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始まりの戦慄

 あぁ、まるで世界の終りのようだ――――




 目の前に存在するのは破壊の化身、厄災の権化、山と見まごう体躯に強大な爪と牙を持ち巨大な翼で天空を駆ける強大な力の化身。


 ドラゴン


 そう呼ばれる存在が目の前に現れた。


 その力は絶大の一言だ、たった腕の一振りで王国でも列強の騎士達はまるで小枝のように散らされ、その鱗は城壁を思わせる堅強さで武器も魔法も寄せ付けず騎士達は傷一つつけることはできなかった。


 ドラゴンと呼ばれる全生物の最上位種はその戦闘とも呼べ無い行為を完全に支配していた。


 ドラゴンが大空へ再び飛び立ったのは最初に現れてからわずか5分ほど、この場に残ったのは突然の事態に全く動くことすらできなかった他人の血で真っ赤に染まった俺と無残に散った騎士だった者達の残骸だけだった――





 ♂♀




 水滴が頬を叩く、その雨のおかげでようやく現実味が戻ってきた。俺の体は雨で体が冷え風邪をひかないようにと雨宿りができる場所を探しにようやく動き出し始めた。




 ドラゴンに会ったせいかなぜか思い出したくもない苦い記憶が蘇る。


 これも一種の走馬灯のようなものだろうか、今になって今までのつまらない半生が思い起こされる。



 ヨルムン・デュラックそれが今の俺の名前だ。


 平凡極まりないどこにでもいる普通の子供、そんな俺には俺には両親にも話していない秘密があった、それは俺には前世の記憶があることだ。


 日本という平和な国で生まれ、大学に通うごく平凡な生活を送る学生だった記憶。ただなぜそんな平凡なモブキャラでしかない俺がこんな世界に再び生まれることになったのか、その切っ掛けや原因はまったくわからない普段と変わらない日常を送っていたはずが気が付いたら赤ん坊としてこの世界に生まれたていた、第二の人生に喜べばいいのか、理不尽な人生の終りに怒ればいいのか今でもよく判らない。


 ただ俺は第二の人生に対して不満を持つことはなかった、アルビオン王国というよくわからない国のデュラック家という貴族家に生まれ、生活に特に不満もなく、両親から愛情を一身に受けてすくすくと成長していった。自分の身に起こったおかしな事態、突然の環境の変化と最初こそ様々な戸惑いがあったがそれも時間とともに少なくなった。




 要するに俺は第二の人生を十分に満喫していたのだ。






 だが新しい生活を楽しむあまり俺は致命的な見落としをしていた――



 いつからかこの世界とあちらの世界を同一視しおりものすごく単純なことを見落としていたのだ。どの世界でもどのような形であれ力こそ全てで弱いことは罪であり弱者は奪われるだけだということを――





 周りに比べて少しだけアドバンテージのある俺は剣に魔法に政治にと幼いながらに勉強をし教師や周りを驚かせて鼻高々になっていた。そして前世でサブカルチャーに染まっていた俺は現状を改善できる知識を幾つか持っており子供の意見でも合理的と判断したならすぐさま活用してくれた父のおかげでデュラック家は急速に発展していった。


 それも周りの貴族連中に目をつけられるほど。


 この世界の貴族という連中のほとんどは思い上がった自意識の高い独善的な連中だ、代を重ねた貴族たちほどその傾向が強くそんな連中は総じて嫉妬深い、『あの連中は金を持っている。あそこだけ豊かだ。だったら力ずくで奪ってやろう』こんな自分勝手な連中がデュラック領の周囲に無数に存在した。


 デュラック家は貴族といっても弱小の部類、少しの領土に領民は僅か2000人ほどで動員できる兵力は400人ほどだ、多少裕福になったといっても周囲の貴族全員と争って勝利できるはずがなかった。

 周りからの侵略に驚異的な強さでひと月以上対応していた父もついにしびれを切らした大身の貴族の侵攻によって敗れ不運にも命を落とした。




 一族、つまり俺と母親は侵略者に捕らえられ別々の教会へと送られた、分かり易く言えば領民たちに対する人質だ。


 そして俺は騎士たちに囲まれえて物々しく教会へと護送される途中に伝説の生物であるドラゴンに遭遇して唯一命が助かった状態である。






 さて、これからどうしたものか......




 父親も母親もこんな事になった原因は俺だというのに俺に対して謝罪して『これからは、自分の意思で決めて行動してくれ』と言った。

 まず思い浮かぶのは復讐だがこれは設定が難しい、どこまでの範囲に何をするのかを決めなければならない。要するに攻めてきた貴族当人達に対してだけ復讐をするのか一族まとめてなのか領民すべてなのか、こんな状況を生み出した王国に復讐をするのか誰に対してまで復讐するのか範囲を決めると言うことだ。

 そして何をするかか、生物学的に抹殺するのか社会的に抹殺するのかつまりは復讐の内容だ


 まあこんなことを考えている時点で俺が復讐に向いていないことは明白なのだが......




