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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第一章:学園にやってきた狩人
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第30話「枝バラし-4」

 食堂にやってきた俺たち狩猟用務員は、食堂のカウンターで主食であるパンを貰い、そしてそれぞれ好みのスープと料理を受け取ると、適当な席に腰を下ろす。

 なお、食堂の中は普段俺が来る昼時と比べて、かなり静かな状態になっている。

 食堂の中を見回してみたのだが、どうやら時間が多少遅めであるために、利用者の大半が生徒ではなく教職員になっているために静かになっているようだった。


「さて、今年の解体ショーは比較的平穏に終わったな」

 クリームシチューを一口飲んだゴーリ班長が口を開く。


「ソウソーが『気絶の矢(ショックボルト)』で気絶させた上に、ティタンが適切な指示をしていたからな。おまけにハーアルターを初めとした積極的な生徒もいた。近年まれに見る順調さだったな」

 見るからに辛そうな赤いスープにパンを浸して食べたクリムさんが、ゴーリ班長の言葉を補足するような言葉を発する。


「ティタンはあっしよりも遥かに解体作業に慣れていたでやんすよねぇ」

 豆入りのスープを口に運びつつ、ソウソーさんが俺に向かって呟く。


「……。解体作業については、昔からやってましたから。後、生徒たちの手際自体が、かなり良かったと思います」

 対する俺は具沢山のポトフからジャガイモをスプーンで掬い、頬張り、熱さに少々驚きつつも無事に呑み込んだところでソウソーさんの言葉に返答する。


「ところで、平穏に終わったと言うのはどういう意味ですか?」

 で、次の一杯を掬う前に俺はゴーリ班長に問いかけをする。

 内容的に食事時にする話では無いかもしれないが、最初に話を振ったのはゴーリ班長なので、たぶん大丈夫だと思う。


「そのままの意味だ。例年は、あー……色んな意味や方面で面倒事が起きる」

「と言うと?」

「我慢し過ぎた生徒がその場でゲロるんすよ。で、その臭いとかで釣られて、連鎖反応を起こしたりするんでやんす」

「誰も彼もが気味悪がって、授業の進行が遅れるパターン。内臓から寄生虫が飛び出て来るパターン。解体手順を間違えて派手に血と臓物が飛び散るパターン。まあ、色々とあるな」

「一番悲惨なのは、解体した魔獣が子持ちだった場合だな。かなりの悲鳴が上がる」

「なるほど」

 一応周囲に聞き耳を立てている人物が居ない事を確かめつつ、ゴーリ班長たちは今日の授業が上手くいかない場合についての話をする。

 その話を聞く限りでは、やはり今日の解体はゴーリ班長の言うとおり、順調に終わった場合に入ると思う。


「ちなみにあっしが新入生だった年は、檻の中に入れられたゲイルーフ……風属性の狼型魔獣が大暴れして、危うく檻が壊れるところだったでやんすよ」

「それ、大丈夫だったんですか?」

「あの時か……アレは十年に一度の面倒事だった」

「あの頃は丁度気絶系魔法を使える魔法使いが狩猟用務員に居なかった時期だったからなぁ……まあ、今にして思えば、その後の諸々の序章だったようだがな」

「何の事っすかねー」

 で、ソウソーさんが経験した年はかなり大変だったらしい。

 ソウソーさんは楽しそうに話しているが、クリムさんとゴーリ班長は何処か遠い目をしている。

 どうやらその後も含めて、相当大変な年であったらしい。


「まあ、何にしても、これで半端な気持ちで攻撃専門の魔法使いになろうと考えてた奴は、方針転換を図ることになるだろうな」

 ゴーリ班長が気を取り直すように、フォークで豚肉を焼いた物を突き刺して口に入れる。


「方針転換ですか?」

 詳しい事情が分からない俺は、話の先を促せるように言葉を言うと、鶏肉を蒸した物を口の中に入れて、その味を堪能する。


「今日の授業で、自分が血を見れない、他の生物を傷つけられない人間だと悟った生徒が、これからの六年間でバッチリ攻撃魔法を学ぶつもりだったところを、防御魔法や補助魔法、生活魔法と言った別の分野を集中的に学ぶ事に切り替える。と言う事が結構あるんでやんすよ」

「なるほど」

 ソウソーさんが炒ったナッツとサラダを合わせて口に運びつつ、方針転換と言う言葉の意味を教えてくれる。


「まあ、それ自体は悪い事じゃない。敵に魔法を撃てない攻撃型の魔法使いなんて居ても困るだけだし、今日気付いて今後の方針を変えられるなら、それはむしろ幸運な事だろう」

「それはそうですね」

 クリムさんが魚に粉を付けて焼いた物……ムニエルを食べつつ、ソウソーさんの言葉の捕捉をしてくれる。


「むしろ問題なのは今日、屠殺の部分にまで残らなかった生徒の一部だな」

「あー、確かに連中は問題っすよねぇ」

「?」

 一体何が問題だと言うのだろうか?

 理由が分からない俺は思わず首を傾げてしまう。


「屠殺の部分を見なかった連中の殆どは、自分が血を見れない性質だと知っているか、今日の所は覚悟が決まらなかった連中でな。コイツらは別に問題ない。問題は面倒だからって理由で退いた連中でな、コイツらの中にとんでもない問題児が混ざっている事が有る。それこそ自分の実力を過信して、勝手にオース山の中に入り込む馬鹿とかな」

「……」

 それは……確かに問題だろう。

 素人が準備もなくオース山の中に入り込むだなんて、殺してくださいと言っているようなものだ。

 だが、そんなのでも生徒は生徒、狩猟用務員として、探し出して連れ帰らないといけない対象には違いない。

 うん、とても厄介な問題だ。


「まあ、その手の連中はだいたいこれから二ヶ月ぐらいの間に一度は問題を起こすからな。その時に顔を覚えて、それからは注意を払っておくと良い」

「分かりました。よく覚えておきます」

 今日もまた一つ学んだ。

 そう思いつつ、俺は残りの食事を胃の中に収めた。

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