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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第二章:決闘をする狩人
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第88話「第一決闘-3」

本日は二話更新になります。

こちらは一話目です。

「『土纏い(エンソイル)』!」

 ブラウラトの反応は早かった。

 自分の両足が床から離れたと感じた次の瞬間には、左手のナックルに仕込んだ地属性下位紋章魔法『土纏い』を発動。

 左腕の重量を増す事によって、自分の身体が場外にまで飛ばされるのを防ぐ。

 それは、本来ならば左腕に土を纏う事で破壊力と防御力を増す魔法に、副次作用として重量の増大がある事を知っていなければ取れない行動だった。


「ざ……」

「あま……」

 ブラウラトはこの行動によって、相手の狙いを外したと思った。

 視界の端では、相棒であるウィドが二発目の『茨の種』を放っていた。

 此処で攻め込めば形勢はもう覆らない。

 この時点では、そうブラウラトは思っていた。

 だがその考えは覆させられる。


「『氷の矢(アイスアロウ)』」

「『炎の五本指(ファノト)』」

 ブラウラトに対してセーレは棒の先端を向け、棒の先端からは氷属性下位紋章魔法『氷の矢』によって生み出された氷の矢が一本、本物程ではないが、十分な速さで放たれていた。

 セーレの横ではハーアルターが右手を床と平行に伸ばし、親指をブラウラトに、他の四本の指をウィドに向けていて、火属性下位紋章魔法『炎の五本指(ファイブィンガ)』によって手の甲の上に五つの小さな火球を作り出していた。

 そして、一瞬の間を置いて、ハーアルターの手から五つの火球が、対応した指の向きに合せて放たれる。


「っつ!?」

 ブラウラトは慌てて横に跳んで、セーレの放った氷の矢を回避する。

 そして、ハーアルターの放った火球を左手で叩き落す。


「ぐっ!?『茨の柵(ソーンフェンス)』!」

 ウィドは『茨の種』とハーアルターの放った火球の一つが衝突し、爆発と棘の生えた蔓が空中に生じるのを見ると同時に、腰に提げていたプレートの一つに触れてキーワードを唱え、木属性下位紋章魔法『茨の柵』を発動。

 『茨の種』が生み出すのよりも太い棘付きの蔓が床から斜めに交差するように何本も生み出され、ウィドの前で壁のような形になる。

 そして『茨の柵』が完全に発動した所で、残り三つの火球が到達、爆発するが、棘付きの蔓は少し揺れただけだった。


『これは意外や意外!急造コンビ、見事に一合凌いで見せた!いや、攻めてすらいたぞー!』

「「「ーーーーーーー!!」」」

 一連のやり取りに闘技演習場全体が歓声で満ちる。

 だが、その裏では次に備えた動きが既に始まっていた。


「ふぅー、あぶねぇあぶねぇ。一歩間違えれば場外だったな」

 ブラウラトは『茨の柵』の裏側にまで移動すると、両手のナックルを操作して、二重構造になっている持ち手の内側をその場に落とし、腰に付けていた持ち手部分によく似た棒を代わりに填め込む。

 なお、当然ではあるが、その棒の内側には紋章が描かれた羊皮紙が入っている。


「油断し過ぎだ、馬鹿野郎。だがまあ、これで奴らは最初で最後の好機を見逃したな」

「違いない」

 ブラウラトがナックルの中身を入れ替えている間、ウィドは茨の柵の隙間から、氷の壁を再び生み出したセーレとハーアルターの動きを窺い、動きがあれば何時でもブラウラトに知らせられるようにしていた。

 当然、筒型の魔具の先端はハーアルターたちに油断なく向けられている。


『で、ソウソーさん。私、先程からハーアルターの使っている紋章魔法のキーワードがおかしいと感じているのですが、その辺りどうなんでしょうか?』

『アレは『短縮詠唱(クイックスペル)』と呼ばれる技法でやんすね』

「ふぅ……何とか凌いだね」

「すぅ……はぁ……、だが、仕留めきれなかった。上手くいけば、今のでブラウラトはやれたはずだ」

「でも、仕留められないこと含めて、ソウソーさんの予想通りでしょ」

「すぅ……はぁ……、まあな」

 セーレは一連のやり取りが終わると、『氷壁』の紋章魔法を再び発動し、その背後にハーアルターと自分を隠していた。

 そしてセーレの横では、緊張をほぐすように、ハーアルターが呼吸を整えていた。


『『短縮詠唱』?』

『紋章魔法発動の為のキーワードをもっと短いものに変更することによって、素早く発動できるようにする技法っす。言うほど簡単な技法ではないっすが、オースティア王国の国境を守るターンド伯爵家の次期当主になるであろうハーアルターなら、実家で習っていてもおかしくはないっすね』

「それじゃあ……此処から先、暫くはハー君頼みだね」

「そうだな。普通の不意討ちが成功しなかった以上、もう僕たちの事をアイツ等が甘く見てくれるとは思わない方がいい。後、ハー君は止めろ」

「可愛いのに」

「僕は男だ。男に可愛いだなんて言うな」

 ハーアルターとセーレは少しの会話と目配せをすると、氷の壁の左右から少しだけ顔を出し、『茨の柵』の向こうに隠れているであろうブラウラトとウィドの様子を窺う。

 そして相手に動きが無い事を確認すると、セーレが動き出す。


「じゃあ、お願いね」

「ああ、任せておけ」

 セーレは闘技場の端にまで密かに移動すると、棒を床に対して垂直に立てる。


「すぅ……」

 そして息を大きく吸い込むと……


「『唄を謳おう、寄せては返し、返しは寄す細波と乙女の唄を』」

 歌うように明確なリズムと音階を有する形で言葉を発し、腰に提げた本へと魔力を注ぎ込み始めた。

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