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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第一章:学園にやってきた狩人
37/185

第37話「護衛任務-6」

本日は二話更新です。

こちらは二話目になります。

「では、下山を始めましょう」

「はい」

「分かりました」

「帰りもお願いします」

 簡単な昼食を食べ終わった俺たちは、オース山の下山を始める。

 勿論ただ降りるだけではない。

 山を下りる時には登る時とはまた別に気をつける事が有るので、そちらについての注意と説明をしながらだ。


「ん?」

 そうして山を下り始めて一時間程経った頃だった。

 俺は自分たちの背後に何かが羽ばたきながら着地した音を聞き取り、鳥系統の何かだと思いつつも、音の正体を確かめるべく振り返る。


「……」

 音の主は……確かに鳥だった。

 だが、その鳥は俺の狩人人生では一度も見た事が無い種類の鳥であり、狩猟用務員の間で代々引き継がれている『オース山魔獣図鑑』にも記載されていた覚えのない鳥だった。

 勿論、俺が忘れている可能性だって有り得るだろう。

 しかし、今回に限ってはその心配は不要だと思う。

 これほどまでに特徴的な鳥の存在を忘れることなど有り得ないからだ。


「ティタン様?」

 その鳥は金属特有の光沢を有する嘴、爪、翼、硬い芯のある尾羽を持っている色鮮やかな鳥で、ここオース山の森の中では非常によく目立っていた。

 魔獣なのは間違いない。

 あれほど色鮮やかな姿をしていてはこの森の中ではひっきりなしに他の魔獣から襲われるはずであり、それを退け続けているのだから、目の前の鳥が何かしらの魔法を操る魔獣なのは間違いない。


「ピッ!?ピー……コック……」

 俺が足を止めた事を不自然に思ったメルトレスが振り返り、鳥の姿を見て思わず大声を上げそうになる。

 が、どうにか刺激してしまう程の声を上げてしまう前に、俺はメルトレスに掌を見せることに成功し、メルトレスもその声量を抑えることに成功する。


「……」

 俺は横目でメルトレスたちの方を見ると同時に、手近な樹の陰に隠れるように手で誘導する。

 ゲルドとイニムも既に鳥の存在を察している。

 そして、メルトレスと一緒に手近な樹の陰に隠れ、俺もゆっくりと音を立てないように木の陰に隠れる。


「メルトレス。アレはなんだ?」

 鳥は周囲を警戒している様子もなく、足元の地面を金属の嘴と爪で掘り返している。

 これならばすぐにこちらに来る事はないと判断した俺は、先程鳥の名前と思しき言葉を叫びそうになったメルトレスに問いかける。


「アレは孔雀(ピーコック)と呼ばれる鳥系の魔獣だと思います」

 俺は弓に矢をつがえつつ、メルトレスの言葉を聞く。

 ゲルドとイニムの二人も、既に戦闘準備は整えている。


「詳しい生態は分かりません。けれど、この場には居るはずのない魔獣です。オースティア王国がある西大陸ではなく、東大陸の魔獣ですから」

「……」

 別の大陸の魔獣……つまり、誰かが密かに持ち込んだのが逃げだしたと見るのが妥当なところか。

 となると、オース山の生態系を守るためにも率先して狩るべき対象ではある。

 問題は狩れるかどうかだが……。


「……、厳しいか」

「え?」

 ピーコックの生態はこの場に居る誰も分かっていない。

 魔獣としてどのような魔法を使うのかも分からないし、あの金属で出来ていると思しき嘴、爪、翼、尾羽をどのように使うのかも分からない、当然戦い方も不明だ。

 だが、ピーコックの戦闘能力が恐るべきものなのは間違いない。

 この山の中で今まで生きていられている点からもそうなのは読み取れるし、あの金属で出来ている部位を叩き付けられれば、それだけでもただでは済まないだろう。


「全員、ピーコックに注意を払いつつ後退。この場を離れる」

 そして何よりも、今の俺の役目はメルトレスたちを過度な危険に晒さずに、オース山の中を探索させることである。

 ピーコックを狩ろうとするのは、どう考えても過度な危険だ。

 故に、俺の取るべき行動はただ一つ……ピーコックを刺激しないように、メルトレスたちを連れてこの場から離れる以外になかった。


「い、いいのですか?ティタン様?だって、あの鳥は……」

「どうしてもこの場で狩らなければならない理由はない。安全を最優先する」

「……はい」

 俺の言葉にメルトレスが反論しようとする。

 が、俺が一瞬睨み付けるような視線を向けつつ、言葉を発すると、俺の意図を理解してくれたのか、素直に黙り、この場から離れる為の準備を始めてくれる。

 そして、ゲルドとイニムは既に準備を終えている。

 それでいい。

 未知の相手を狩るならば、相手の生態を十分に調査した上で仕掛けるのが、安全に狩る上での鉄則だからだ。

 今は退いて、その存在をゴーリ班長たちに伝える。

 迂遠に見えるかもしれないが、この行動こそがピーコックを狩る一番の近道である。


「では、後退開始」

「はい……」

 メルトレスたちがゆっくりと、物音を立てないように、ゲルドを先頭にして山道を降り始める。


「……」

 こちらを向くな。

 そう念じつつ、俺も最後尾でピーコックに対して注意を払いつつ、山道を降りていく。

 そうして無事に離れられるかと思った時だった。


 パキッ


「あっ……」

 誰かが落ちていた枯枝を踏み、周囲にその音が響く。


「……」

 その音に反応して、ピーコックがこちらの方を向く。


「っつ!?」

 そして、俺たちに向けられたピーコックの目を見て……俺は戦慄する。

 ピーコックの目は……音に驚いた獣の目ではなく、獲物を見つけた狩猟者の目だった。

 宿している感情は驚愕でも、動揺でも、恐怖でもなく、純粋な殺意だった。

戦闘開始です


02/01誤字訂正

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