赤い猫
これで大丈夫か・・・と不安な初投稿小説です。
大好きな話しがあり、自分でも書いてみたいと思って書いたものです。
雰囲気など似ている部分はあるかと思いますが、寛大な心で見ていただければ、幸いです。。。
ある森に一匹の美しい猫がいました。
その猫の毛は銀色でした。
光が当るとまるでその猫が輝いているように見えたのです。
その美しい猫と仲良くなりたいと沢山の猫が近寄ってきました。
ある猫は大きな魚を持って、ある猫は綺麗な花を持ってきて少しでもその猫の関心を引こうとしたのです。
しかし銀の猫は見た目が美しいだけではなく、頭も良く猫達が考えていることが分かっていたのでどの猫とも仲良くなりませんでした。
銀の猫はいつも沢山の猫に囲まれていましたが、いつも独りでした。
そんな毎日が続くものでしたから、銀の猫は誰も信じられなくなっていました。
ある満月の美しい夜の日に一匹の猫が森に来ました。
その猫は何処でもいいからこの森に住まわせてほしいと言うのです。
しかし、猫達は反対しました。
なぜならその猫は真っ黒だったのです。黒は不吉の色として忌み嫌われていたのです。
それでも黒猫は必死に頼みました。
そこに銀の猫が近づいてきました。猫達は近づかないように言いましたが、それには構わず近づいていき黒猫の前に立ちました。
黒猫は銀の猫を見て驚きました。銀色の猫なんて見たことが無かったからです。
銀の猫は淡々と言いました。
「住まわせてやればいいだろう」
それだけ言うと元来た道を戻っていきました。黒猫はその後姿にお礼を言いました。
銀の猫は、不吉と言われる黒い猫を哀れに思ったり、興味があったから助けたわけではなく、騒がしいのが嫌いだったのでそう言っただけだったのです。
そんなことは黒猫には関係なく、ただその一言に黒猫は救われたのです。
それから黒猫は他の猫達とは、かなり離れた所に住み始めました。
そこは他の猫達は知らない場所でした。
森の中なのにとても明るく近くに小川も流れていて、黒猫はすぐに気に入りました。
黒猫が森に住み始めても他の猫達の前に現れなかったので、しばらく経つとほとんど忘れられていました。
銀の猫も同じでした。
そんなある日、銀の猫はとてもイラついていました。
今日は特に周りの猫が煩かったのです。
銀の猫は誰も付いてくるなと言って森の奥へ散歩に行きました。しばらく行くと突然視界が開け、小さな野原に出ました。
驚いていると黒い塊が視界に入りました。
よく見るとあの黒い猫が寝ているではありませんか。
銀の猫は黒猫に近づいていきました。
銀の猫は黒猫が寝ているすぐ横まで行きましたが、黒猫は起きませんでした。
光の中にいる黒猫を、銀の猫はとても美しいと思いました。
周りの猫に美しいと言われている自分の毛の色より、光を浴びて光沢を持った黒猫のことを美しいと思いました。
銀の猫は自分の毛の色を美しいと思ったことがなかったのです。
しばらく黒猫のことを見ていました。
すると黒猫が目を覚ましました。
黒猫は驚きました。目を開ければ、自分しかいないはずの場所に他の、しかもあの銀の猫がいるではありませんか。
黒猫は飛び起きました。
「こんにちは」
しかし銀の猫は話しません。黒猫は戸惑いながらも話し掛けました。
「えっと・・・いい天気ですね。」
「・・・」
「あの・・・どうしてここにいるんですか?」
「・・・散歩をしていたらここに出た。」
銀の猫は初めて答えました。黒猫は嬉しくなって続けました。
「ここって綺麗ですよね。みんな、知らないなんて勿体無いですよね。」
銀の猫は黒猫のことを見ていました。
「あの・・・?」
銀の猫の視線に気づかないわけもなく、黒猫はおずおずとした様子で声を掛けました。
「あ・・・・いや、綺麗な色だと思っていた。」
「綺麗?」
「お前の毛色が・・・。」
「・・・え」
黒猫は驚き、そして急に涙を流し始めました。これには銀の猫も驚きました。
「!?なぜ泣く?」
