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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第二章:決闘をする狩人
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第53話「新しい弓-8」

 翌朝。

 陽が昇るのより少し早く目覚めた俺は、昨日購入した新しい弓……ベグブレッサーと言う種類の樹から作られた弓と矢の束を持って用務員小屋の外に出ると、用務員小屋とオース山の森の間の空間で的の準備を始める。


「これでよし……っと」

 的の大きさは始業式の際にゴーリ班長が用意してくれたのと同程度で、学園で射撃系の魔法を使った演習に用いられる物とほぼ同じ大きさである。

 つまり、十分な勢いを持って矢が届けば、きちんと刺さると言う事である。

 そして、俺が立つ位置と光の塔の間には念のために衝立を立て、万が一に備えておく。

 普通に的を外れて、矢が的の向こう側に跳んで行ってしまった場合については気にしなくてもいい。

 その為に的の後ろにはオース山の森が広がるようにしているし、そもそもそこまでの飛距離は出ないはずである。

 後は注意することは……どの方向からでも、生物が接近してきたと気づいたなら、その時点で弓を降ろす事ぐらいか。

 そうすれば万が一はもっと起き辛くなる。


「……。始めるか」

 陽が昇り始めた頃、俺は周囲の安全を確認した上で、弓に矢をつがえる。


「すぅ……はぁ……」

 息を吸い、吐き出し、呼吸を整えていく。


「……」

 熱を抑え、臭いを抑え、的の事を意識しつつも過度な集中はせず、けれど精神は確かに弓矢と的に向ける。

 微かに残された気配は変質させ、周囲の空気と地面に溶け込ませ、ティタン・ボースミスと言う名の個を捉えられなくする。

 そしてその状態で、まるで魔獣が獲物に襲い掛かるよう直前のように動き、ゆっくりと音もなく、自らと新たな弓の様子を確かめつつ、弓を引く。


「……」

 矢が放たれる。

 朝の薄暗く、まだ肌寒い空間を切って矢が飛ぶ。

 真っ直ぐに矢は飛んでいく。


「……よし」

 そして、的の中心から少し離れた場所に矢は突き刺さった。


「さて、二射目だな」

 まずは一本、確かに的へと突き刺さった。

 だが、まだ一本。

 この一射だけでは、この弓がどのような弓なのかはまだ掴み切れない。

 だから、俺がこの弓に慣れるためにも、弓が俺に慣れるためにも、相応の数を撃たなければならない。

 俺は二本目の矢を弓につがえた。



--------------



「ふぅ……こんなところか」

 おおよそ一時間後。

 二十本の矢を的に向かって一本一本丁寧に射った俺は、長く息を吐き出して、いつの間にか全身に生じていた緊張を解く。


「成果は……まあまあか」

 俺は矢が刺さった的を見て、自己評価をする。

 的に当たった矢は全部で17本、その中で的の中心に刺さった矢は一本、外れた三本はどれも僅かに的から外れて、的がある場所よりも後方の地面に刺さっている。

 結果だけ見れば、前の弓とだいたい同じような結果なので、まずまずの成果と言っていいだろう。


「……」

 俺はベグブレッサーの弓を見る。

 ゆっくりとした引き方だけでなく、何度か勢いよく引くような事もしたが、紫と黒で彩られた弓に傷や歪みのような物は見えない。

 どうやら耐久度に問題はないらしい。

 これならばきちんと手入れをしていれば大丈夫だろう。


「改善点は……まあ、色々あるか」

 俺は改めて的を見る。

 この的を見れば、改善点は明らかだ。

 中心の一本、外れた三本以外の矢は的に刺さってはいる。

 刺さってはいるが……前の弓で同じ事をやった時よりも、ブレが大きい感じがする。


「慣れないとなぁ……」

 これは決して気のせいではないだろう。

 が、このブレを治そうと思おうなら、ひたすらに矢を射り、新しい弓に俺が慣れる他ない。

 そもそもとして、この弓はただの弓ではなく魔具弓であり、その機能を付けるために前の弓とはまるで違う形をしているのだから、感覚に差が生じるのは仕方がない事だろう。


「さて、片付けるか」

 俺は的と矢、弓を片付けつつ、今日の予定を頭の中で確認していく。

 今日は学園長自らの手で、『破壊者(ブレイカー)』が俺にかけた魔法の正体を確かめることになっている。

 検査そのものは朝食が終わった後、火の塔の最上階にある闘技演習場で行う事になっていて、午前中で終わる予定。

 が、その後改めて『破壊者』の件について聞き取り調査をするらしいし、検査結果を見ての話し合いもあるそうで、結局は今日一日かかるのではないかとの事だった。

 うん、俺にかけられた魔法が原因であるし、諦めるしかない。

 狩猟用務員としての仕事が出来ず、ゴーリ班長たちに負担をかけるのは少々心苦しい事ではあるが。


「よし……っと」

 他に気になる事……いや、やらなければならない事としては、新しい紋章魔法の習得と、この弓の魔具弓としての使い方を学ぶことか。

 ソウソーさんとコルテさんの話では、ビルトイン型の魔具を使う場合には、その魔具に合わせて紋章の方も調整する必要が有るらしい。

 そのため、次に新しい紋章魔法を学ぶ際には、その紋章魔法に関する本だけではなく、ビルトイン型の魔具の扱いについて書かれた本も借りるようにとの事だった。

 その話をする時のソウソーさんとコルテさんがとても嫌な笑みを浮かべていた点については……うん、考えないでおこう。


「さて、朝食を食べに行きますか」

 そうして考え事をしている内に後片付けは無事に終わり、俺は朝食を取るべく風の塔に向かうのだった。

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