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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第一章:学園にやってきた狩人
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第8話「用務員試験-3」

「おっ、帰って来たな」

「ふむ、傷らしい傷は負っていないようじゃの」

 俺がオース山を降りて、用務員小屋の前に戻ってくると、そこにはゴーリさん、クリムさん、ソウソーさんの三人に加え、学園長も居た。


「よし、それじゃあ早速、オース山の中で回収した物を全て出してくれ」

「はい」

 俺はゴーリさんに言われるままに、用務員小屋の前にひかれている大きな麻布の上にオース山の中で手に入れた物を並べていく。


「ジャッジベリーはカウント対象外だが?」

「山の中で回収した物には変わりませんから」

「生真面目じゃのー」

 そうして12種類の素材とジャッジベリーを並べ終わったところで、俺はこれで全部だとゴーリさんに告げる。


「ようし。じゃ、検分を始めるぞ。クリム」

「分かった」

 クリムさんが俺からリストを受け取って、12種類の素材の検分を始める。


「ミスミソウ、ヒヒカズラの実、エスケーピッドの骨、パジサカキの葉、アイアーの枝、スナハキの羽根、キリウミタケ、ヤテンガイの実、リストに載っているのはこれだけだな。どれも俺が見た限りでは紋章魔法の素材として使える状態にあるな」

「なるほど」

 クリムさんは手馴れた手つきで俺が持ってきた素材を改め、リストとは別の羊皮紙に素材の種類、数、状態を書き記していく。

 そして改め終えると、クリムさんは自分が書いた羊皮紙をゴーリさんに渡す。

 ゴーリさんは羊皮紙を一度眺めて、何かに納得するように頷くと、顔の動きだけでソウソーさんに動くよう指示をする。


「じゃ、次はリストに載っていないものの検分でやんすね。はい、加工用の器具っす。ちゃんと素材ごとに別々の道具を使うっすよー」

「ありがとうございます」

「持ち帰って来たのは……フレアビートルの角、ニクロムソンの牙、ヤキノコ、アブラマツの枝か。随分と片寄っているのう」

「俺が素材だと証明出来るのは限られていますので」

 ソウソーさんから乳鉢と乳棒を初めとした各種器具を受け取った俺は、その場に腰を下ろすと、手始めに焼けた肉のような黒と茶色の傘を持つ茸……ヤキノコを水の張った鍋に漬けておく。

 で、ヤキノコの準備が出来た所で、俺はフレアビートルの角を乳鉢の中で砕き、血と混ぜ、紋章魔法の発動場所として用意されていた盆の上に血と混ぜ合わせたフレアビートルの角の粉末で『発火(イグナイト)』の魔法の紋章を描き、発動する。


「まずは一種っすね」

 ソウソーさんが羊皮紙に何かを書き込む横で、俺は火の付いた盆をヤキノコを入れた鍋の下に入れておく。

 ヤキノコは煮汁を素材として使うからだ。


「次に移ります」

「どうぞっすー」

 俺はニクロムソンの牙とアブラマツの枝も同じように砕き、血と混ぜると、『発火』の紋章魔法を発動させる。


「もしかしなくても『発火』以外は使えないっすか?」

「産まれてから殆どの間、紋章魔法には関わって来なかったもので」

「それで証明できるのは限られている……か。見栄を張らないだけ好感は持てるな」

「だな。自分で扱えるものだけ持って来いと言ったのに、扱えないのを持って来て、意固地になるような奴よりはるかにマシだ」

「あの時は正直すまんかった。儂もあんなのだとは思わなかったんじゃよ」

「?」

 俺が作業をしている横で、ゴーリさんたちが何かを懐かしむように妙な会話をしているが、昔何か有ったのだろうか?

 いや、俺が気にする事ではないな。

 今はヤキノコの方に注意を向けるべきだ。


「で、ヤキノコを煮てどうするんでやんすか?」

「煮汁は血と混ぜ合わせて煮詰めれば、俺の腕でも『発火』の紋章魔法の素材に出来ます。それと……」

「それと?」

「煮たヤキノコをもう一度焼くと、本物の肉みたいな風味が出るので、今晩の食事に加えようかと」

「ああ、美味しいでやんすよね。あれ」

 俺は『発火』の魔法による火を、普通の火に切り替えると、延々とヤキノコを煮詰める。

 そんな俺の横ではゴーリさんたちが何故か金網や肉の準備をしていた。


「えと?」

 流石にその光景には疑問を感じずにはいられなかったので、俺は首を傾げる。

 すると、ゴーリさんは何でもなさそうに言い放った。


「あ、ティタン。お前合格な」

「え!?」

 まさかの合格通告だった。

 まだヤキノコの作業は終わっていないのに。


「はっはっは、持ち帰った素材12種の内11種類が素材として使える事が確認できているんだぞ。これで合格にならないんだったら、俺は審査員をぶん殴る」

「えーと……」

「罠を使っていないのはこちらで確認しているし、火の始末も問題なし。幾つか聞きたい事はあるが、減点要素は見当たらなかったな」

「その……」

「三日の間に髭が伸びすぎて人相が変わっているでやんすけど、一時も監視は緩めていないでやんすから、同一人物なのは間違いないでやんすしねぇ」

「……」

「あ、ゴーリ、儂秘蔵のニクロムソン酒があるんじゃが、祝いと言う事で一本開けるか?」

「おっ、いいっすねえ。学園長」

「……」

 ああうん、まあ、合格したならば問題はないか。

 せめてもの足掻きではないけれど、ヤキノコの素材証明も兼ねて、薪への着火はヤキノコの煮汁から作ったインクでやらせてもらうけれど。

 後、お酒は爺ちゃんから大きくなってからも辞めた方がいいと言われているので、謹んでお断りさせてもらうとしよう。

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