「っひっく、だって・・・こ・・・の色は、ふ、不吉な・・・色だって・・言われ、て・・・き、れい・・・・だなんて・・・初めて・・・ふぇ」
そのまま言葉が続かない黒猫を見て、銀の猫は困ってしまいました。
銀の猫は綺麗と言われ慣れているので、黒猫の気持ちなどわからなかったのです。
しばらく経って、大分落ち着いたのか黒猫は顔を上げて銀の猫を見ました。
「ありがとう。」
黒猫は微笑んで言いました。
銀の猫は困ってしまいました。銀の猫はこんな風に笑いながらお礼など言われたことがなかったのです。
「別に、本当のことを言っただけだ。」
黒猫を直視出来なくなって横を向きました。黒猫の微笑みは他の猫のような笑い方ではなく、心から笑っている綺麗なものだったのです。
「でも、僕よりあなたの銀の毛のほうが綺麗だと思います。」
黒猫は微笑んだまま言いました。銀の猫は少しガッカリしました。黒猫も他の猫と同じなのかと。
「だって、真っ暗な夜に浮かぶお月様みたいで安心できるんです。優しい色です。」
銀の猫は驚きました。みんな綺麗だと言いますが、そんな風に言われたのは初めてだったのです。
銀の猫は黒猫に興味を持ちました。
「また、ここに来てもいいか?」
「また、ここに来てくれるんですか?」
「お前がいいと言うなら」
「もちろんです!!」
黒猫は首を激しく縦に振って大声で答えました。それから、少し俯きながら小声で言いました。
「じゃあ、あの・・・またお話してくれますか?」
「そのために来るのだからな」
黒猫はそれを聞いて喜びました。
その日は暗くなるまで二匹は話していました。
黒猫がそろそろ帰らないとみんなが心配しますよ。と言ったので銀の猫はまた明日来ると言って帰って行きました。
帰り道、銀の猫は来たときとは違って心が温かく幸福な気持ちでした。
こんな気持ちは初めてで、なぜこんな気持ちになるのか銀の猫にはわかりませんでした。
それから銀の猫は毎日のように黒猫に会いに行きました。二匹はいつも暗くなるまで色々な話をしました。
ある時、二匹は小川に入って魚を採っていました。二匹ともずぶ濡れになってしまいましたが、とても楽しそうでした。
銀の猫が黒猫を見て言いました。
「やはり、お前は綺麗だな」
「そうですか?」
「あぁ、水に濡れて光を反射していて、とても綺麗だと思う」
「えへへ、嬉しいです。・・・・みんなは黒は不吉だと言うから・・・。」
「そんなことはない。・・・むしろ私のほうが不吉だと思わないか?」
黒猫は驚きました。こんなにも美しい銀の毛を持っているのに、自分の黒より不吉だと思っているなんて。
黒猫はすぐに否定しました。
「なんでそんなこと言うんですか?あなたの毛は僕のものより何倍も綺麗です!!」
銀の猫はそう言うと思ったと言いました。
「しかし、私の毛は銀色だぞ?不気味じゃないか」
黒猫はますます分からなくなってきました。
なぜ銀の猫がみんなから美しいと言われているのに不気味だと言うのか。
何故?と黒猫は訊ねました。
「・・・・周りとあまりに違うじゃないか」
銀の猫はそう言って自分の体を見ました。それを聞いた黒猫は言いました。
「それを言うなら僕もです。黒だって周りと違います」
そう黒猫はほとんどいないのです。白と黒のしまやぶちならいます。しかしそういった猫たちは大抵が白のほうが多いのです。
「・・・そうだな」
銀の猫は後ろを向いてしまいました。しかし、それが照れ隠しだということは黒猫にはすぐにわかりました。
銀の猫は今まで、何回、何百回と言われてきた綺麗という言葉を初めて嬉しいと思いました。
銀の猫は気づいていないかもしれませんが、黒猫と一緒にいる時はよく笑うようになりました。
それが黒猫は嬉しくて、黒猫も笑っていました。
二匹はそれほどまでに相手を大切に想っていたのです。
しかし他の猫たちは面白くありませんでした。毎日のように銀の猫が何処かへ行ってしまうのですから。
そしてある日、他の猫が銀の猫の後を追って二匹が仲良くしているのを見てしまいました。
