第93話「第二決闘-3」
「……」
俺は決闘が始まると同時に無言で弓を引き、『ぼやける』が発動して矢の輪郭がぼやけていくのを確認しつつ、ライ・オドルに狙いを付ける。
「『宝石散弾』!」
対するライは俺に筒型の魔具の先端を向け、キーワードを発する。
すると筒型の魔具の先端から鉄色の光と共に、光を反射して煌く何かが生成され、射出される。
「しっ!」
俺は矢を放つと同時に横に跳んでいた。
そして、そんな俺の判断は正しかった。
ライが放った何かが空中で突然弾け、中から放ったそれが小型化したもの……よく見れば色取り取りの宝石であるそれが飛び出し、先程まで俺が居た場所を穿っていったからだ。
どうやら、大口を叩くだけあって、それなりの紋章魔法は使えるらしい。
「ふはははは……っつ!?」
対する俺の放った矢は?
ライの放った宝石の一つと空中で接触してしまったらしく、軌道が多少ずれてしまっていた。
具体的に言えば、ライの左腕の辺りに向かっていた物が、ライの左頬を掠めるような軌道を取っていた。
「な、何が……」
全身を震わせているライが自分の左頬に手を当て、そこから僅かに血が流れている事を確認する。
そしてその直後。
「きさっ……」
「しっ!」
「っつ!?『土塁』!」
隙だらけな姿をライが晒している間につがえた俺の二本目の矢が放たれ、俺の行動に気づいたライが慌てて紋章魔法を発動。
ライの姿は素早くせり上がった土の壁に隠れて見えなくなってしまい、俺の放った矢はその土の壁に刺さり、止まってしまう。
うん、惜しかった。
後少しで仕留められていたんだが。
「こ、このひきょ……」
「まあ、ただの壁なら問題ないか」
俺は再び弓に矢をつがえると、上空に向けて矢を射る。
土塁の裏側から姿も見せずにライが何か叫んでいるが、決闘の最中なのだし、基本的には無視してしまえばいいだろう。
「っつ!?『黄金護卵』!」
と、俺の行動に気づいたのか、矢が落ちて来て刺さるのよりも少しだけ早くライが何かしらの紋章魔法を発動。
徐々に崩れて出している土の壁の向こう側に金色の卵型の物体を作り出し、その中に入る事で矢を防ぐ。
ふむ、どうやら意外と勘は良い方であるらしい。
あのタイミングで防がれるとは正直思っていなかった。
「……」
俺は腰のプレートに手をやり、何時でも動けるように身構えつつ、目の前の卵の様子を観察する。
卵の大きさはおおよそ高さ2m程で人一人が特に問題なくは入れる程度、金属製である事を考えると、金属性の紋章魔法と見るべきだろう。
つまり、俺には破壊できないと言う事だ。
となると素直に解除の瞬間を狙って射るべきである。
ただ展開スピードも考えると、一工夫必要だろう。
「下民の分際で!『宝石散弾』!」
ライが卵の殻を突き破るように出て来て、俺に向けて最初に放ってきた宝石の群を再び放ってくる。
「『黒煙』」
対する俺は腰に提げたプレートで『黒煙』の紋章魔法を発動。
自身の周囲に黒い煙を発生させる。
「はっ!そんな煙に何の意味がある!」
確かに、ライの言うとおり、相手の攻撃が光属性のものでもない限り、『黒煙』で出現させた煙には防御能力は無い。
だから宝石の群は何の問題もなく煙の向こう側に居る俺に向かってくる。
が、この魔法を見たのは、これでもう二度目だ。
『黒煙』で生み出した煙の外に出ずに、矢どころかフラッシュピーコックの攻撃よりも遅い宝石を避けるぐらいならどうと言う事はないし、宝石を避け、その場に伏せつつ矢をつがえて弓を引くのもそれほど難しくはない。
「だが目障りだ!『銀盤生成』!」
俺の頭上をライが放ったであろう銀色の板が突き抜けていく。
恐らくは右手に持った剣から放たれた紋章魔法だろう。
直撃すれば宝石の群と同様に致命傷間違いなしだろうが、逆に言えば当たらなければ問題はない。
「……」
板が飛んでいくのを見送った俺はそのままの姿勢でライに向けて矢を射る。
「ひはははは!これで……ぎっ!?」
「むっ……」
俺の放った矢はライに当たった。
が、また狙いが逸れ、ライの右腕に深めの切り傷を創るだけだった。
「なっ、ばっ、ゴ……『黄金護卵』!」
「……」
ライの姿が再び金色の卵の向こうに隠れ、それと時同じくして俺の放った『黒煙』が薄れ始める。
しかし姿勢が悪かったとはいえ、この距離で矢を外すとは……爺ちゃんに見られたら、雷を落とされそうだ。
いや、もしかしたら対矢用の何かしらの魔法を使っているのかもしれない。
俺の攻撃手段が弓矢に限られているのはライも知っているはずの情報であるし。
となると、その辺りも考えて仕掛けるべきか。
「すぅ……はぁ……」
俺は無言で立ち上がると、呼吸を整えて気配を消し、その状態でゆっくりと今居る場所からライが入っている卵の側面へと回り込む。
そして、移動が終わったところで矢をつがえずにベグブレッサーの弓を引き、魔具連動技術による起点を矢型にした『黒煙』を発動、先程まで黒い煙が生じていた場所に矢を放ち、新たに黒い煙を発生させる。
「……」
俺は矢をつがえ、ライの姿が見え次第、弓を引けるように体勢を整える。
「『宝石散弾』!!」
「……」
そうしてライが再び姿を現し、宝石の群を黒い煙の中に向かって放った瞬間。
俺も静かに弓を引き、『ぼやける』によって輪郭がぼやけ、殆ど見えなくなった矢を放った。
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