表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第二章:決闘をする狩人
96/185

第96話「第二決闘-6」

本日は二話更新になります。

こちらは一話目です。

『具体的にどうエグイかを説明するっすよ』

『あ、はい。お願いします』

 ソウソーはヨコトメの困惑をよそに、自らに人の体内に流れる電流の視覚化を行う紋章魔法『磁場視認(マグネウォッチ)』をかけ、『黒煙』の魔法によって普通の目では捉えられなくなっているティタンとライの姿を捉えつつ、解説を始める。


『まず、ライが今置かれている状況でやんすが……そうっすね。簡単に言い表すなら、新月の夜の晩、頼りない明かりの蝋燭一本以外に一切の灯りが無い状況で、自分が出しているもの以外に全く音がせず、気配もしない。なのに何処かからか自分を窺っている気配がすると言う状況でやんすね』

『それは……怖いですね』

『そうっすね。かなり怖いっす』

 ソウソーの目には、『黒煙』によって暗闇に包まれた舞台上で傍目に見ても怯えている事が分かる様子のライと、そんなライを淡々と追い詰めているティタンの姿が映っている。

 その姿からライはティタンの位置を掴めておらず、逆にティタンはライの位置を正確に把握している事は間違いなかった。


『でも、まだ怖いだけっす。エグイのはここからっすよ』

『え……』

『そんな何処から何が出て来るかも分からない暗黒の中から、突然自分に対しての明確な殺意が飛んでくるんすよ。それもあの手この手で』

『……』

『音もなく自分目がけて矢が飛んでくる。生暖かい息が首にかかるほどにまで近寄られ、首筋に鋭い刃物を当てられる。文字通りの目の前に鋭い爪が突き付けられ、目を抉ろうとしてくる。足首を掴まれ、何処に床があるのかも分からないような暗闇で引き倒される。人の物とは思えない笑い声と共にカランカランと何かが迫ってくる音がする』

「「「ゴクッ……」」」

 ソウソーの言葉に、ライが味わっている恐怖を想像してしまった観客席の生徒の一部が顔を青くし、己の身体をあるいは隣に座っている友人を抱きしめ、恐怖に抗おうとする。


『実際にはその直前で手を緩め、実行に移される事はない。けれどそれが怖い。もしも反応できなければ、対処を誤れば自分がどうなっていたのかと言うのを、想像できる程度には具体的な形で、けれどその詳細は掴めないように、自分が意識していない方面からそれが迫ってくる』

『ハ、ハハ……』

『一瞬でも気を休められない。気を休めた瞬間を見計らうようにまた来るから。その場から一歩も動いていないのに息は上がり、汗が流れ、心臓の鼓動が早くなる。それでも警戒心を緩められない。今正に自分の背後にそれが来ているのではないかと思って』

『……』

 普段のふざけた語尾は完全になりを潜め、今のソウソーの声は低く、か細く、まるで幽霊か何かが喋っているようだった。


『それが何度も、何度も、何度も繰り返される。獲物である自分が疲れ果て、抗えなくなり、動けなくなり、自らが支えとしてきたもの全てが信じられなくなるほどに追い詰められるまで。死と言う名の狩人の矢が自分の魂を射ぬく時まで。何度も繰り返される。一寸先も見えないような深い深い闇の中で』

 闘技演習場は完全に静まりかえっていた。

 ティタンが生み出し、ライが味わっている地獄を想像してしまったがために。


『とまあ、こんな感じでやんすね。いやー、エグイっすねぇ。本来は自分より格上の魔獣を狩るための持久戦戦術を対人用に改良、適応した結果がこれとは。決闘と言う名の闘技演習でなければ、後で何を言われるか分かったものじゃないっすね。きゅーきゅっきゅっきゅっ』

 ソウソーが元の口調に戻った事で、場の空気が一気に弛緩する。


『いやいやいや、エグイなんてものじゃないですから!何ですかそれは!?全部終わったらライの奴、精神崩壊とか起こすんじゃないですか!?と言うかこんな理不尽どうしろと!?』

 そして、それに合わせるようにヨコトメも元の調子を取り戻し、一気にまくしたてる。


『いやいや、こんなのは理不尽の内に入らないっすよ。ライに出来るかは別として、対抗策は幾らでもあるでやんすし』

『でも……』

『理不尽なんて台詞は、最低でも攻撃系の上位紋章魔法を身体強化だけで防ぎきるどこぞのハゲ熊レベルの相手から使うべき言葉でやんす。この程度で理不尽なんて言っていたら、魔法使いや魔獣相手に戦ってなんていられないっすよ』

『でも、エグイのは確かなんですよね』

『エグイのは確かっすね』

 ソウソーとヨコトメは冷え切った闘技演習場に温かさを取り戻すように会話と解説を行う。

 その一方でこの状況を終始変わらぬ様子で見続けている三人が居た。


「でもどうしてティタンさんはこんな手段を取ったのでしょうか?こんな一歩間違えれば狩猟用務員の職さえ失いかねない程の手段を」

「確かに分からないな。あの姿が変わった直後の動きを見れば、こんな遠回しな手段をとる必要が無かったのは確実だ。少なくとも勝つために必要な手とは思えない」

「ですがティタン様の事です。理由なくやったというのは有り得ないでしょう。狩人であるティタン様が獲物をいたぶる行為を良しとするとは思えません」

 それは貴賓席に座るイニム、ゲルド、メルトレスの三人だった。

 三人は、自分たちの知るティタンの性格と今回の行動の不一致から、今の状況に対して強い違和感を抱いていた。


「となると……ライがティタンさんの逆鱗に触れたとかでしょうか?」

「有り得るな。逆鱗と言うより、虎の尾……いや、蛇の尾を踏んだと言った方が正しそうだが」

「いずれにせよティタン様をこれほどまでに怒らせるまでの何かをライがしたという事ですか。『遮音結界』によって中の声が聞こえない事も考えると、それが妥当かもしれませんね」

「メルトレス様」

「姫様」

「分かっています。立会人として、決闘後のティタン様に対する非難は私が止めます。それと同時にティタン様から何があったのかも聞きます。ライの証言は……期待するだけ無駄でしょうし」

 だが、この状況になってもライを気遣うという考えが三人から出てこない辺りからして、ライの普段の素行の悪さが窺えるという物である。

 なお、ライが勝つ可能性はないのかと問われれば、ティタンを知る者なら全員がこう答えた事だろう。


『この状況になってもティタンは油断をしない。だからライに勝ち目が生じる機会も無い』


 そして、間もなくその考えの正しさは証明される。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