ふれんず。
その日は朝から機嫌が悪かった。
昨日、何があったかなどとまったく思い返したくもない。
ただ、ひたすらに喧嘩腰だったのは覚えている。
ベッド脇のペットボトルを手に取り、寝ぼけ眼で口に含む。
「……はぁ…………」
それは息継ぎではなく、ため息に近い。
思い返すに忌々しく、それは無責任な都合であろう。
誰が悪いかではない。
どう鑑みても、私のせいだろう。
決して同い年ではないが
互いに互いを認めあった、育まれた友情は塵へと化した。
そう。
友をたった1日で失ったのである。
切っ掛けは些細な出来事であったかもしれない。
例えるなら「食べ方」や「歩き方」。
今まで気にも止めていなかったが、一気にそれは爆発した。
いや、たった一言に集約して、溜まり続けた不満を吐き出したのだ。
心の隙をついてどんどん出てくる不敬な態度。
口をつくに、果たして、こうもしてまで悪態をつくことなどあろうか。
散々、言いたい放題の私を彼は反論もなくおとなしく聴いていたようなのだが。
やがて音もなく立ち上がり、勝手に精算を済ませる。
テーブルの上を温めていた珈琲の湯気は最早冷めきり
ただ、ひたすらに切ない苦味だけが私を追求していたようだった。
友情などは、斯くもくだらないものなのか。
たった一瞬にして消え去るものなのか。
私のしたことは過ちなのか。
彼に一切責任はないのか。
ただ、自責の念だけが己を問いただす。
明日も彼と顔を合わせるというのに……。
やらかしたことの重大さが湯槽で浮かび、浴槽から出た私は気だるく床へと就く。
「ごめんなさい」
その一言が言えなかった。
月が雲間に隠れる時すら億劫で
私は温もりへと投じ
まるで何事もなかったことにしようとした。
明くる日の朝。
虚ろげに布団から放たれた私は、軽い朝食を貪りつつ。
重い足取りは徐々に縮こまっていった。
辺りからは爽やかな空気が流れている。
それぞれ、皆が仲良く声を掛け合う様を視ながら誰にも見付からないように。
そんな見苦しい心情を見抜かれたのか。
私の肩に、ポンッと温かみが乗せられたのだ。
「よう! 昨日は悪かったな!」
…………
悪いのは私の方だ。
彼に非はない。
彼はまるで昨日のことなど気にした様子はなく、朗らかに挨拶を交わす。
友情とは、こうも晴々しきモノなのだろうか。
私の訝しむ態度など気にせず、がっしりと肩を掴む温度。
「今日も一日……楽しもうや!」
目映い太陽がそこにあった。
後に私は家族同然の付き合いをする。
昔から変わらず騒々しい彼。
しかし、そこには常に情愛があった。
写真立てに映える面影。
ふたりは心の奥底から笑い、互いに未来を語り合っているようであった。
友よ。
酌み交わそう。
生まれ変わっても、友であろうと。