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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第二章:決闘をする狩人

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第75話「プレート作成-5」

「これだから素人は……彫りながら簡単に説明してやる」

「お願いします」

 凄く嫌々と言った様子でハーアルターは説明を始めてくれる。

 どうやら俺は魔法使いにとっては知っていて当たり前のことを聞いてしまったらしい。

 だが聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥とも言うし、一度発した言葉を取り消す事も出来ないし、こうなれば素直に聞くのが一番だろう。


「原盤の厚みの三分の一だけ彫るのが良い理由は幾つかある」

 なお、俺もハーアルターも原盤を彫る手を緩めることはない。

 今は授業の最中であり、優先すべきなのは原盤を彫る事であるからだ。


「まずは単純にその方が強度があり、安定するからだ。と言うより、そうしないとプレート型の魔具が造れない」

「安定?」

 ハーアルターはそう言うと、自分が彫っている赤い原盤の一部、他の紋章の構成部分に一切接触していない補助記号の一つを彫刻刀で指す。


「例えばここの射出に関わる部分の補助記号だが、コイツは僕の紋章の構成上、他の記号とは接触させるわけにはいかず、この場から動かすわけにもいかず、文字を太くするわけにもいかない補助記号なんだ。そして、そんな重要な記号であるにも関わらず、コイツには原盤との繋がり以外に支えになる物が無い」

「あー……もしかして……」

「そうだ。もしもここで原盤を半分以上削ってしまったら、長さと薄さが相まって、ちょっとした衝撃で欠けることになる。そうなれば、欠け方次第では紋章は不成立となり、紋章魔法は使えなくなる」

「だから三分の一。ですか」

「そうだ、だから三分の一なんだ」

 まずは一つ、ハーアルターの言葉で俺は改めて納得する。

 だが当然と言えば当然の話でもある。

 長く、細い物はそれだけ折れやすい、だがプレート型の魔具では作る紋章次第ではそう言う部位を生じさせざるを得ない場合がある。

 そういう時に少しでも紋章が欠ける危険性を減らすために、彫る量を抑える必要があるのだろう。

 尤も、間に魔具の素材にならない物を緩衝材として入れるなど、欠けるのを防ぐ方法もあるはずだが……それをやったら、もはやプレート型の魔具ではないと言う事なのかもしれない。


「後は魔法の効率と発動回数の釣り合いだな」

 分からないのはこっちだ。

 一体どういう事なのだろうか?


「プレート型のように立体的な魔具は、基本的に紋章魔法は紋章に厚みがある方が効果が高くなりやすく、大量の素材が使われている方が一つの紋章を繰り返し使えるようになる」

「?」

「……。本当にド素人なんだな。用務員」

「えーと、すみません」

 また呆れられた。

 しかし効果が高くなると言うのは本当にどういう事なんだろうか?


「詳しい理論は省く。とにかくお前はプレート型の魔具については、彫りを深くした方が魔法の効果が高くなるって事を覚えておけばいい」

「なるほど」

「実際の効果としては……仮に原盤を完全に彫り抜いた物を100%の効果を発揮する紋章とするなら、三分の一まで彫った物は80%の効果しか発揮出来ない紋章になる」

「ふむふむ」

 なるほど、プレート型の魔具と言うのは、彫りを深くするほどに効果が高くなるのか。

 けれど、彫りを深くすれば、それだけ細かいパーツの強度が下がり、壊れやすくなる。

 いや、壊れやすくなるどころか、さっきハーアルターが示した位置を動かせない補助記号なんかは、ちょっとした振動で位置がずれてしまうようになるのかもしれない。

 それを防ごうと思ったら、出来る限りしっかりとした原盤と触れていた方がいい。

 ああなるほど、だから三分の一なのか。


「ちなみに、この三分の一ってのは結構重要な割合らしくてな、四分の一しか彫らなくなると途端に効果が半分以下までに落ちるらしい。そして二分の一まで彫っても、効果は90%程度までしか上がらないそうだ」

「なるほど、なら少し効果が落ちるのが分かっていて、三分の一にするのは選択肢としては十分ありですね」

「そう言う事だ」

 そして三分の一にするべき理由は他にもあると。


「まだある。羊皮紙などに描いた紋章と違って、プレート型の紋章は何度か使えるものだ」

「それは知ってます」

「流石に知ってたか。まあいい、話を進めるぞ。紋章を使える回数は、その紋章を作っている素材の中に含まれている魔力の量によると言われている」

「ふむふむ」

 チョーク型やインク型の話になるが、俺は普通の植物よりも、魔獣の素材を使った方が、より効果の高い紋章が造れる事を思い出す。

 それから考えれば、使う素材の量を増やし、発動する魔法を限れば、確かに紋章魔法を使える回数が増えるのかもしれない。


「ここで重要なのは、紋章を作っている素材に含まれるのは紋章を構成している部分の素材だけではなく、原盤から削らずに残った部位の素材も含んでいると言う事だ」

「あ……」

 そこで俺は気づく。

 彫りを浅くする利点に。


「そうだ。彫りを浅くすれば、それだけ削る原盤の量が少なくなる。つまりそれだけ紋章魔法を使える回数が多くなると言う事だ」

 そう、彫りを浅くすれば、それだけ紋章を構成する素材の量は多くなる。

 だから残すのだ。


「後は他の要素との兼ね合いだ。彫りを深くすれば効果は高くなるが、強度と回数は悪くなる。彫りを浅くすれば効果は落ちるが、強度と回数は良くなる」

「だから原盤の厚みの三分の一だけ彫る……と」

「そう言う事だ」

 そして、これらの諸要素が一番釣り合っていて、実践的なのが厚みの三分の一だけ彫ると言う事。

 だから、三分の一だけ彫るのだ。

 うん、凄く納得がいった。

 それならば三分の一だけ彫るようにセイゾー先生が言うのも当然である。


「ところで用務員?」

「どうしました?」

「何で僕と喋りながらだったはずなのに、もう完成しているんだ?」

「えーと……」

 俺は改めて自分の原盤とハーアルターの原盤を比べる。

 俺の原盤は既に彫り上がっており、後は少しだけ調整して魔具弓にセットすれば何時でも『ぼやける』を使える様な状態になっている。

 対するハーアルターの原盤はまだ半分を少し過ぎたぐらいだった。

 会話を始める前と同じペースを維持していれば、ハーアルターは三分の二ぐらいまでいっているはずである。

 つまり、何故かは分からないが差が開いてしまっていた。


「慣れ……ですかね?」

「……」

 俺の言葉にハーアルターは頬をヒクつかせる。


「ブツブツ(クソッ、有り得ないだろうが。僕は彫るペースを落としたりはしていないぞ。喋りながら別の事をやるのだって慣れてる。なのに何でコイツは僕と話しているのに、彫るペースがむしろ上がっているんだ。一体コイツの頭の中はどうなってんだ。口と手が別の頭で動いているんじゃないか?)」

 そして、俺には聞き取れない声量と速さでブツブツと何かを呟きつつ、怨みをぶつけるように凄まじい速さで原盤を削り始める。

 一体どうしたと言うのだろうか?

 うーん、分からないことだらけである。

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