116 竜の国へ 15
さて、となるとまた戦いか。
「待て!」
と思ったのだが、身構えるおれをタイコウが手で制した。掌まで猿みたいに赤いな。
「お主の戦いでの強さは十分に理解した。もはやそれを試そうとは思わん」
「……じゃあ、なにをするんだ?」
「問答じゃ」
「問答?」
「うむ、お主の性格を持ってレイファを出し抜ける器であるか確かめる」
「そんなものでいいのか?」
「奴の房中術は凶悪じゃ。その上、儂らの知らぬ時間を錬磨に注いでおるならばどれほどに凄まじいことになっておるかわかったものではない。そんなものに勝つ術があるとすればたかが一日二日の仙気の修行ではない。お主の性格、これまでの人生のみじゃろう」
「タイコウ殿はあなたがレイファの手管に籠絡されることを怖れているのですよ」
「いや、それはわかるんだけどな」
説明してくれたリュウサクには悪いが、それぐらいはわかる。
「わからないのは、どういうつもりでそれを言っているのか、だ」
そもそも、レイファがここに戻るつもりがないのだとしたら、彼女の企みが成功しようがどうしようが、彼らには関係ないのではないか?
「そうなんだけどね」
おれの疑問にリュウサクが苦笑して言葉を濁した後、耳打ちしてきた。
「タイコウ殿は過去、レイファを子孫を残す相手に選んだのだけどね。彼女に拒まれたのだよ」
「はっ?」
「思うに、房中術に興味があったのにレイファが相手をしてくれなかったのを恨んでいるのではないかと……」
「なんだそりゃ」
つまり、玉霊華を渡すことを拒んでいたのは振られた腹いせってことか?
なんだそりゃ…………。
「……いや、理解は出来るんだけどな」
振られるのは、そりゃ、きつい。
まだガキだった頃、ちょっと気になっていた子にいまだにチャンバラしてるような子は嫌いって言われて傷ついたのを覚えている。
そんな程度でもきつかったんだから、性欲丸出しのところを振られるのはもっときついだろう。
しかも竜は性欲が淡白って話だからな。人間に例えたら禁欲主義的な神官が勇気を振り絞って告白したらキモイって言われたぐらいの衝撃を受けたことだろう。
わかる。
わかるんだが……。
「おれのさっきまでの苦労が振られた腹いせってのは納得いかねぇ……」
「振られた腹いせではないわっ!!」
と、叫んでいるが顔を真っ赤にして否定されても真実味がない。
あ、顔が真っ赤なのは猿だからか。
さらになにかぎゃあぎゃあ言っているが、聞く価値はない。とりあえずリュウサクが宥めているので、それに任せて放っておくことにする。
ようやく落ち着いたときには、おれはハラストとともにチョウタンに仙気の練り方を一から教わっていた。
観客席や万夫不当の儀に付き合ってくれた竜たちはとっくに闘技場から去っている。そっけないからなのか、タイコウの我が儘に付き合うのが嫌なのか……。
「ゴホン……」
タイコウが咳払いで注意を引こうとするのをおれたちは冷ややかに見つめた。
「では、試験を始めるぞ」
「結局、なにをするんだ?」
「言ったじゃろう、問答だと」
「覚えてられるか!」
「ええからやるぞ!」
老人(?)は叫び、むりやり話を先に進めた。
「ではまず第一問」
ジャーン。
いきなり金属の楽器が鳴り響き、驚いてそちらを見れば子供のリザードマンがドラと呼ばれる金属の皿のような物を叩いていた。
その表情が少し嫌そうに感じたのは気のせいだろうか。
「ルナーク、汝に問う。汝にとって性行為とはなんぞ?」
「いきなりダイレクトだな」
「うるさい! さっさと答えんか!!」
「うーん……気持ちいいこと、だな」
「なんじゃと? 性行為は本来子供をなすためのもの。それは人間とて変わらぬだろう? それを一時の快楽のみを追求する行為だというのか?」
「おれが快楽をおもちゃにしていることは認めるがね。そもそも性行為に快楽が伴うのは生まれもっての人間の機能だ。つまりはだ。快楽がなければ性行為なんてしねぇとおれたちを作った誰かがそう思ったから付いてるわけだろ? それならそれを楽しんでなにが悪い?」
