表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第二章:決闘をする狩人
69/185

第69話「貴族主義者とは」

「それで、話と言うのは何だ?イニム」

「ちょっと面倒な事が起き始めてるみたい」

 とある日の夜。

 メルトレスが自室で眠った後、ゲルドとイニムは自分たちの部屋で真剣な表情をして向かい合っていた。


「面倒な事?」

「ヨコトメ兄さんから連絡があったのよ。『貴族主義者の馬鹿男子たちが、何かしらの計画を練っているようだ。気を付けろ』ってね」

「またあいつ等か……」

 イニムはそう言うと、懐から黄色のインクで書かれた紋章が端の方に記された羊皮紙を取りだし、ゲルドにそれを見せる。

 羊皮紙を受け取ったゲルドは紋章の描き方から、この羊皮紙を届けるのには確かにイニムの兄が関わっている事を確かめる。

 そして、中身を確かめ始める。


「『正確な目的及び、具体的な計画については分からない』……か」

「どうせなら、そこまで調べてから情報を渡してほしいものよね」

「いや、何か有ると言う情報を得られるだけでもマシだ。私たちだけでは男子寮の情報は手に入らない」

「それ、兄さんの前では言わないでね。調子に乗りそうだから」

「……。まあ、言うならイニム、お前の口からだな」

「絶対イヤ」

 ゲルドはイニムの態度に少々肩を竦めつつも、イニムの兄ことヨコトメ・エスケーの手紙を読み進めていく。


「『ただ、会話の中に平民混じりだとか、貴族の面汚しと言った単語は確認できた』……今回はただの平民を狙った物ではないと言う事か」

「ええ、そうみたい。まあ、貴族主義者らしい目標だと思うわ」

 貴族主義者。

 それは現在、大規模な戦乱が起きていないと言う意味では平穏で平和なオースティア王国において、少なくない問題を起こしている、あるいは起こしかねない者たちの総称である。

 彼らの主張は貴族と平民はその生活の隅々において、明確な区別を付けるべきという物である。

 ただし、彼らの言う区別とは、優れた衣食住に加えて勉学、魔法、その他宝飾品の類は貴族だけが持つだけであり、平民はただ貴族の為に働き、尽くし、奴隷のようにみすぼらしく生きろと言うものである。

 そして、中には貴族としての責務……つまりは危険な魔獣や盗賊の類、揉め事、自然災害などへの対応をせず、ただ享楽に更ける事だけを望む者もいた。


「『それから、大衆の面前で恥をかかせたいとも思っているようだった』……恥をかかせる……か」

「よく言えるわよね。貴族主義者は存在そのものが恥さらしみたいなものなのに」

 勿論、現在のオースティア王国において、貴族主義者と言うのは少数派であり、表だってそのような主張をしたり、貴族の義務を放り出すような真似をすれば、間違いなく何かしらの処分をされる。

 なにせ王家は勿論の事、本心からかは分からないが表向き、二家存在している公爵家、四家存在している侯爵家、その下に控えている伯爵家の半数以上が貴族主義者を否定しているのだから。

 流石にこの状況で表だって貴族主義を唱える愚か者は居ない。


「貴族と平民の間の子……当てはまるのは……ティタンさんか?」

「確かに条件には当てはまるけど、違うんじゃないかしら?彼は用務員だし、そもそも恥をかかせる方法自体が無いもの」

「一応、オース山に勝手に入り込んで何かをすると言う方法もあるが……そんな真似は無理か」

 貴族主義者への逆風はまだある。

 逆風の一つは経済面だ。

 当然と言えば当然だが、貴族主義者の考えを徹底すればするほど、彼らの下から優秀な人間は去って行く。

 誰も沈みかけの船になど乗りたくはない、乗るならばしっかりとした船……つまりは能力面をきちんと見てくれる人間の下で働きたいと考えるからだ。


「しかしそうなると目標が分からないな。貴族と平民の間に出来た子なんて最近はよくいる」

「まあ、私たちに出来るのは信用できる先生方に話しておくぐらいじゃないかしら?」

「まあ……それ以外に私たちが出来ることはないか」

 もう一つの逆風は魔法だ。

 魔法は箒星の神が人間に与え、きちんと学びさえすればほぼ全ての人間が使えるようになる術法である。

 それはつまり、学べば地位など関係なしに魔法は使えると言う事であり、現に歴史上何人も平民出身の大魔法使いという物は現れている。

 そんなものが人々の目に見える形で存在している中、貴族主義者が血の優位性だの、魔法は選ばれた人間だけが使うべきものだの、と言ったところで一笑に付されるだけだったのだ。


「それにしても、いつも思うんだが、貴族主義者は一体何をしたいんだろうな?まるで目的が見えてこない」

「権力の掌握とかを考えるなら、王族……今の学園ならメルトレス様に媚びを売ろうと考えるはずだけど……逆効果よね?」

「逆効果だな」

 だがそれでも貴族主義者は残っていて、学園の生徒の中では常に幾つかの小さなグループが存在していた。

 そして、若い頃に有りがちな万能感と、生まれの差だけに固執して膨れ上がった傲慢さを組み合わせて行動を起こし、魔法と言う力を振りかざして、主に平民の生徒に対して横暴な振る舞いを陰でそうと分からないように行っていた。


「まあ、何にしても私たちが第一に考えるべきは姫様の安全。それだけか」

「そうね。見かけたら止めるぐらいはしてもいいかもしれないけど、それ以上は学園の教職員に任せるべきだと思う」

 ゲルドとイニムはそう結論を出すと、自分たちの得物を改め、その上で眠りに就いた。


「ティタン様に何も無ければいいのだけど……」

 ベッドの中でメルトレスが『盗聴(ワイアタップ)』の魔法を使い、自分たちの会話を聞いていた事に気づかないまま。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