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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第一章:学園にやってきた狩人

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第45話「報告-3」

 用務員小屋を去った学園長は学園長室に向かうと、羊皮紙に早速ティタンの証言を書き綴っていく。

 勿論フラッシュピーコックについてだけでなく、『破壊者(ブレイカー)』の件についてでもある。


「ん?ああ、来たんじゃな。入っていいぞい」

 そうして一通りティタンの証言を書き終わった頃、学園長室の扉をノックする音が部屋の中に響く。

 学園長はノックの仕方だけで来訪者が誰であるのかを察したのか、音の主が声を発するよりも早く入室を許可する。


「失礼します。王都守護隊学園地区隊長トレランス・ノトルーズ、王立オースティア魔紋学園学園長ジニアス・カレッジより今回のフラッシュピーコック襲撃事件についての報告を受け取りに参りました」

「うむ、久しぶりじゃな。トレランス君。まあ、そこに座ってくれ」

「はい」

 部屋の中に入ってきたのはシンプルでありながらも上質な紺色の制服に身を包み、腰に剣と盾を帯びた一人の金髪に青い目を持つ万人の目を惹くような男性……王都守護隊学園地区隊長トレランス・ノトルーズが入ってくる。


「では早速じゃが……」

「その前に学園長。学生時代から言っている事ですが、きちんと来訪者に名乗らせてから入室を許可してください。貴方も誰から狙われていてもおかしくない立場なのですよ」

「む……相変わらず生真面目じゃのう。心配せんでも防衛策は講じておるわい。種明かしは出来んがの」

「なら構いませんが……それでもお気を付けを」

「わかっとる。わかっとる」

「はぁ……」

 革張りの席に着いたトレランスは眉間に皺を寄せて学園長に苦言を呈するが、学園長はどこ吹く風と言わんばかりに流してしまう。

 学園長のその態度にトレランスは小さく溜め息を吐くが、直ぐにこんな事の為に来たのではないと、表情を取り繕い、本題を切り出す。


「では早速本題に入りましょう。今回の事件についての一時報告書は?」

「此処にある。ついさっき当事者であるティタン・ボースミス君が目を覚ましてくれたおかげで、彼の証言もあるぞい」

「ありがとうございます」

 学園長は数枚の羊皮紙をトレランスに渡し、トレランスは小さく頭を下げつつ羊皮紙を受け取る。

 と、そこでトレランスは気づく。

 渡された羊皮紙の中に例の魔獣の姿を描いたものとして二枚の全く別の絵が混ざっている事に。

 そして、二枚の絵が同じものを描いたものである事から分かるように、その出来に圧倒的な差があると言う事実に。


「……」

「あ、綺麗な方の絵はメルトレス君たちの証言を基にクリム君が描いてくれたものじゃ。出来は保証するぞい」

「……。毛玉の方は?」

「ゲルド君の作品じゃ」

 学園長の言葉に毛玉の方の絵を見ていたトレランスは思わず眉間を揉みほぐし、小さな溜め息を吐く。

 その姿は何処か呆れているようであり、嘆いているようでもあった。


「……。資料は受け取りました。ティタン・ボースミスについては学園の方でお願いします」

「うむ、任せておいてくれ。既に自分が要観察対象である事も話し、本人もそれを了承してくれている。万が一儂らの手に負えない事態になったのなら、その時は専用の鉄芯を揺らすから安心して構わんぞ」

「ええ、その時は全力で事態に対応させてもらいます。それと学園の警備の方も……」

「勿論、見直すわい。事が起きてしまったのじゃからな」

 表情を戻したトレランスと何処か楽しそうにしている学園長はそう言うと、軽く頷き合う。


「それで、そちらの捜査状況についてはどうじゃ?」

「流石に昨日起きた事件ですから、大した進展はありません。ただ、現時点でも幾つか確定した事が有ります」

 トレランスはそう言うと、懐から手帳のような物を取りだし、その内容に改めて目を通してから話を始める。


「まず第一に、今回メルトレス様たちを襲ったフラッシュピーコックが密輸された物であることはまず間違いありません。王城に保管されている記録では、ここ一年間の間に輸入されたフラッシュピーコックは居らず、消息不明になったと言う記録もありません」

「ふむ、なるほど」

 二人は真剣な表情で会話を始める。

 余談だが、この世界では各地域に固有の魔獣を輸出入する際には厳しい制限がかかっており、飼育の際には輸出入の時以上に厳しい制限がかかっている。

 これは魔獣の素材が紋章魔法の素材になるからと言う理由だけでなく、その魔獣の能力次第では、たった一匹でも大きな危険をその地に招く事が可能だからである。

 そして、今回のフラッシュピーコックは、オースティアが存在している西大陸ではなく、海を越えた先にある東大陸の固有種であるため、この制限に正面から抵触しているのである。


「そして今回のフラッシュピーコックは金属性変異種であったとの事ですが、こちらはあー……数年前の資料ではありますが、ここ十数年原産国でも確認されていません。なので、もしも市場に出れば相当な値がつくのではないかとの事です」

「ほう……」

 学園長の目に強い光が宿る。

 だがそれも当然の事であろう。

 本来のフラッシュピーコックは閃光を放つ光属性の意思魔法しか使えない魔獣である。

 にも関わらず、今回のフラッシュピーコックは金属片を撃ち出す意思魔法を使った。

 これはつまり今回のフラッシュピーコックは何かしらの変異を起こし、金属性も使えるようになった特別な個体……変異種であると言う事である。

 そして、世の常として、特別な物、希少な物には高値が付くのである。

 表裏関係なしに。


「そう言うわけですので、現在我々はそちらの線を中心に捜査を行っている所です」

「そうかそうか、何が釣り上がるか、実に楽しみじゃ」

 つまり、今回のフラッシュピーコックは、それだけの財力がある者が関わっている事になるのである。

 それ故の学園長の微笑みだった。


「では、また何か分かりましたら報告しますので、学園長もよろしくお願いします」

「うむ、儂の方でも注意を払っておこう」

 用事を終えたトレランスは学園長から受け取った資料を持って、学園長室から出ていく。

 そして学園長は、学園長室の窓から用務員小屋の方を向き……


「ふぉっふぉっふぉっ。さて、どうなるかのう」

 今後が楽しみだと言う表情で、内心は一切見せずに笑った。

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