弦の代わりに魔法の火種を解き放ち、合成薬の燃焼による爆発が鋼の弾を撃ち出す。
こいつは魔力の爆発を推進力に鋼の弾の代わりに黒号の一部によって作られた針の束を射出する。
撃ち出された針の束は胸壁を打ち砕いて、その裏に隠れていた黄金色の弓兵や魔法使いを穴だらけにする。
「これがおれの支援だ」
そんなおれの宣言に他の二人は嫌な顔をするのだった。
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