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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第一章:学園にやってきた狩人
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第29話「枝バラし-3」

本日二話目です。

人を選ぶ描写がございますので、ご注意ください。

「時間だ」

 ブランチディールの屠殺と解体の準備と、必要な状況になった時の為に衝立と小さ目の穴を用意していたら、二十分と言う時間はあっという間に過ぎてしまった。


「予め言っておく。気分が悪くなった時は、我慢をせずに衝立の向こう側に行って、教師の指示に従う事。いいな」

「ふむ……残ったのは六十人ちょっとか。まあ、いつも通りってところだな」

「そうなんですか」

 二十分の休憩時間の間に百人近く居たはずの生徒は三分の二程の数にまで減っていた。

 自分がこの先の光景に耐えられないと判断した上での選択ならば、賢明な判断だと俺は思う。


「では、まずは屠殺からだ。ソウソーさん」

「はいはいっす」

 デコン先生の要請に応じて、ソウソーさんはブランチディールに弩を向ける。

 ただし、弩には矢は装填されておらず、代わりに先端の方にプレート状の何かが装填されていた。


「気絶させるっすよー」

「ディ……!?」

 ソウソーさんが弩の引き金を引くと同時にプレートが一瞬だけ金色に輝き、弩の先端から黄色い稲妻がブランチディールに向かって放たれる。

 そして、稲妻に触れたブランチディールは痙攣したように一度身体を反り返すと、檻の中で倒れ、動かなくなる。

 ただし、倒れたと言っても死んではいない、ただ気絶しているだけである。


「よしティタン、俺が持つから、お前が切れ」

「分かりました」

 檻の中からゴーリ班長がブランチディールを抱えて出し、後ろ脚を掴んで逆さ吊りの形にする。

 それに合わせてクリムさんがブランチディールの下に盆を用意し、俺は良く砥がれたナイフを抜く。


「さて、諸君らなら分かっていると思うが、魔獣の身体を紋章魔法の素材として使う場合、魔法現象によってトドメを刺してはいけない。俗に汚染と呼ばれる現象によって、素材に秘められている魔力の質が劣化し、酷い場合には素材として使う事が出来なくなってしまうからだ」

 デコン先生が説明をしているのを耳で聞きつつ、俺は気絶しているブランチディールの首と頭の付け根にナイフを刺し込むと、首の前方全てを切るようにナイフを動かす。

 これで、ブランチディールを殺すと共に血抜き用の傷口を作る事が出来るからだ。

 と言うわけで、ブランチディールの心臓がまだ動いている事を利用して、下に用意された盆に向けて一気に放血させる。


「……。血抜き完了しました」

「分かった」

 血が十分に抜けたところで、盆に入った血の方はクリムさんとソウソーさんに任せ、俺とゴーリ班長は解体用の布の上にブランチディールを横たえる。

 そして、この後の作業に使う刃物等の道具を並べていく。


「では、これから解体作業に移るわけだが……実際にやってみたい者は居るか?」

「ティタン、生徒への指示はお前が出せ。いいな」

「分かりました」

 デコン先生の問いかけにハーアルターを含め、数人の生徒が手を挙げ、俺たちの方に近づいてくる。


「よし、それでは始めよう」

「まずは……」

 俺は前に出てきた生徒たちに指示を出し、角の切り落とし、腹を切っての内臓の取りだし、皮剥ぎ、肉と骨の切り分けを順序立ててゆっくりとやらせていく。

 勿論、難しい場面では生徒の手を握って動かす事で、血や肉片が飛び散らないように注意する。

 そうして、数名の生徒が耐えられなくなったのか、衝立の向こうに消えて行くのを横目に捉え、胃の中身を吐き出す微かな音も聞こえてくる中、特に問題が発生する事もなくブランチディールの解体作業は無事に終わる。


「ようし、全員良く頑張ったな」

 解体作業が終わったら、両手だけでなく道具類もきちんと洗い、次の機会にすぐ使える様に状態を整える。


「さて、こうして屠殺、解体が行われたなら、角や骨と言った部位は紋章魔法に使う素材にするための下処理を行い、その後に素材として加工を施していくのだが、その辺りについては次回以降の授業で行うとしよう」

 生徒の数は……十人ほど減っている。

 残っている生徒でも、半分は何処か気分を悪くしている感じがある。

 どうやら、彼らにとってはブランチディールの屠殺と解体はかなり衝撃的な物であったらしい。


「肉についてはどうするのですか?」

「食堂に渡す事になる。出るのが何時になるかは分からないが、早ければ明日の昼か夜にでも何かしらの形で供される事になるだろう。勿論、食う食わないは諸君らの自由だが」

「「「……」」」

 質問をしたハーアルターと、それに答えるデコン先生の顔色は変わらないが、今のやり取りで顔色を悪くした生徒の数が更に増える。

 俺にとっては、彼らの反応は何と言うか……少し懐かしい反応である。

 俺も五歳の頃に運良く罠で捕まえたハイドビットを爺ちゃんの指導の下、半泣きになりながらほぼ一人でバラして食べた覚えがあるからだ。

 あの時のハイドビットを殺す感覚と、肉の美味さは……うん、今でもよく覚えている。


「他に質問がある者は?」

 生徒からの返事はない。


「よろしい。今日の授業はここまでにしておこう。では、解散!」

 そうしてデコン先生と生徒たちは、俺たち狩猟用務員に対して挨拶をした後、去って行った。


「いい授業でしたね」

「おっ、ティタンはそう思うでやんすか」

「ええ、俺はそう思いました。だって、何時かは絶対に知るべき話ですから」

「言うでやんすねぇ」

 そして俺たち狩猟用務員も後片付けを終えると、陽も暮れたと言う事で今日の基本業務を終え、四人揃って食堂に向かったのだった。

この世界で魔法使いであろうと思うのならば、何時かは知るべき話、知らなければならない話。

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