二匹は他の猫たちには全く気づかずに、いつものように楽しく話していました。そして銀の猫はいつものように暗くなってから帰りました。
銀の猫が帰ったのを確認した後、他の猫たちは黒猫が後ろを向いた瞬間、襲いかかりました。
黒猫は驚いて抵抗しましたが、一匹で何匹もの猫に勝てるはずがありません。すぐに黒猫は倒れてしまいました。
それでも猫たちは止めません。
黒猫がぐったりして動かなくなるのを見てやっと猫たちは帰って行きました。
銀の猫は、ふいに血の臭いがしたような気がしました。
銀の猫は慌てて元来た道を戻りました。
野原に行くと、黒猫が野原の真ん中で倒れているのが見えました。
銀の猫が慌てて走り寄っていくと黒猫の周りは緑の草花ではなく、赤黒い血の水溜りになっていました。
銀の猫は自分が赤くなるのも構わず、黒猫に擦り寄りました。
黒猫にはまだ息がありました。
「どうしてっ!いったい誰が!!」
銀の猫は大声で叫ぶように言いました。すると黒猫は弱弱しく、いつもの明るい微笑ではなく儚げに微笑みました。
「あぁ、良かった・・・最期にあなたに会えて」
「最期とか、言うな・・・っ」
銀の猫は黒猫がもう助からないことは、血の水溜りを見てわかっていましたが諦めきれませんでした。
「ありがとう」
「!?」
「あなたに会えて、あなたと話せて、あなたと過ごせて良かった」
「っ!・・・まだ死ぬな!まだ私はお前と一緒にいたい!だからっ!!」
黒猫も自分がもう死ぬことはわかっていました。だから最期の力を振り絞って言いました。
「僕が死んだら悲しんでくれますか?」
「っ私は!!」
そう言った銀の猫は一度息を吐き出し、押し殺した声で続けます。
「・・・悲しむなんて知らない。楽しいだとか、嬉しいだとか全てお前が教えてくれた。お前が教えてくれないと、私は何もわからない!!!」
わかりたくもないとでも言うかのように銀の猫は叫びます。でも銀の猫はわかっているのです。
これが、悲しみだと。
銀の猫は視界がぼやけていくのがわかりました。
「僕は、しあわせ、です。不吉だと・・・言われた、この色を、きれいだと・・・言ってくれて。
い、ちば・・・たいせ、な、あなたに、さ・・ごに、あえて・・・ほんとぉに・・・」
黒猫の目が閉じ、そして動かなくなりました。
黒猫の体が冷たくなっていくのがわかりました。
初めて愛しいと想った。
黒猫のことを家族のように、恋人のように、そして唯一の友だと思っていたのです。
もう黒猫は笑いません、話しません。
銀の猫は泣きました。生まれて初めて涙を流し、大声で泣き続けました。
夜が明けても泣き続けました。昼が過ぎ血が乾いても泣き続けました。
そして、また夜が来ました。銀の猫はやっと泣き止みました。
銀の猫は野原の真ん中に黒猫を埋めました。
そして他の猫たちのいる所へ戻りました。
銀の猫が戻ってくると、他の猫たちは何食わぬ顔で待っていました。
銀の猫はその待っていた猫たちを、ゆっくりと見渡すと静かに言いました。
「あいつを殺したの、お前らだな」
銀の猫は猫たちに襲い掛かりました。一匹また一匹と猫を殺していきました。
猫たちも抵抗しましたが、銀の猫を止めることは出来ませんでした。
それでも猫たちは懸命に言うのです。
「だって、あなたは私たちの気持ちをわかってはくれなかったじゃないか!」
「愛していたのにっ!!」
「うわあぁぁああ!!!」
銀の猫は叫びながら殺していきました。
しばらくして周りが静かになると、そこには自分から流れる血とそれ以上に付いた他の猫たちの血と、そして黒猫のすでに乾いた血で塗れた一匹の、赤い猫が立っていました。
赤い猫は最期の力を振り絞り、あの野原へと行きました。
野原に着くと、黒猫を埋めた場所まで行きました。
「ごめん・・・お前が綺麗だと言ってくれた色なのに、汚してしまった」
赤い猫は倒れました。
「ご・・めん・・・・」
そして赤い猫は動かなくなりました。
その夜は満月でした。
読みづらい部分も多々あったかと思いますが、最後まで読んでいただきありがとうございます。