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庶民勇者は廃棄されました  作者: ぎあまん


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114 竜の国へ 13


 しかし、暗殺か……。


「いや、あなたを暗殺するなんて無理ですから。それに本意ではありませんからそれは別にどうでもいいんです」

「いや、暗殺される側としちゃ、それはどうでも良くないぞ?」

「いえいえ、この件に関しては帰国した時点で解決しています。僕はそもそも王派閥ですので。王弟派の騎士団長に接近して情報を得るのが仕事だったんです」

「そうか? 僕が王様になれないなら……みたいなこと考えてないか?」

「……やめてください。あなたほどではないにしろ、国王なんて冗談じゃない。僕は影ながら妹を応援するのみです」


 つまり、国王との話し合いの結果をどうやってか知った騎士団長はおれが建国話の竜から契約の更新をされてルニルが継承できるようにされるのを防ぎたかったってことだろう。

 そういえばルニルってよく攫われていたからな。

 あれが魔族との交渉を防ぎたかった他の国家からの刺客だったのか、それともルニルが女性であることを明るみに出したかった政敵か、そういえばはっきりさせなかったな。

 おれとしてはどっちでもかまわない問題だったんだが……そうか、まだ諦めていなかったのか。


 しかしこれで政敵の問題が解決するというのなら、ルニルの女王への道は開けつつあると言えるだろう。

 こうなってくるとさすがに本気じゃなかったとか言っている問題でもない。

 房中術を手に入れるためにも、竜の国でやるべきことをやって玉霊華を手に入れなければ。


 それから三日後。

 おれは竜の国にある闘技場に立っていた。

 とてつもなく広い円形の闘技場を観客席が囲んでいるのだが、それがまた人間のそれとは趣が違う。

 人間用に近い形の席もあるのだが、竜専用の席にいる連中がすごい。細長い翔竜たちは空を飛んで観戦しているのだが、地竜は重なり合うように、というか実際に重なり合って観客席にいる。

 その奥で一番広く場所を取っているのが翼竜たちだ。

 他の二種に比べると一体ごとに形の違う翼竜は、様々な形で威圧感を与えてくる。


 ていうか、姿が色々ありすぎる。

 地竜・翔竜におれが別の場所で出会った竜を加えてできあがったイメージはそれほど違わないのだが、翼竜たちはそこからさらに変幻自在、千変万化している。

 まだ鳥っぽいのはわかる。トカゲっぽいのもいいだろう。

 だが、どうしてサイや象や馬っぽいのが出てくるのはどういうことだ?


「なぁ、リュウサク」

「どうしたんだい?」


 おれは後ろに控えているリュウサクに尋ねた。


「ここに玉霊華の管理者はいるのか?」

「ああ。それならあそこだ」


 とリュウサクが指差した先を見れば、そこにいたのは猿だ。

 足よりも手の方が長く、座り方もそれっぽい。赤い顔に薄い金の体毛。袖抜きの赤い衣を着て、面白くもなさそうな顔でおれを睨んでいる。

 金の王冠を被った猿がいる。


「猿じゃないか」

「だから猴翼竜なんだよ」


 リュウサクの言葉に納得できないが、これもまた違う種族なんだからと割り切る。

 そんなことより、問題はおれの正面に並んでいるこいつらだ。


「……こんなに集まるものか?」

「門前で見せた君の威圧にみなが大変な興味を持ってね。こんなにも名乗り上げてくれたよ」


 そこにはざっと……千人は人身の者……リザードマンや竜人がきれいに整列している。

 千人だけに仙人。

 くっそ、しょうもない。


「とりあえず候補者をリザードマンから順番に並べたよ。ちなみにまだまだいるから、今日だけでは片付かないよ」

「うへ」


 確かに……ざっと見回しても眼前にいる千人の列にいるのはリザードマンの方が多い。チョウタンのように竜頭人身に変化しているとかでなければ、この割合はおかしいだろう。

 なぜなら、彼らは修行大好きの竜族なのだ。


「さて、どうすればいいんだ?」

「そうだね……事故はいいが故意の殺害はやめて欲しい。武器は練習用の木製の物を使う。種類も数も豊富だ。君が求める物を僕がすぐに提供しよう。同時に戦う数はこちらで決める。君が動けなくなるか、ここにいる全員を倒すかまで続く。いいかな?」

