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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第二章:決闘をする狩人
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第95話「第二決闘-5」

「ほんの少しだけ」

 イメージの意味そのものは非常に簡単なものだ。

 光に満ちた白い空間が俺の自我が存在している領域で、黒い水が溜まった湖の中があの獣の力の領域だと言う話だからだ。

 そして、今俺は黒い水が溜まった湖へと足首より下だけが浸かる程度に沈み込み、手で黒い水を少しだけすくって体内に取り入れる。

 ただそれだけだ。

 ただそれだけを頭の中で思い浮かべ、自分の中から湧き上がってきたその言葉を、あの獣の力の一端を解放するための言葉を俺は口にする。


「『血質(アッスーム)詐称(レッドブラッド)』……」

「馬鹿が!『宝石散弾(ジェムキャニスタ)』!」

 金色の卵の中から出てきたライが、俺に向かって大量の宝石が中に詰められた容器を放ってくる。

 だが何の問題もない。


「解除」

「なっ!?」

 俺はその言葉を呟きながら一歩前に出ていた。

 そして心臓から全身へとくまなく巡る血が、俺が人間であることを示す赤から、人ならざるものである事を証明するかのような黒に変化するのを感じつつ、右手を振るう。

 右手は問題なくライの放った容器に横から当たり……中身の宝石をバラ撒きながら、俺の後方へと無秩序に散らばっていく。


「ば……馬鹿な……」

 俺の行動にライが驚いている間にも変化は続く。

 血が黒くなったことで全身の肌に紋章のような黒い線が無数に現れ、爪が、口の中が、目の白い部分が黒く染まり、元々黒かった髪はその黒さを大きく増し、手にした弓は大地に根を張っていた頃を思い出したかのように細かい棘を表面に生やす。

 そして、最大の変化として、今まで『血質詐称』の魔法を維持するために使われていた妖属性と闇属性の魔力が俺の全身から溢れ出て……周囲の空間を浸食し、歪め、俺の身体と魔力の領域内にある石畳の輪郭をぼやかしていく。


「な、なんだ!何をした!お前は!?」

「語る気はない」

 はっきり言って、これから俺がやろうとしてはあまり褒められたものではない。

 そもそもこの力に頼ることそれ自体が、俺の狩人としての矜持を傷つけるし、この戦いを見ている者たちにもあまりいい印象を与えるものではないと俺は考えている。

 だが、そんな事情を鑑みても俺はライをこの場で仕留めるべきだと判断した。


「死ね」

「ヒッ!?」

 だから弓に矢をつがえ、もはや矢がある事を認識できない程に強力な『ぼやける(ヘイズィー)』をかけ、乗せられるだけの殺意を乗せた上でライに向かって矢を放つ。


「ヒ、『土塁(ヒプアプソイル)』!」

 ライの前に土の壁が現れる。

 が、俺の放った矢はそんな柔な防御など関係ないと言わんばかりに土の壁を突き破り、矢羽の部分までめり込んだところで止まる。


「ふんっ!」

「ゴ、『黄金護卵(ゴルデンエッグ)』!」

 俺は間髪入れずにもう一発ライに向かって矢を放つ。

 その矢は土の壁を完全に突き破り、その向こうにあるライが入った金色の卵の表面に誰の目に見ても明らかな窪みを作り出したところで折れ、砕け散る。


「さて……」

 これでいい。

 これから俺がする事の為には、ライには暫くの間引き籠ってもらう必要がある。


「書くか」

 俺は腰から『血質詐称』を解除した影響で黒く染まった六本のチョークを取り出すと、その場にとある紋章を書き始める。

 それは俺が知っているそれとは大きく異なる形。

 本来ならば方程式が破綻して発動できない紋章魔法。

 けれど今の俺ならば、有り余り、身から溢れ出るほどの量を誇る闇属性の魔力を保有している状態である俺が、凡百の魔獣の血よりも遥かに紋章魔法の素材として適しているであろう黒い魔獣の血を含んだチョークを以って紋章を描いたのであるならば、大抵の無理、無茶、無謀は押し通せる。

 押し通せてしまう。

 自分の努力を無かった事にされるような屈辱と引き換えに。


「完成だ」

 俺はその紋章を描き上げると、ライの入っている金色の卵の方を見る。

 様子から察するに、そろそろ出てくるようだ。

 ならば、とっとと発動してしまうとしよう。


「死ね!この化け物!『宝石散だ……!?」

「『来たれ(カミングザ)暗黒(ダークネス)』」

 俺は紋章に手を付き、わざわざ別に設定したキーワードを唱える。

 すると紋章が黒と紫の入り混じった光を発し……直後、舞台全てを一瞬で覆い尽くす規模と速さで黒い煙が紋章から噴き出した。



■■■■■



『おおっと!今度は何だぁ!?突然姿が変わったティタンが闘技演習場の床に描く形で作成、発動した紋章から凄まじい勢いで黒い煙が噴き上がる!』

『ふむ……描いているのを確認した限り、紋章そのものは『黒煙(ブラクスモーク)』だったでやんすね』

 一方その頃。

 舞台の外では、中の音が聞こえない状況に少々苦慮しつつも、ヨコトメとソウソーの二人が出来るだけ中の状況が分かるように実況を続けていた。


『は?『黒煙』!?あんな規模の『黒煙』なんて……』

『普通は有り得ないっすね。けど、煙の様子を見る限りでは問題なく発動しているみたいっすね』

 ティタンが発動した紋章魔法の名前は闇属性下位紋章魔法『黒煙』。

 ただし、一瞬で舞台上を全て埋め尽くし、光を殆ど通さず、なのに異常な長さの効果時間を有すると言う本来ならば絶対に発動しない状態のものだった。


『いやいやいや、ソウソーさん。一体どうやったら……』

『とりあえずアレっすね。この先、かなりエグイ事になるっすよ』

『は?』

 そして、その有り得ない『黒煙』の紋章魔法を見たソウソーは何でも無さそうに言い切った。


『エグイ事になるって言ったんすよ。この先ティタンが目論んだ通りに事が進むなら。っすけどね』

 ライにとっては不吉でしかないその言葉を。

03/28誤字訂正

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