「む、むむぅ……。では、第二問!」
ジャジャーン。
「そなたの最も愛する女がもう他の女と遊ぶなと言ったらどうする?」
「……そいつはなかなか難しい問題だ。もしもラーナがおれにそんなことを言うなら、おれだって覚悟を決めないといけないだろうな」
「ほほう。殊勝な心がけだな」
「だが、ラーナはおれに遊んで良いと言った。だからたぶん大丈夫だ」
「…………ええい! 第三問!」
ジャジャジャーン。
「なぁ、これいるのか?」
「うるさい!」
なんだか、ドラをならしている子供がかわいそうになって来たんだが。
「第三問! そなたの前に助けを求める女がおる。しかしその女、見目はよろしくなく、またそなたへの報酬として払える金もない。捧げられるのはその体のみ。さあどうする?」
「美女だから善人というわけもなく、逆もまたしかり。その女の事情が助けるに値するなら助けよう。だが体はいらん」
「第四問!」
ジャジャジャジャーン。
「先ほど同じく女が助けを求めておる。今度は美女だ」
「事情によるのは変わらん。だが体はもらう」
「第五問!」
ジャジャジャジャジャーン。
「なぁもう、ほんとにあれやめてやれよ」
「やかましい! これが最後じゃ! 第五問! そもそもなぜ房中術にこだわる?」
「は?」
「仙気を練る術が房中術だけではないと万夫不当の儀を通して理解したであろう。それなのにどうしてレイファの房中術にこだわる?」
「……それは思い違いってやつだ」
「なんじゃと?」
「いいか、まず第一に……」
ジャーン。
「おいそれやめろ。いいか第一に、ここに来ているのはタラリリカの継承問題を解決するためだ」
ルニルが女王になれるのなら、ここに来ることはなかった。
「第二に……」
ジャジャーン。
「おい、マジやめろ、ぶっ殺すぞ」
くそ、あのリザードマンのガキ、嫌々どころかノリノリだった。やっぱり表情がわからねぇ。
「第二に玉霊華はレクティラ……レイファとの交渉材料だ。あいつが本気でこれを欲しがっているなら、渡す前に話を付ける。そうじゃなければそのときはそのときだ。そして最後に……」
…………。
よしやらないな。
ジャジャジャーン。
くっそ……。
ああもういいよ。勝手にしろよ。
「最後に! レクティラの持つ房中術に興味があるのは、彼女がおれの知らない性技の真髄を会得していておれはそれを習いたいと思ったからだ。仙術も仙気もあくまでそのおまけだ!」
そうだよ。
なんかいつのまにか仙術を極めるみたいな流れになっていたけど、違うからな?
あくまでもレクティラの性技に感動して、その技を得ようと思って彼女に近づいたのが最初だからな。
その件がルニルとのことにも絡んできたから何かめんどくさいことになってしまったけれど、技のことを忘れたわけではない。
房中術が即ちおれの習いたい性技であるということが大事なのであって、仙術は二の次だ。
もちろん、仙術がすごいのは認める。
そのせいでおれの使命感はかなりぐだぐだになったからな。
「仙術が……おまけ」
おれの発言が驚きだったのか、リュウサクもタイコウも唖然としている。
「なぁ、リュウサクよ。こやつに玉霊華を託すのは間違いではないか?」
「…………ふっふふふ……はははははははははは!!」
「リュ、リュウサク?」
「ふふふふ……よいではありませんか。仙術至上の我らにはレンファは扱えきれませぬ。仙術をおまけと言いきるこのような男こそ、彼女の企みを超えることが出来るかと」
「しかし、この男の品性、褒められたものではないぞ」
「それに関しては否定できませんね」
「おい」
好き放題言う二人におれはツッコむ。
なにはともあれ、これでここに来た目的は達成できそうだ。
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