第66話「プレート作成の準備-2」
「なるほど、プレート型魔具を初めて作るので、助言が欲しいと」
「はい、クリムさんからも先生からきちんと教わった方がいいと言われました」
午後。
授業と授業の合間に存在する休み時間に、俺は風の塔にあるとある教師の部屋にやって来ていた。
「クリムから……か」
「えーと?」
「ああ、気にするな。某とクリムの間で昔ちょっとあっただけだ」
「は、はあ……?」
部屋の主である黒髪黒目で明らかに異邦人な見た目をした男性の名前はセイゾー・キリダシ。
プレート型魔具製造の専門家だそうで、プレート型の魔具について何冊か本も出しているとの事だった。
うん、見た目だけなく名前からしても、西大陸と東大陸の間にあるヒユラギの人だと思う。
メテウス兄さんの上、ボースミス家長男であるグラント兄さんの奥さんであるオキヨ義姉さんと雰囲気が多少似ているし。
「そうだな、そう言う事なら、来週の某の授業に出るといい」
「授業にですか?」
「ああ、丁度、一年生がプレート型の魔具を作る授業があるからな。それに参加して一緒に作るといい」
「なるほど」
さて、クリムさんとセイゾー先生の間に何が有ったのかも気になるところではあるが、セイゾー先生本人が気にするなと言っているので、気にしないでおこう。
それよりも授業についての話をきちんと聞くべきだろう。
「でもいいのですか?突然お邪魔してしまっても。幾ら学園が学ぼうとする者を拒まないと言っても……」
俺は以前にゴーリ班長から教職員であっても学ぶ気があるならば学園は手助けをしてくれると言われている。
言われているが、確認はした方がいいと判断して、俺は質問する。
それに対するセイゾー先生の答えは俺にとっては予想外な物だった。
「問題ない。むしろ、君が居てくれた方が、生徒たちにやる気を出させるいい燃料になる」
「燃料……ですか?」
「そう、燃料だ。某の授業……いや、プレート型の魔具を作るにおいて必要な物は色々とあるが、プレート型の魔具を作るのに絶対に欠かせないのは正確に元盤を彫れる手先の器用さと、それを十分に発揮できる集中力だ。君ならそのどちらも十分にあるだろう?」
「……恐らくは」
それは俺を利用して、生徒たちのやる気を引き出したいと言う言葉だった。
確かに俺の器用さと集中力は、普通の人よりは上だと思う。
狩人として弓を扱って獲物を狩るためにも、その弓を作るためにも、相応の器用さと集中力が求められるからだ。
しかし何故俺が参加すれば、生徒のやる気が引き出されるのだろうか?
「理由が分からないと言う顔だな。なに、何と言う事はない。君が紋章魔法について素人である事は、少しでも察しが良い者であれば既に気づいている。そんな人物が突然某の授業に現れて、授業を受けていくのだ。向上心が少しでもある者ならば、君に負けて堪るかと努力することだろう。そうすれば、授業全体の質も上がるというものだ」
「なるほど」
言われてみれば納得は出来る話だった。
そう言う事ならば、狩猟用務員として学園の生徒たちの学習を手助けするためにも、俺はセイゾー先生の授業に参加するべきだろう。
勿論、俺自身の為にもセイゾー先生の授業に参加するべきだが。
「そう言う事ならば、来週の授業に俺も参加させてもらいます」
「ああ、よろしく頼む。ついては……」
そう考えて俺が頭を下げた時だった。
セイゾー先生が何かの書類を見せてくる。
「君が造る予定のプレート型の魔具に適した素材について、これらの本を図書館で探して、調べてくるように」
そこには幾つかの本の名前が記されていた。
本のタイトルから察するに、紋章魔法の素材について記した本であるらしい。
「それと、設計図……あー、羊皮紙に目的とする紋章を描き、動作確認をした物を授業までに複数用意しておくように」
「複数……ですか?」
俺はセイゾー先生の言葉に首を傾げる。
設計図が必要なのは分かる。
紋章魔法の紋章はかなり細かいものであり、少しの間違いも許されない。
それを何の指標もなく掘れと言われてもまず無理だからだ。
だが、設計図が複数要る理由についてはよく分からなかった。
「紋章と言うのは、本人は同じように描いたつもりでも、子細を見て行けば微妙に違うものだ。そして中には、問題なく動作はするが、プレート型にするのに適さない形状になってしまう設計図という物も存在している」
「だから、複数……ですか?」
「そうだ。同じ紋章魔法を目的とした設計図が複数存在すれば、それだけプレート型に適した紋章が描かれている設計図がある確率も高くなる。後はそれを見本にして、プレートを作ればいい。詳しい見分け方は……授業の時に某が教えよう」
「分かりました」
なるほどと思った。
確かに、その時の微妙な手つきや、描く物の状態によって、紋章の形状は微妙に変わってしまう。
俺が描いた『ぼやける』の紋章も、もしかしたら補助記号が細かくなりすぎて、掘るには難しい細かさになってしまっている部分があるかもしれない。
うん、とても気になる話だ。
「まあ、詳しくは来週の授業の時だ」
「はい、よろしくお願いします」
俺は来週の授業を内心で楽しみにしつつ、セイゾー先生に礼をして、部屋を後にするのだった。
02/08誤字訂正




