転回する展開
もし過去に戻って歴史を修正できるのならば魔王の弟子などととち狂った選択肢をセレクトした過去の自分をぶちのめしたい。
ああ、なんだか最近は日本での生活が恋しくなってきた。俺にも一丁前に帰巣本能があるのだろうかまがいなりにも故郷を失ってからそう思うことが多くなってきた。
まあぶっちゃけ此れ現実逃避なんですけどね。
♂♀
迫りくる魔弾、飛来する数多の魔法、少しの油断で命が散ってしまいかねない気の抜けない絶体絶命の時間が過ぎ去っていく。
「さあ逃げろ、逃げろ。さもなけばお前が死ぬだけだぞ」
「ぶっざけんな!!毎度、毎度、こんなのが修行だとぉ、弁護士を呼べ」
「ほお、まだ喋る余裕があるみたいだな。もう少し弾幕を厚くするぞ」
「え、ちょっ、ま、やめr、うわぁぁぁぁああああ」
土煙が舞う大空に悲しい悲鳴が響き渡った。これが何時もの修業?風景である。
数時間後、そこにはいつの日かと比べると見違える程可愛くなった魔王ネメシスと比べるのも無残な一人のボロ雑巾が居た。
や無茶しやがって。
「はぁ、お前はいっそ哀れになるほど弱いなヨルムンよ。」
「くそ、ここまでボロボロにしといて更には精神攻撃かよ、この鬼、悪魔、魔王」
「いや、確かに私は魔王だが......」
修行という名の一方的な袋叩きが終わった。どうやら俺は今日も生きていたらしい、あの一時の気の迷いよりひと月ほど経ちようやく新生活にも慣れてきた。
「まあいい今日の訓練はここまでだ、あとは好きにするんだな。」
ネメシス《師匠》は一日に約4時間前後の修業をつけてくれる、修行内容は基礎をある程度教えたら後はひたすら実践という名のリンチで俺の体は既にボロボロだ。
修業は毎日決行されているが今の所俺とネメシスの力量に差がありすぎて自分が本当に強くなっているのか自信がない、ネメシス曰く逃げ足と姑息さは伸びているらしいが俺の力量は『ただの兵士でももうちょっとマシなレベル』らしく今のままでは復讐などは夢物語だ。
俺の一日は今の所ネメシスが付ける数時間の修業以外は何をするのも自由なので趣味生かしている。
なんだかんだ言って俺はこの日常に慣れつつある。
ネメシスとの修業は血反吐吐くほど辛いが彼女は俺の限界をしっかり把握しているようでちゃんと死を迎える寸前で止めて暮れるし治療もしてくれる、それって拷問より酷くねと言われればそれまでだが......
俺の唯一の懸念だった母親の身柄だがネメシスに母親の事を伝えると僅か3日で居場所を探し出してくれた。母親は教会で普通に暮らしているらしかったのでまだ俺がどうなったのか伝わってはいないのだろう。だがそのうち事件の概要が伝わるだろうとは思ったので周囲にばれないようにひっそりと母親に手紙を渡してもらえるようにネメシスに地面に頭をこすりつけながらお願いした。予想に反してすんなりとネメシスは了承してくれて更にはもし何かあった時にネメシスが介入出来るようにと監s、ゲフンゲフン。見守ってくれる事になった。
現在俺たちが暮らしている住居だが初めて俺とネメシスが遭遇したボロボロの教会だ、ただしその見た目は驚くほど変わっている。
一目でお金持ちと分かる巨大な屋敷に学校の敷地がすっぽり収まっりそうな広大な庭、別館農園花壇池噴水と数々の施設とごてごての装飾を施し外界とは結界で完璧に遮断されている。
もはや、以前までの面影は一欠けらほどもありはしなかった。
それと先ほどもちらっと語ったがもう一人以前の面影を全く感じさせない人?物がいる、ネメシスである。
幽鬼の様だった容貌からは想像もできない程変化を見せ素材の十分以上のかわいらしさを取り戻していた。ネメシスは口調は辛らつだし容赦はないが一緒に暮らしてみて根はそれほど悪いようには感じられなかった。
それに彼女は自分の 体をある程度は自らの意思で操作することができるらしく以前は地面に広がっていた髪型を気分や日にちによって変化させたり服装も年頃の少女のようにオシャレに振る舞うように成った。
この変身を遂げた目の前の少女は何を隠そう魔王その人である。魔王って一体何さ(哲学)。
というかネメシス事体何なのさ(困惑)。
俺が知っているのは『最古の魔王』としての伝承上に語られた姿だけであり、ネメシス自身の歴史は一切知りはしないしネメシスの方も今の所話す素振りは無かった。まあ俺にだって転生という他人に絶対言えない事柄がある以上他の人の秘密を無理に聞き出そうとは思わないがそれでもネメシスという存在は異常に過ぎる気がする。
そもそも魔王という存在は暴虐の限りを尽くすまさしく天災でありそこに理性などが介入する余地はない、それがこの世界に住む大多数の人々の認識のはずだ。そんな中でネメシスは一見少女にしか見えないうえ内面もいまのところギリギリ人の範疇だと言えないこともない......気がする。
まあ、そんなのは御伽噺の中だけの話なわけだ、考えてみれば地上に存在する生物に軍勢を率いて戦争を挑む奴がそんな理性を持たない獣のような存在だとは思えない。
性格的にも考るとネメシスにも何かしら事情というものがあるのだろう。
それにだ、今日日美少女魔王なんて存在は珍しくとも何ともねーんだよ、異世界風情が日本の文化をなめるなよ。
そんな俺の異世界生活だが恐ろしいことに現在俺の生活の面倒は衣食住全てネメシスが見てくれていると言って相違ない。いつの間にか魔王に養われていた、驚愕の事実である。
魔王様ってすごい、どちらかというと魔法の存在がヤバい。ネメシスの使う魔法が万能すぎて恐怖を覚えるレベル。さすがはファンタジーといったところだ、一応俺も人並み程度には行使できるのだが魔法は本気で原理がイミフすぎて頭痛が痛い、数少ないこの世界の論文を読んでも独創性の強い独り言か新興宗教レベルの解説しかないので自力で研究の真っ最中だ。
そんな原理もあやふやでなぜ成立しているのかもわからない魔法だがこの技術はこの世界であらゆる分野の中核を担っていた。ファンタジー世界って物語としてはかろうじて成立してるけどこれ実在の世界としては致命的じゃね?
ちなみに俺の母国であるアルビオン王国であるが現在内乱状態である。かなり最近になってようやく平和を手に入れた国内に突然金の生る木が生えてきてそれの争奪戦が周囲で勃発しさらにそれに釣られるように他の箇所でも小規模な小競り合いが起きているらしい。
もしかしなくてもこれ俺のせいですか?
ま、まっさかぁ(白目)
そこはかとない不安を抱きつつ俺の二度目の少年期は過ぎていく。