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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第一章:学園にやってきた狩人
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第39話「護衛任務-8」

 世界が……凍りついていた。

 いや、凍りつくと言うよりも、停まっていると言った方が正しいのかもしれない。


「……」

 とにかく俺に認識できる範囲で確かな事として、幾つか言える事が有る。

 まず、ピーコックの爪は俺の目の少し前で完全に停まっていた。

 俺の身体も動かず、瞬き一つ出来なくなっていた。

 常に何かしらは存在しているはずの音は完全に聞こえなくなり、風景も白と黒の二色だけになっていた。

 だが、走馬灯と言う感じではない。

 昔の事も何も思う事は無く、俺はただこの状況に困惑するだけだったからだ。

 しかし、何時までも戸惑っているわけにはいかない。

 何時までこの状態が続くか分からない以上、少しでも早く目の前の脅威を排せるように動くべきである。


『ああ、本当に良い息吹だ』

 そんな時だった。

 唐突に、何処からともなく、無音の世界の中で僅かに聞き覚えのある声が聞こえてくる。


『この状況でもなお生き残る事だけを考えている』

 気が付けば白黒の世界にはそぐわない色鮮やかな姿をした一人の女性が、ピーコックの背後の空中に立っていた。

 それも、宙に居る事がさも当然のような雰囲気を纏って。


『あの時に貴様の運命を壊して正解だったと素直に思えるよ』

 その女性は……麦藁のような髪の毛に、金色のドラゴンのような瞳、血のように紅い衣、骨のような見た目の両腕を持った女性だった。

 それは、あの忌まわしい出来事から俺を救い出してくれた女性と全く同じ特徴だった。

 けれど有り得るのだろうか?

 あの出来事は十年前の出来事だ。

 なのに、朧気ながらに覚えている女性と俺の前に居る女性の容姿が全く変わらないなどと言う事が。


『さて、貴様に選択肢を与えてやろう』

 女性が俺に向けて骨のような見た目の人差し指を向けてくる。

 たかが指一本、けれど、その指から感じる威圧感はピーコックなど比較対象にもならない程に鋭く、重い物だった。


『選択肢の一、このまま座して人のまま死ぬ』

 論外だ。

 ふざけるな。

 そんな選択肢は絶対に選べない。

 死んでもいないのに諦めれるか。


『選択肢の二、目覚めと引き換えに獣に堕ちて、本能のままに生きるか』

 それは出来ない。

 俺は狩人だ。

 獣になると言う事は、爺ちゃんが教えてくれた狩人としての教えを捨てると言う事だ。

 そんな選択肢は俺には選べない。


『ふふふ、傲慢で強欲。素晴らしいな。実に素晴らしい。人間であるならばそうでなくてはな』

 女性は俺の心の声を聞きとったかのように俺の事を評すると、とても楽しげに笑い出す。

 その笑みは、まるで俺が二つの選択肢のどちらも蹴る事を望んでいたかのようだった。


『そして、そんな人間であるからこそ、私としても助け甲斐があるのだ』

 女性が真剣な顔付きになると同時に、右手の親指と中指を合わせる。


『まあ、そうは言っても私は既に貴様の運命を一度大きく壊している。これ以上私が直接壊してしまうと、世界の運命にまで破壊が及んでしまう。それは誰にとっても不幸な変化であり、私にとっても腹立たしい結果である。となれば……私が貴様にしてやれる事はこれぐらいか』

 その瞬間、俺は全身が粟立つのを感じた。

 それは女性に集まっていく魔力のような何かの凄まじさと、かつて女性が俺に施した何かの事を思い出したためだった。

 そうだ、あの時俺はただ彼女に救われただけでは無かった。

 あの時俺は……


『さあ、目覚めさせると良い!十年貴様の中で馴染ませ続けた私……『破壊者(ブレイカー)』の力を!そして抗うがいい!獣に堕ちたくないのであれば!狩人であり続けたいのであれば!』

 女性……『破壊者』が指を鳴らす。

 同時に世界に色と音と動きが戻る。


「……アアァァ!」

 そしてピーコックが爪を振り下ろすよりも一瞬早く……


「がああああぁぁぁぁぁ!!」

「!?」

 俺の全身を流れる血が色鮮やかな赤から全てを呑み込むような黒に変わり、全ての傷口と穴から噴き出してピーコックを吹き飛ばし、流れ出る黒い血の量に合わせるように俺の意識は沈んでいった。



■■■■■



「コ、コケア……?」

 黒い何かが吹き荒れて吹き飛ばされた後、近くの地面に着地したピーコックの前には奇妙な物体が在った。

 それを一言で表すのであれば、黒い卵と言ったところだろうか。

 だがその大きさは、横倒しの状態でも中に大人が一人中腰で入れるほどに大きかった。


「……」

 ピーコックはこの中に自分の邪魔をしてくれた生意気な人間が居ると考え、出てきた瞬間に息の根を止められるようにと自慢の翼と羽根を大きく広げる。

 そうしてピーコックが態勢を整える中、黒い卵にも変化が生じる。


「……」

 黒い卵の表面が波打ち始め、波紋の中心からそれが……奇怪な姿の獣がゆっくりと現れる。


 まず、それはとても大きく、体長は間違いなく4m以上あった。

 全身は黒い毛に覆われており、その身に触れたほぼ全ての光を呑み込んでいた。

 だが奇怪なのは大きさでも色でもない。

 奇怪なのはその肉体を構成するパーツだった。


 右腕は猿のような手で、手先は人と同じかそれ以上に器用そうだった。

 左腕は虎のような手で、指先には鉤爪が生え揃い、腕の部分には微妙な光沢差から縞模様が生じていた。

 脚は馬で、その大きさと太さは、踏みつければ大抵の相手は原型なく踏み砕けそうな代物だった。

 腰からは黒い鱗を持った蛇が尾のように生えていて、周囲を窺っていた。

 胴は猪のような硬い毛に覆われ、矢も剣も通しそうにない程の堅牢さだった。


 此処まででも十分に奇怪である。

 だが、奇怪な存在であることを真に示すパーツはその背と頭にあった。


 背には鳥の翼が一対生えていた。

 頭は狼のそれに近く、鋭い牙が生え揃っていたが、それに加えて牛のような角と、兎のような耳が伸びていた。


 そう、この奇怪な姿の獣は、何種類もの獣を掛けあわせたかのような姿をしていたのだった。


「スゥ……」

「……」

 そして、その奇怪な姿にピーコックが困惑している間に獣は息を吸い……


「ーーーーーーーーーーーーー!!」

 羊と鼠を掛けあわせたかのような、聞く者全てを恐怖させ、寒気立たせるような奇怪な鳴き声を上げた。

何時からBBCの和訳が『黒い血の狩人』だけだと思っていた?

と言うわけで、『黒い獣の鵺』強制覚醒です。

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