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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第二章:決闘をする狩人
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第78話「問題児たち-3」

「こ、これはこれはメルトレス様。このような場でお会いできるとは。しかし今日もお美しく……」

「貴方のおべっかは聞くだけで不愉快になるので結構です。ライ・オドル」

「なっ!?」

 メルトレスはゆっくりとした足取りでこちらに近づいてくる。

 ライ・オドルなど気にする価値もないと態度で表しつつ。

 そして、そんなメルトレスの対応が予想外だったのか、マトモに言葉を発する事も出来ずに唖然とした様子を俺たちに見せていた。


「さて、私は途中から話を聞き始めたので、貴方たちのしていた面白い話を全て把握しているわけではありません。ですので、どちらの味方をする事もなく、ただ事実だけを述べさせてもらいます」

 メルトレスは俺の隣までやってくると、ライ・オドルたちとハーアルターたちを笑顔のまま交互に見つめる。

 その姿は表情こそ笑顔のままだが、非常に恐ろしいものであり、『鋼鉄姫』と言うあだ名に相応しい姿だった。


「まず第一に、ここは“王立”オースティア魔紋学園です。学園の創始者はオースティア王家であり、今も学園に対して強い影響力を有しています。故に間接的にではありますが、学園の教職員は王家に仕える者として扱われます。そして、オースティア王家には正当な理由もなく、外部からの圧力に屈して教職員を解雇するような軟弱者も愚か者も居ません。むしろそのような事があれば、圧力を発した側を誅すでしょう」

「ぐっ……」

 メルトレスの言葉にライ・オドルが僅かにだがたじろぐ。

 だが、彼がたじろぐのも当然だろう。

 オドル家は所詮ただの伯爵家であり、その地位を保証しているのは他ならぬオースティア王家なのだから。

 オースティア王家に正当な理由なく反抗すれば、オドル家は一方的にただ潰されるだけである。

 なので、もしも彼が本当にオドル伯爵家の権力を使って俺を解雇しようとしたら……メルトレスの今の様子から察するに、躊躇いなくオースティア王家の力を使うだろう。

 色々と別に問題が生じるので、出来れば起きて欲しくない展開ではあるが。


「次に制服に汚れが付いたと言う話ですが、別に何の問題もないでしょう。制服の替えなど学園に請求すれば、よほど馬鹿らしい理由で傷をつけたのでもなければ、まず間違いなく次の日の朝には新しい制服が届いています。汚れを付けられたこと自体への怒りはともかくとして、何時までもその事に固執している意味はないはずです。それこそ、制服そっくりに仕立てた私服を身に付けたりしているのでもなければ……ね」

「うぐっ……」

 俺はメルトレスの言葉を受けて、ハーアルターとライ・オドルたちが着ている制服を見比べてみる。

 すると、両者の身に付けている服はとてもよく似ているが、微妙に生地の光の反射具合や、色合いが異なっているような印象を受けた。

 なるほど、どうやらライ・オドルたちが着ていた服は制服によく似た私服であったらしい。

 ここは学園なので、生徒の制服着用は一部例外を除いて義務である。

 つまり、メルトレスは敢えて深く突っ込んでいないようだが、彼らは学則違反をしているらしい。


「最後に暴力ですが、これはもう論ずるまでもありません。王立オースティア魔紋学園では、一部の例外的状況を除き、あらゆる種類の暴力が禁じられています。この点については学生も教職員も、貴族も平民も、男女も歳の差も関係ありません。もしもこの決まり事を破るのであれば、学生なら反省文、停学処分、場合によっては退学処分や、法的な罰則も有り得ると言っておきましょう」

「ぐぎぎ……」

 メルトレスの刺すような視線を受けて、ライ・オドル以外の二人が半歩分ではあるが、後ずさりをする。

 どうやら彼らも自分たちの行いが露見すればどうなるのかは理解しているらしい。

 尤も、王家に露見すれば、とか言う余計な物が付いていそうな気もするが。


「さて、ライ・オドル、ウィド・フォートレー、ブラウラト・デザート。貴方たち三人は今の私の言葉を受けて、どうするのかしら?」

 始業式の時に俺が一瞬感じたのは比べ物にならないような威圧感を発しつつ、メルトレスはライ・オドルたちに問いかける。

 うん、彼らが似たような事を常日頃からやっていそうな事、最初の普段のメルトレスらしくない反応、これらを合わせて考えると、どうやらメルトレスはライ・オドルたちの事を本気で嫌っているらしい。

 となれば、これは最後通告なのだろう。

 素直に退いて大人しくしなければ、出るところに出るぞと言う。


「くっ……だったら……」

 ライ・オドルが他の二人に対して目配せをする。

 その動きに俺は彼らが何をしてもいいように、心だけではあるが何時でも動けるように身構えておく。

 だが、彼らの採った行動は、そんな俺の予想とはまるで異なるものだった。


「狩猟用務員!俺、ライ・オドルは貴様に尋常なる決闘を申し込む!」

「ブラウラト・デザートはそこの生意気な後輩に決闘を申し込む!」

「ウィド・フォートレーはそこの気色悪い髪の女に決闘を申し込む!」

 それは決闘の申し込み。

 決闘と言う、あらゆる暴力行為を禁じる学園の中で、力を振るう事が許される例外的な状況の一つに俺たちを引き込む行動だった。


「なっ!?何を言って……」

 メルトレスはそれを止めようとする。


「いいだろう。僕が相手になってやる」

「いいわ、やってあげる。吠え面をかかせてあげるわ」

 だがメルトレスが止めるよりも早くハーアルターと白めの髪の女子生徒が決闘に了承。


「ティタン様!」

「……。分かった、やろう」

 そして、俺もメルトレスが止めようとしているのを理解した上で、本来ならば受ける必要のない決闘を受けた。


「くくく、ならばついて来い!今から一緒に闘技演習場に申し込んでもらうぞ!」

「いいだろう」

 だが、必要では無くても受ける理由はあった。

 此処で逃げればこいつ等はきっと、もっと碌でもない事をする。

 それを止めるのは、止める機会を得ることが出来た俺の役目だと理解していたが為に。

ティタン含めての「問題児たち」とか言いたくなってきますね

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