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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第二章:決闘をする狩人
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第82話「決闘準備-3」

『まったく、他に用事があった上に、知識も追いついていないから今まで後回しにしてきたと言うのは理解できなくもないが、もう少し合間合間に自分の力の正体について、真面目に考えるぐらいはしてもいいだろうが』

 背後から『破壊者(ブレイカー)』の何処か呆れたような声が聞こえてくる。

 いや、呆れたようではなく、実際に呆れているのか。

 今の今まで、魔獣化について俺がなるべく考えないようにしてきた事もバレているようだし。


『で、他にも色々と言いたい事はあるが……まあ、今は貴様の置かれている状況を鑑みて、アドバイスの方を優先してやる』

 『破壊者』が俺の背後から、脇をすり抜けて俺の前の方へと出てくる。

 その姿は相変わらず麦藁のような髪の毛に、金色のドラゴンのような瞳、血のように紅い衣、骨のような見た目の両腕という物であり、変化という物を感じさせない姿だった。


『まず初めに言っておく事としてだ』

 『破壊者』が指を鳴らすと同時に、俺の背後で強烈な閃光が迸る。

 すると光によって俺の足元から『破壊者』が居る方に向けて影が伸びていく。

 そして俺の影が『破壊者』に触れた瞬間、影が盛り上がり、何かの姿を取っていくと言う、俄かには信じがたい現象が起きる。


『これも貴様だ』

 やがて現れたのは、複数種類の獣の身体を繋ぎ合わせたような姿をした全身黒の獣。

 その手にはベグブレッサーの樹にそのまま弦を張ったような弓が握られていた。

 そして、その構えは……俺が今取っている構えと全く同一の物だった。

 ああ、間違いない。

 これは俺だ。

 危うくメルトレスたちを手にかけるところだった、魔獣としての俺がそこに居る。


『人間としての姿も、獣としての姿も、貴様であることに変わりはない。だが世の理として、完全に同一の存在が同じ次元……ああいや、時間と空間に存在することは基本的に許されない。仮に主と従を明らかにせず同一の存在が同時に存在してしまえば、良くてお互いを喰らいあい潰しあい、己こそが絶対唯一の存在として相手に認めさせようとするだろう。故に人間としての貴様が居る限り、獣としての貴様が外に出る事は出来ず、その逆もまた然りだ』

 ……。

 どうしようか、『破壊者』が言っている事がまるで理解できない。


『だが、どちらか片方の貴様しか居ない場合、貴様と言う存在は様々な問題を……』

 『破壊者』が俺と黒い獣、その両方の顔を交互に、そしてしばしの間、観察する。


『まあ、貴様のような現場の存在は使えるようにだけなっていれば問題はないか』

 また呆れられた気がする。

 気がするが……『破壊者』が何を言っているのかまるで分からないので、ここで話が切り上がってくれるなら、そちらの方が正直に言ってありがたい。

 本当に何言っているのか分からないし。


『とりあえずあれだ。どっちも貴様だ。そして、貴様たちは同時に存在できない。が、入れ替わる事は出来る。全身でも、一部でも、な』

 ああうん、なるほど、それなら分かる。


『アドバイスはこの程度だ。これ以上やると、貴様が自分の力について考え始めたと言う前提があっても、過干渉扱いになって碌でもない事になるだろうしな』

 『破壊者』が指を鳴らす。

 すると、その音に合わせるように黒い獣の姿が消え、俺の影も元通りになる。


『さて……』

 それにしても疑問がある。

 それも根本的な疑問だ。

 いったい何故『破壊者』は俺に対してこのような助言をするのだろうか?


『……』

 と、俺が疑問に感じている事を感じ取ったのかは分からないが、俺に背を向けてどこかに消えようとしていた『破壊者』の足が止まる。


『その疑問への答えは極々簡単なものだ』

 ……。

 どうやら感じ取られていたらしい。

 以前から俺の心を読んでいたとしか思えない言動ばかりだったので、意外でもなんでもないが。


『私は『破壊者』だ。何かを壊す事しか目的には出来ない。が、破壊者にも破壊者としての矜持という物があってな。壊す物ぐらいは選ぶ。周りに害悪しか齎さない屑と毎日誠心誠意努力しているも人間ならば前者を、生まれに関わらず万人を助けようとする者と生まれに驕って他を虐げる愚者ならば後者を、と言う風にな』

 『破壊者』は口元には笑みを、そして眉間には皺を寄せつつ、語ってみせる。

 そしてその笑みを見て俺は直感する。

 『破壊者』は誰にも従わない、屈しない、ただ己の定めた理に従って力を振るうのだと。

 それこそ人々に紋章魔法を授けた箒星の神が相手であろうとも。


『私はな、嫌いなんだよ。不幸な運命という都合のいい名前の下、人を勝手に踊らせて、醜くもがく様を楽しんでいる変化がな。だからぶち壊すのさ。相手が私自身であっても……な』

 見方次第では身勝手で、我がままで、まるで子供のような言い分だ。

 けれど『破壊者』はそれを……少なくとも俺が理解できる範囲では実現しているように見え、その姿に俺としてはただ憧れる事しか出来なかった。


『と、これ以上の自分語りは控えるべきだな。何処から妹たちに私がここに居るかバレるか分かったものではない。では、不溶の姫共々期待しているぞ。ティタン・ボースミス』

 そうして言いたい事は言い終わったと言うような姿を見せつつ『破壊者』は去って行った。


「入れ替える……か」

 そして『破壊者』が去ると同時に、俺の身体は元通りに動かせるようになっていた。

03/16誤字訂正

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