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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第二章:決闘をする狩人
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第49話「新しい弓-4」

 オースティア王国王都オースティア。

 オース山の麓、東、南東、南側に扇状に位置しているこの都は、主に三つの地区に分かれている。

 つまり、オース山の南側、正規のオース山の登山口を内包する王城……オースティア城が存在し、主に貴族たちが暮らしている王城地区。

 オース山の南東側、年に一度大規模な闘技大会も開かれる王立闘技場が存在し、あらゆる地位の人間が入り混じり、盛んに活動を行っている実質的な王都の中心、闘技場地区。

 オース山の東側、王立オースティア魔紋学園が位置し、学園にとって必要な物を集める形で発展を続け、常に人々で賑わう表通りと、複雑な裏路地を併せ持つ今の形となった学園地区。

 この三つである。


「道に迷わないようにきちんとついてくるでやんすよ」

「はい」

 余談だが、オース山の周囲でオースティアが無い方向、つまり、南西から時計回りに北東までの範囲だが、この範囲は一部を除いてほぼ未開拓であり、殆ど人の手が入っていない原野や森林、湿地帯になっている。

 王都の近くであるにも関わらず開拓されない理由は……どうにもその方が色々と安定するからであるらしい。

 まあ、そこに生息している魔獣から得られる素材は勿論の事、薪や果実、安全な飲み水など、開拓することで失われるものと得るものが比較するまでにない程、差があるのだろう。


「それにしても複雑ですね……」

「これでも昔に比べたら整った方らしいっすよ」

「これで、ですか……」

 さて、学園を出た俺は、ソウソーさんの案内で学園地区の裏路地を歩いていた。

 それも俺が初めてオースティアに来た時に使ったような、その土地の人間でなくても歩けるような分かり易い裏路地ではなく、油断したらオースティアに住んでいる人間でも道に迷いそうなぐらいに入り組み、狭い、裏路地と言う言葉から万人がイメージするような道であり、道の左右には普通の民家の入り口が幾つも並んでいた。

 尤も、そんな道ですらしっかりと石で舗装されており、俺がオースティア以外で知っている都市……ボースミス伯爵領の領都の裏路地よりもはるかによく整備されているのだが。


「昔は本当に継ぎ足し継ぎ足しで造っていたらしいでやんすからねぇ……城壁が出来て、闘技場地区が出来て、学園地区と王城地区が一続きになった頃から、少しずつ整理されていったらしいっす」

「へー……」

「ちなみに二百年以上昔の話っすよ」

 俺はソウソーさんの言葉に感心の声を返しつつ、ソウソーさんの後をついて歩き続ける。

 もしも今ここで迷ったら……オース山が見える位置か、大通りに出るまでの間、当てもなく彷徨うしかないだろう。

 なので、時折すれ違う子供やご婦人を避けつつ、決してソウソーさんを見失わないように注意を払う。


「さて、歩きながら説明しておくでやんすが、これからあっしたちが行く店は、ウエーホン魔具店と言うっす」

「魔具店?武器屋や狩猟具店とかじゃないんですか?」

 俺はソウソーさんの言葉に首を傾げる。

 魔具店と言うのは、その名の通り紋章魔法を使うための道具……魔具とそれに関連した品々を売る店の事である。

 そんな所に弓があるのだろうか?


「まあ、当然の疑問っすね。でも大丈夫っすよ。ウエーホン魔具店はあっしの同級生が営んでいる店で、その腕は確かっすから」

 そう言うと、ソウソーさんは背中に吊るしてある弩を軽く叩いて見せる。

 そう言えばあの弩を使ってソウソーさんは以前に矢を装填する事も、キーワードを唱える事もなく、引き金を引くだけで魔法を使っていた。

 つまり、ソウソーさんの弩は、普通に弩としても使えるが、魔法の道具としても使える特別製と言う事であり、そんな弩を作れる人物が営んでいる店なら、確かに腕はいいのかもしれない。

 と言うか、一体どうすれば弩の引き金を引くだけで魔法を使えるように出来るのだろうか?純粋にそこから気になる。


「と、そこの角を曲がったらっすよ」

「分かりました」

 と、そろそろ目的地に着くらしい。

 ソウソーさんが狭い路地を抜け、少しだけ広めな通りに足を踏み入れ、身体の向きを変える。


「む……」

 そしてあからさまに嫌そうな顔をした。


「どうしました?」

 俺もソウソーさんに続く形で通りに出て、そちらの方を向き、それを視界に入れる。


「馬車?」

 そこに有ったのは豪華な装飾を施された、一目で貴族が使っているのだと分かる装いの馬車だった。

 が、それだけならばソウソーさんがこんな表情をする事はないだろう。

 確かに海月を紋章として装飾に盛り込むのは珍しい形かもしれないが、豪華な馬車ぐらい王都であるオースティアではさほど珍しい物ではないからだ。


「ちっ、面倒なのが居るみたいでやんすねぇ」

「えーと?」

「同級生の変態男爵でやんすよ」

「は、はあ……?」

 となればソウソーさんの表情の原因は、この馬車に乗っている貴族と言う事になるのだが……どうやらそれで正しいらしい。


「まあいい、行くっすよ」

 ソウソーさんが馬車が停まっている場所の近くの扉に向かって歩いていく。

 店の看板も掲げられているし、どうやらあそこがウエーホン魔具店であるらしい。

 そうして扉に手がかかるかどうかという所まで来た時だった。


「やれやれ、つれないなぁ」

「五月蠅いである。吾輩は魔具店の主であって、大道具ではないのである!と言うか毎度毎度無茶な要求をするなである!」

 店の中から水色の髪に紫色の目を持ち、左目の下に紫色の三角形の刺青を施した派手な服装の男が、笑顔を浮かべた状態で出てくる。


「ははは、そうかい。まあ、また来るよ。君の作ってくれる魔具はとても質が良いからね」

「一昨日来やがれである!」

 その男の姿にソウソーさんはしかめっ面をし、男自身はソウソーさんに軽く手を振った上で馬車に乗り込む。


「……」

「ん?」

 そして一瞬、俺に対して妙に真剣な目つきを向けると、馬車を出して何処かに行ってしまった。


「どうやら、入れ違いになってくれたようでやんすね。本っっっ当に運が良いでやんす」

「そう……なんですか?」

「さ、入るでやんすよ。コルテ、客が来たでやんすよー」

「おお、ソウソーであるか!こっちに……」

 一体今の男はなんだったのだろうか?

 俺の疑問に答えてくれる人は居ない。

 とりあえずソウソーさんに続いて、俺はウエーホン魔具店の中に入った。

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