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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第二章:決闘をする狩人
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第64話「検査-3」

 学園長の『魔紋発動(スペルブート)履歴探査(ヒストリー)・改』によるティタンの検査が行われた数日後の学園長室。


「ふうむ、これだと干渉が起きてしまうのう。だからと言ってこちらは削れぬ部位じゃし……」

「ずずず……」

「……」

 そこにはペンを片手に持ち、羊皮紙を前にして小さな声で何かを呟き続けながら頭を捻っている学園長ジニアス・カレッジと、その姿を若干呆れた様子で茶を啜りつつ眺めるスキープ・レストールム、そして真剣な顔つきで椅子に座り続けているトレランス・ノトルーズの姿があった。


「あー、駄目じゃ駄目じゃ。頭が全然回らんわい。スキープ、何か甘い物をくれ」

「トレランスが持って来てくれたブラウニーがあるから、それを食べろ。で、トレランスの相手をしてやれ」

「うむ、そうじゃな。気分転換にもその方が良さそうじゃ」

 やがて考えが煮詰まって来たのか、学園長は羊皮紙とペンを置くと、トレランスが座っている席の真向かいの席に腰を下ろし、菓子を口に運び始める。


「研究……ですか?」

「うむ、『魔紋発動履歴探査』のアレンジとして『被魔法(スペルサファー)履歴探査(ヒストリー)』という物を開発したんで、それの簡易版と改良版の紋章を組んでいるんじゃ。が、これがキツくてキツくて、安定性や利便性を保ちつつ紋章を小さくしたり簡単にしたりするのが中々上手く行かないんじゃよ。上に至っては際限がないしの」

「なるほど」

「まあ、おかげでトレランス君が持って来てくれた菓子が美味く感じるのじゃから、悩む価値もあるがの」

「……。御冗談を」

 『被魔法履歴探査』。

 それが数日前にティタンの検査に使われた『魔紋発動履歴探査・改』を元に学園長が現在作っている新たな魔法の名前だった。

 尤も、この場ではこれ以上この件について話が及ぶことは無かった。


「それで、学園長。話を始めても?」

「うむ、構わんぞ」

 と言うのも、トレランスがこの場に来たのは別の用事があったからであり、彼もそれ相応に忙しい身だからである。


「では、早速始めさせてもらいます」

 トレランスが懐からメモ用紙を取り出して、話を始める。


「先日のフラッシュピーコック襲撃事件ですが、どうやら相当深い部分……それも我々王都守護隊が把握してない領域の組織が動いているようです」

「ほう……」

「……」

 今回トレランスがやってきたのは、つい先日……およそ一週間ほど前に起きたフラッシュピーコックと言うオースティアに居ないはずの魔獣が学園に入り込んでいた件について、現在の捜査状況を知らせる為だった。


「根拠はあるのか?トレランス」

「まだ調査を始めてからそれほど経っていないので確定とまではいきませんが、現時点で確認できている限りでは、貴族、商人はおろか、非合法な連中にすら今回の件と関わりがありそうな動きが見つかっていません」

「ふむ、よほど面の皮が厚いか、本当に未知の領域に何者かが巣食ってしまったと言うわけじゃな」

「そうなります。そして恐らくですが、この件に関わりのある連中は金銭を初めとした一般に価値のある物を目的に動いてはいません。そう言った物を理由に動けば、必ずどこかで我々の網にかかるはずですので」

「金銭ではない……か。となると動機は学園の運営の妨害か?」

「王都守護隊ではそう判断しています。例の狩人……ティタン・ボースミスの証言から、使われたフラッシュピーコックが何かしらの特殊な訓練を積んでいた可能性も示唆されていますから」

 三人は淡々と情報を精査し、今回の件の首謀者……フラッシュピーコックをオース山に放した何者かの正体を探ろうと試みる。


「ふむ、フラッシュピーコックの金属性変異種を見つけ出し、訓練を施した上で東大陸から西大陸へと密輸、そしてオース山に放して生徒たちを襲わせ、学園の権威を落とす……か。どうにもやっている事の大きさに目的が釣り合っていない気がするのう」

「ですが、金銭が関わらないのであれば、他に考えられる目的がありません。今回の事件でメルトレス様が攻撃の対象にされたのは全くの偶然であるはずですから」

「それはそうなんじゃが……ふうむ、どうにも気持ち悪いものがあるのう」

 だがそうして見えてきたのは、学園長をして気味が悪いと言う他のない正体不明の何者かだった。

 確かに今回の事件で生徒が怪我をしたり、万が一にも死ぬようなことになれば、国一番の学園と言う王立オースティア魔紋学園の名前には大きな泥が塗られる事になる。

 それは確かだ。

 だがしかし、果たしてこの学園にそこまでする価値があるのだろうか?

 相手は大型の魔獣を訓練し、秘密裏にオースティア王国内に持ち込めるだけの力を持った組織である。

 そんな組織であれば、それこそ国そのものを相手取る事も出来るのではないだろうか?

 それほどの組織がたかが一学園の顔に泥を塗るためだけにこれほどの手間暇をかけるのだろうか?

 三人の顔には拭っても拭いきれない不安のような物が現れていた。


「……。これは気をつけた方がいいかもしれんな。もしかしたら、他国の首脳部が直接的に関わってくるかもしれん」

「……。何事もなければいいが……願っても無駄か。この程度で諦めるとは思えん」

「……。十分注意して事に当たるように部下たちには指示を出しておきましょう。学園長もどうかお気をつけて」

「うむ、十分に気をつけよう」

 だがそれでも彼らは不安を心の内に収めると、表面上は何事もないかのように、けれど内心ではこれからどうやって己の職務において最も重要な仕事を果たすのかを考えつつ、その日の集いを終えたのだった。

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