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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第二章:決闘をする狩人
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第63話「黒煙-7」

「一瞬でしたね」

「そう言う魔法だから当然だ」

 俺は弓を降ろすと、ダンマンティスとヤリガネムシの焼け残りを槍の先端から地面に落とすクリムさんにゆっくりと近づく。


「火天複合中位紋章魔法『焚刑(ステイク)火葬(クリメイト)』。敵を確実に殺す為だけに存在しているような紋章魔法だ」

 焼け残りを落とし終わったクリムさんは槍の刃と柄の間に巻き付けていた羊皮紙を剥してその場に落とす。

 そして槍の石突部分を羊皮紙に当て……


「『発火(イグナイト)』」

 俺も使える簡単な『発火』の紋章魔法によって羊皮紙を焼いてしまう。


「いいんですか?」

「むしろこうしないと不味いんだ」

 クリムさんの魔法が終わった後、羊皮紙は完全に黒く焦げてしまっており、どのような紋章が描かれていたのか、まるで分からないようになっていた。

 だが、ダンマンティスとヤリガネムシだったものに比べれば、明らかに焼けは少なく、焦げているのは表面だけのようだった。


「さっきも言ったように『焚刑火葬』は敵を確実に殺す為だけに存在する魔法でな、破壊力だけを見るなら下手な上位紋章魔法よりも遥かに威力がある」

「えーと、上位紋章魔法と言われてもよく分からないですけど、凄まじい破壊力があるのはよく分かります」

 俺は改めてダンマンティスとヤリガネムシだったものを見る。

 彼らは芯まで完全に焼けて炭のようになっており、あの炎が魔法現象だった事を考えるまでもなく、物理的にも魔法的にも使い物にならない事は間違いないだろう。

 この状態がたった一度の魔法によって引き起こされたと言うのだから、その破壊力は推して測るべきだろう。


「そう言うわけでな、別に法によって決められているわけでは無いが、この紋章魔法の使い手たちはこぞって自発的に『焚刑火葬』に関する資料を厳重に取扱う事を決めている。だから、俺も『焚刑火葬』の紋章を何処かに書き残したり、自分の目が届かない場所に予備を作ったりしないようにしている。そして今回の場合は、紋章を発動した後の羊皮紙から情報を盗られない為だな」

「なるほど」

 もしもこの紋章魔法が人に対して使われたら……そうでなくともよからぬことに使われたなら……。

 なるほど、そう考えたらクリムさんの対応は当然の事なのかもしれない。

 『黒煙』が下位紋章魔法で、あの難易度である事を考えたら、そんな簡単に中位紋章魔法である『焚刑火葬』を使えるとは思えないが……それでも悪用される可能性の芽は出来るだけ潰すべきだろう。


「ところでティタン?」

「どうしました?」

 さて、『焚刑火葬』についての話はこれまでにしておくとして、狩った獲物を解体しなければならない。

 と言っても、ダンマンティスについてはクリムさんが狩る間に鎌などを切り離したので、それを回収するだけであり、主な解体対象は俺が仕留めたニクロムソンだが。

 そう言うわけで、俺はニクロムソンから矢を抜くと解体を始める。


「生徒たちが噂をしているのを聞いたんだが、お前、御姫様に手作りの骨細工を渡す約束をしたらしいな」

「……」

 手元が狂うかと思った。

 クリムさんの突然の発言に、切ってはいけない部分まで切ってしまう所だった。

 ニクロムソンで使えない部分は何処にも無いのだ。

 血は容器が無いので今回は集められないが、肉も皮も骨も内蔵も可能な限り回収するべき対象である。

 ちなみに、紋章魔法の素材としては、主に火属性に対して使える。


「で、どうなんだ?」

「……。事実です」

 で、思わず現実逃避をしてしまったが、クリムさんが聞いた通り、俺はメルトレスに手製の骨細工を渡す約束をしてしまっている。

 素人仕事のそれなので、とても王族に見せられるようなものではないのだが……それでも約束をしてしまった以上、渡さないと言う選択肢はない。

 まあ、まだ手元に素材すら無いので、何処かで手に入れて来ないといけないのだが。


「そうか。なら、ニクロムソンの骨か牙でも持って行ったらどうだ?」

「良いんですか?」

 俺は思わずクリムさんの顔を見てしまう。

 だが、冗談を言っている様子はなく本気でそう言っているようだった。


「狩猟用務員が狩った獲物は学園側に渡す決まりになっているのは知っているな」

「はい」

「だが、その際にただ渡すだけじゃなくてな。獲物の部位の内、自分で使いたい部位があるなら、量にもよるが自分で貰っていい事になっている。その制度を使えばいい」

「えーと……」

 クリムさんが言った制度は俺も良く知っている。

 知っているが……それは紋章魔法の素材として使うためではないのだろうか?


「いいんですか?」

「問題ない。あくまでも使いたい部位があるなら貰っていいと言う話だからな、何に使うかまでは決められていない。ゴーリ班長も酒の漬け込み用に時々素材を貰っているし、俺も別の用途で貰っている事もあるからな」

「なるほど」

 が、どうやらそれは俺の思い込みであったらしい。

 これでソウソーさんが別の用途に使っていると言っていたら少々訝しみたくなるが、ゴーリ班長とクリムさんが大丈夫と言うなら、本当に大丈夫なのだろう。


「なら頭骨と肋骨を少し貰っても良いですかね?」

「ああ、それぐらいなら申請も通るはずだ」

 そう言うわけで、俺はニクロムソンの頭骨と肋骨を貰う事にしたのだった。

『焚刑火葬』ですが、黒鵺姿のティタンにも通用する程の破壊力を持っています。

そしてクリムにとっては別に切り札でもなんでもありません。

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