「いいね」

「……一応警告しておくけど、これはなかなか厳しい試練だよ。修行の旅を終えた竜がその成果をみなに示すためのものだ。本当にいいのかい?」


 おれの反応があまりに軽いと思ったのかリュウサクが心配げに聞いてくる。

 だけど、おれの答えは変わらない。


「かまわない。初めてくれ」

「さすがは天の階梯に近い人間だ」


 自信がありそうだったからおれの答えに不快になるかと思ったが、そんなことはなかった。満足げに頷くとおれの背後に下がると手を上げた。


「これより、万夫不当の儀を行う! 本来は外の世界を巡った同胞の成果を試す儀ではあるが、この者は人にして天の階梯に足を掛けし者。我らの同士であり、また我らの先を行く者である。汝ら存分に挑むが良い!」


 リュウサクが景気よく宣言をする。

 整列した戦士たちの雄叫びを予想したのだが、返ってきたのはチョウタンもやっていた拳を合わせての礼だ。

 ただし、そこに込められた熱はただの雄叫び以上のものがあった。


「武器は?」

「とりあえず相手と同じものを」


 リュウサクの問いにそう答え、おれは一歩前に出た。

 同じように列の中からリザードマンが一人前に出てくる。彼が持っていたのは棒だ。背後から投げられた棒を受け取り、構える。

 一番手を任されたリザードマンには緊張が感じられた。

 そのためか、初手が突きだというのがバレバレだ。おれはあえて相手の間合いに入り込むと相手が突きを放つその瞬間に棒を小さく回して小手を打ち、棒を叩き落とすとその首に先端を突きつけた。


「……参りました」


 手首を庇いながらもあの礼をするとリザードマンは下がっていく。

 次のリザードマンは剣だった。背後のリュウサクに棒を渡すと代わりに剣をくれた。

 二番手は少し緊張が減っているようだが、それでも硬い雰囲気が拭いきれない。

 それでもおれはじっくりと相手を観察しつつ、勝負は一瞬で決めていく。

 そんな風に次々と相手を倒していく。


「やはり、君は相当な戦いを潜り抜けてきたようだね」


 背後でリュウサクが独り言のようなおれに語りかけているような曖昧な言葉を呟いていた。


「それは、たしか『武聖』という称号だね。あらゆる武器を極めた者に与えられる人間のための称号だ。我々にそれはない。称号は竜にはないんだ」


 返事をしている暇はない。いや、しようと思えばあるかもしれないが、それは相手に失礼だ。

 彼らは真摯な気持ちでおれと戦い、おれもまた彼らから学んでいる。


 一対一の戦いはすぐに終わり、いまは一体十の戦いになっている。おれは素手で彼らと向かい合い、そして圧倒していく。


「修練と経験の先にあるものが人間にとっての称号だが、称号を得ればそのときに特別な力を授かる。『武聖』ならば使ったことのない武器でも使い方がわかる、というものだったかな?」


 その通り。他にも色々あるが、称号を得ることによって技や能力を授かる。

 称号というのは人間にとって修練の度合いを示すものであると同時に、技や能力を授かる特別な存在でもある。


「それはとても不思議なこと……と考えたことはあるかな? その称号を得た途端に、同じ称号を持つ他の者と一定以上同じ存在になれるということだ。見たことも聞いたこともない技や能力を、その称号を得たその時から使えるようになるということだ。誰が称号にそんな力を与えているのだろうね?」


 誰がって……そんなのは…………。

 神?


 うん?


 いや、神は『神官』との間で信仰による奇跡をもたらしている。

 その上でさらに称号による力を人類全体に技や能力を授けている?


 ありといえばありかもしれないが、おかしいといえばおかしいかもしれない。


 しかし……。


「ていうかさっきからうるせぇ! こっちはいまそれどころじゃないんだよ!」


 なにしろすでに一体百になってるからな。

 しかもこっちはいま、もらった武器は絶対に壊さない縛りでやっているんだ。


 それぐらい慎重に戦った方がこちらとしても得るものがあるとわかっているからな。


「いやいや、僕としては君たち人間が自分たちのことに興味がなさすぎる方が不思議なんだよね。だから、そのことを自覚して欲しいんだ。これもまた修行だよ。……なにしろ」


 そう言って、リュウサクが笑う。


「君いま、彼らの使う仙気の流れを見て、それを真似しようとしているでしょう?」

「ちっ、ばれていたか」


 そう。

 おれはいま、リザードマンたちを相手に彼らの使う仙気の流れを読み、それを再現できないか試していた。

 武器を壊さないようにという縛りを加えて慎重に戦っているのは、彼らの動きから発生する仙気をなんとか吸い取り、自分のものにできないかと試しているのだ。


「練り方を研究するだけならまだしも、相手の仙気を奪い取ろうとするなんて……房中術を少しばかり体験して仙気の制御を目の当たりにしたのだろうけど。……なるほど、君はただ称号の力を振り回しているだけの人間ではないということだね」

「お褒めにあずかり光栄だ!」


 おれは叫んで返すと、百人目のリザードマンを打ち倒したのだった。


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