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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第二章:決闘をする狩人
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第70話「情報収集」

「ティタン、作業の手は止めなくていいんで、あっしの質問にちょっと答えてもらっていいっすか?」

 四月の最終週に入った。

 今日はゴーリ班長とクリムさんの二人が、それぞれ数人の生徒を連れてオース山に入っており、俺とソウソーさんは用務員小屋で待機、書類仕事をやるようにと言われている。

 が、今日の分の書類仕事は量が量だったために午前中で片付いてしまった。

 そのため、今は実質的に自由時間と言う事になり、ソウソーさんと雑談をしつつ、俺はメルトレスに贈る骨細工作りに勤しむ事にしたのだった。


「別に手を止めても問題はないですけど……何ですか?」

「本当にちょっとした質問っすよ」

 俺は以前の狩りで報酬として受け取ったニクロムソンの骨、それに骨細工に必要な道具を取り出すと、それを机の上に並べる。

 そして、道具に不備が無いか、骨に今の時点でも分かるようなヒビなどが無いかを確かめていく。


「ティタン、好きな食べ物は何っすか?」

「好きな食べ物ですか?温かい食べ物ならだいたいなんでも好みですけど……ああ、肉は割と好きです。後、この前食堂で食べたバジル入りのパンは美味しかったです」

「ふむふむ、肉の種類の好みは?」

「特には無いです。生焼けは嫌いですけど」

 さて、骨にも道具にも問題もない事が分かったところで、作業開始である。

 と言っても、メルトレスにも告げた通り、俺の骨細工は所詮素人仕事、やれることなど極々限られたものだが。


「逆に嫌いなものはあるっすか?」

「んー……体を冷やす食べ物はあまり好きじゃないです。どちらかと言えばと言う程度ですけど」

「ちなみに食べ物以外だと?」

「ドラゴンと父親は嫌いです」

 俺はニクロムソンの骨をヤスリで慎重に削っていき、尖っている部分や角ばっている部分を滑らかにして、肌や服に骨が触れても傷がつかないようにしていく。


「まあ、ティタンの人生経験上、その二つは当然っすよね……それ以外だとどうっすか?」

「嫌いと言うよりは苦手と言った方が正しい気がしますけど、始業式での的当てみたいに目立つのは嫌ですね。どうにも落ち着かないです」

「狩人としてサガっすかね?」

「たぶんそうだと思います」

 そうして、丸みの帯びた骨が得られたところで、俺は錐を使って紐を通すための穴を慎重に開けていく。

 この作業は特に気を付けなければならない。

 なにせ力加減を間違えたり、錐を通す場所を誤ったりすると、骨が割れてしまう事もあるからだ。


「んー……出来るだけ早めに慣れておいた方がいいっすよ。もう暫くはそう言う機会はないはずっすけど、その内生徒たちの前に立って、何かしらの説明をする場面とかもあるはずっすから」

「う……善処します」

「頑張るっすよー」

 やがてニクロムソンの骨に小さな穴が開く。

 狙い通り紐の太さよりも少しだけ大きい穴で、穴の周りにひび割れなどは見られない。

 成功である。


「頑張ると言えば……『黒煙(ブラクスモーク)』についてはどんな感じっすか?」

「『黒煙』ですか?」

「そうっす。そろそろ基本形ぐらいは上手くいくようになって来たんじゃないっすか?」

「そうですね。少しずつ黒い煙みたいなものが出てくるようにはなってます。まだまだ安定はしませんけど」

 俺は他の骨にも無事に穴を開けると、穴が開いたニクロムソンの骨を、予め作っておいた特製の薬が入っている器の中へとゆっくりと沈める。

 この器の中に入っている薬は、チョーク型の魔具を作る時に使う結合剤を基に俺が改良を施した薬で、獣の骨に十分に染み込ませた後に乾かすと、ちょっとした衝撃程度では折れたり砕けたりしなくなるのである。

 漬けておく時間は……まあ、明日の朝ぐらいまでなら、別に放っておいても大丈夫だろう。

 長く漬けた分だけ乾かすのに時間はかかるかもしれないが。


「安定性については数をこなすしかないっすね。練習の成果が一番出るのがそこっすから」

「効果範囲や時間、魔力の消費量なんかは予め紋章に記載されているから、ですね」

「その通りっす。素人や習いたてにはよく勘違いされるっすけど、意思魔法と違って紋章魔法は魔力を過剰に注ぎ込んでも、紋章に負荷をかけて失敗しやすくなるだけなんでやんす」

「だから正確に魔力を注ぎ込む必要がある、と」

 今日の分の作業は完了したと言う事で、俺は骨細工の為の道具を片付ける。

 時間は余っているので、この道具を使って矢の補充をしても良かったのだが、矢の数は足りているので、無理に今日足す必要もないだろう。


「そう言う事っすねー。ま、練習あるのみっすよ。ぶっつけ本番でやる魔法なんて信頼性の欠片もないでやんすしね」

「ですね。そんな力を使うなら、俺は失敗すること前提で使います」

「それが正解っすよ」

 そうして片付け終わったところで、俺は妙な申請書類を見つける。

 その三人分あったオース山への入山を求める申請書類には、既に不認可の判子が押されていた。

 が、俺の目で見る限りでは、書類の不備のような物は見つけられなかった。


「ソウソーさん、この書類は?」

「それは問題児連中が申請した奴っすよ。装備と目的の内容的には問題ないでやんすが、本人の素行を考えたら、信頼性はゼロっす。あっしらの言う事も聞かない可能性が高いでやんすから、不認可になったでやんす」

「なるほど」

 狩猟用務員の言う事を聞かない。

 確かにそんな生徒を山の中に入れるわけにはいかないだろう。

 勝手に暴れまわられても困るが、こっちの注意を無視してレッドベアーに喧嘩を売り、殺されたりした日には、どう転んでも問題になる。

 うん、やっぱりオース山に入れるべきではないな。


「名前、よく覚えておくでやんすよ」

「はい」

 俺は改めて書類を見る。

 そして、この三人の名前を要注意人物の名前として記憶しておく。

 出来れば、関わり合いにならないで欲しいものである。

ソウソーが得た情報は何処へ行くのやら……

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