 それ以前の問題としては俺のこれからについてだ、精神は別にして俺の肉体年齢は僅か10歳、たとえ剣や魔法に才能があったとしてもそれは同年代としてはの話だ、この年齢の肉体では復讐は愚か一人での日常生活もままならない。


 考えれば考えるほど暗雲が立ち込める、唯一の救いといえば漸く雨宿りができそうな建物が見つかったことくらいだ。


 それはもはや廃墟と言った方がいいくらいボロボロな教会だった、正直教会だけは護送先がチラつくので勘弁してほしかってのだが下手な街に行って再び貴族連中につかまっていつ死ぬかわからない人質生活より何倍もましだと自分を納得させ教会の中へと入った。


 教会の中は見た目よりは幾分しっかりしていた、雨漏りや隙間風もなく当分の拠点としては及第点だった、まあ唯一の問題点は先客がいたことだ。


 その人物は一言でいえば異様だった、薄汚れたドレスを身にまといかわいらしい少女の容姿なのだがその表情に愛らしさはなく冷たい印象を受ける、血のように紅い瞳には光はなく金色の髪の毛は彼女の身長異常に長く地面に広がっていた、まるで幽鬼のような少女が俺の方を生気を感じられない瞳で見つめていた。


 一体何のホラーだよ。


「こんな寂れた教会に血の匂いをさせながら一体何の用だ。それとも用があるのは私の方か?」


 抑揚のない拒絶するかのような冷たい印象を与える声だった


「血の匂いは全部返り血さ、ちょっと事件に巻き込まれてね。要件は雨宿りだ、もしここが君の拠点だったら雨が止んだらでていくよ」


 できるだけ先客に悪印象を与えないように丁寧に対応したつもりだったのだがどうやらお気に召さなかったらしい、盛大に笑われた。


「クハハ、私の領域を雨宿りに使おうなどとは貴様は余程の無知のよか馬鹿のようだ」


「む、こう見えてもそれなりに頭は良いつもりなんだが」


「クハハハ、貴様の愚かさはその無知が証明して――、............いやなんでもない。」


「どうした突然テンション下がって苦い顔して?」


 彼女は致命的な何かを今思いたしたかのように顔を伏せばつの悪い表情を浮かべた、だがそんな表情も雰囲気ごと一瞬で変化させた。


「......そういえば自己紹介をまだしていなかったな。私の名前はネメシス、お前ら人間たちからは災禍の魔王などと呼ばれている。さあ喜ぶがいい少年貴様はこの私の伝説の新たな歴史の一ページ目に刻まれる、何か最後に残す言葉はあるか?」


 厄災の魔王を名乗る少女、ネメシスはこちらに顔を上げると常人ならば正気を失いかねない威圧感を放ちながら俺に問いをかけてきた。


『厄災の魔王』その名前はあまりにも有名だ、記録に残る最古の魔王でありより正確にはそれ以前の記録をすべて消し去った元凶でもある伝承や御伽噺として多数の姿を残す最悪の魔王。だがいま目の前にいる少女がそうだと言われても実感が現実味が無い、しかし彼女が放つプレッシャーは昼間遭遇したドラゴンと全く遜色(・・)が感じられない。


 普通ならプレッシャーに押しつぶされ身動き一つ出来ない筈であった俺は幸か不幸か昼間会ったドラゴンのおかげで恐怖心を含むいくつかの感覚が麻痺しており頭に浮かんだことが自然と口から洩れていた。




「――弟子に、してください」


「ふぇ」


 俺の頭のおかしいとしか思えないとしか思えないお願いにネメシスはかわいらしい声を漏らし理解が追いつくと大いに笑い始めた。


 俺は完全にやらかしたと思い自らの死を悟った。


「ク、クハハ、フハハハハハハハハハ!私が厄災の魔王と知ってなおの弟子入りかなかなかの覚悟と胆力じゃないか気に入った弟子にしてやる、まあ無興を慰める暇つぶしにはなるだろう。せいぜい何時でも死ぬ覚悟くらいはしておくんだな」





 【悲報】いつの間にか、魔王様の弟子になっていた。


 何を言っているのかry。


 なんだこれは幾分か寿命が伸びたとは言えこれではいつ死を迎えたとしてもおかしくないじゃないか。

 くそ、ドラゴンといい魔王といい今日のエンカウント率は頭おかしいんじゃないのか?


 お母さん先立つ不孝をお許しください。お父さんごめん直ぐにそっちに行くことになりそうだ。




 この世界ファンタジーはどこかがおかしい――





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