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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第二章:決闘をする狩人
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第83話「決闘準備-4」

 ティタンが『破壊者(ブレイカー)』と再び接触した日の夕方。


「きゅーきゅっきゅっきゅっ」

 用務員小屋の前では、ソウソーが奇妙な高笑いを上げていた。


「「……」」

 それも緊急の呼び出しと言う名目で呼び寄せたハーアルターとセーレの前で。


「よく来たでやんすね。ハーアルター、セーレ。感心感心でやんす」

「「……」」

 ソウソーの行動に対してハーアルターとセーレが向ける視線は冷たい。

 だがソウソーにその事を気にする様子はなく、腕を組んで、ひたすらに高笑いを上げている。


「おい、チビ用務員」

「ハーアルターの方が今は小さいでやんすけどね」

「そんな事はどうでもいい。それよりもだ」

 と、いい加減にソウソーの高笑いがウザったくなって来たのか、ハーアルターが不満な様子を隠す事もなく口を開く。


「僕も彼女も今はとても忙しいんだ。少なくともお前の遊びに付き合っている暇が無い程度にはな」

「緊急の呼び出しなんでしょう。早く本題に入ってくれない?」

「つれないっすねぇ」

「……。どうやら大した用事もなさそうだな。なら、僕はもう帰らせてもらうぞ」

「そうね。私も今は一分一秒が惜しい状況。本題に入らないなら、もう帰らせてもらうわ」

「……」

 そして、そうやってあからさまに不快感を伝えているにも関わらず、未だに飄々とした態度を崩そうとしないソウソーに苛立ちながら、ハーアルターとセーレが踵を返そうとした時だった。


「二人の決闘相手であるウィドとブラウラトの情報、欲しくないんすか?」

「「!?」」

 ソウソーが二人の感心を得るに値する一言を発し、ハーアルターもセーレもピタリと足を止める。


「興味があるなら用務員小屋の中に来るといいっす。外でするにはちょっと問題がある話っすからね」

 決闘相手に関する情報。

 ソウソーが持っている情報がどの程度の物で、何故それを一生徒であるハーアルターとセーレに教えるのかは二人には分からない。

 だがその情報は今のハーアルターとセーレにとっては喉から手が出るほどに欲しい情報だと言えた。


「……行こう」

「……そうね」

 ハーアルターとセーレは一度頷き合うと、用務員小屋の中に入って行った。



--------------



「さて、一つ一つ質問に答えていくとするでやんすかね。何でも質問すると良いっすよ」

 用務員小屋の中にはソウソー、ハーアルター、セーレの姿だけがあり、三人の前には湯気の立っている紅茶入りのカップが置かれていた。


「ウィドとブラウラトの情報をくれるって本当?」

「本当でやんす。長い話になるんで、他の質問に答えてからになるっすけどね」

 セーレは緊張した様子でソウソーに質問をする。


「他の用務員はどうした?」

「ゴーリ班長とクリムの二人は、今日はもう上がっているっす。ティタンは今朝から三日ほどオース山に籠っている予定っす」

 ハーアルターは何処か警戒した様子でソウソーに問いかける。


「三日間?大丈夫なの?オース山は魔獣だらけの……」

「ティタンなら大丈夫っすよ。採用試験でも丸三日籠っていたでやんすし、その気になれば一年中山の中で暮らす事だって出来るはずっすよ」

「……」

「ま、二人がティタンについて気にする必要はないっす。決闘の順番は二人の方が先なんでやんすからね」

 だが、二人の様子など気にした様子もなく、ソウソーはとてもリラックスした様子で小さく笑う。


「そもそも、どうして僕たちに情報を渡す?」

「わざわざ説明することでもない気がするでやんすが……一応説明しておくなら、二人が決闘する相手であるウィド・フォートレーとブラウラト・デザートはライ・オドルの取り巻きっす」

「……」

「取り巻きが負ければ、ティタンとの決闘を直後に控えているライに精神的なダメージを与えられるっす。そうすれば、どの程度の効果が上がるのかは分からないでやんすが、多少はティタンにとって有利な状況を作り出せる」

「……」

「なら、ティタンと同じ狩猟用務員として、この程度の小細工は弄するでやんすよ。勝手に、でやんすけどねー」

 笑い声を上げるソウソーを、ハーアルターとセーレは胡散臭いものを見るような目で見る。

 だがそんな視線を受けてもソウソーは一切動揺した様子も見せずに、笑みを深めて見せる。


「怪しむぐらいでちょうどいいっすよ。あっしみたいなタイプを信用するのは危険でやんすからねぇ。と言うわけで、今から話す情報も参考程度に留めておくことをお勧めするっすよ」

「自分で言うのか……」

「……」

 それどころか、何処か怪しげな雰囲気すら漂わせて見せる。

 その姿にハーアルターとセーレはソウソーに対して警戒感を強めざるを得なかった。


「ま、とりあえず言っておく事として、ウィドもブラウラトも戦闘に用いるために四年間紋章魔法を学んだ生粋の武闘派でやんす。よって、あの二人と一年であるハーアルターと三年であるセーレの間にある戦力差は結構大きな物になるっす」

「「……」」

 だがそれでも話を聞く価値はある。

 そう判断して、ハーアルターとセーレはソウソーの言葉に耳を傾ける。


「と言うわけで、まずはお互いの手札を相棒にきちんと明かしておくことをオススメするでやんすよ。ハーアルターは『短縮詠唱(クイックスペル)』について、セーレは『積層詠唱(パイルキャスト)』についてもでやんす」

「「!?」」

 そうして耳を傾けた結果、二人は驚愕する。

 絶対に他人が知っているはずがないと思っていた情報を、まったくの赤の他人であるソウソーが知っていた為に。


「きゅっきゅっきゅっ。さ、ちゃんと一から十まで話して、相手の情報も得て、勝てる戦略を組み立てるっすよ。『魔法使い同士が決闘をするなら、勝敗の九割は事前の準備で決まる』んでやんすから」

「「……」」

 この日、ハーアルターとセーレは理解する。

 先輩たちの言っていた『今の狩猟用務員は化け物揃い』だと言う言葉の意味を。

なお、その先輩はティタンの事を含めたつもりは無かった模様

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