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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第一章:学園にやってきた狩人
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第28話「枝バラし-2」

本日一話目です。

「その通りだ。ハーアルター君」

 デコン先生はハーアルターの言葉に対して小さく頷いてから肯定する。

 だがその反応に対して、ハーアルターは目立った反応を見せていない。


「だが、その答えでは満点はあげられないな。百点満点中八十点と言ったところだ」

「理由をお聞きしてもいいですか?」

「勿論だ」

 恐らく、ハーアルターは自分の答えが満点にならない事は理解していたのだろう。

 だから、残る二十点の中身を確かめるべく、周りの空気が落ち込んでいる中、一人進んで欠けていると分かっている答えを言ったのだと思う。


「骨や皮はブランチディールを殺さなければ手に入らない。これは全員いいかね?」

 デコン先生の言葉に生徒たちが揃って頷く。


「そしてハーアルター君が言った通り、角と血ならば、採取する際にブランチディールを殺さなくても採取は可能だ。だが、そうして角と血を奪った後、角と血を奪われたブランチディールは悲惨な状況に追い込まれる事になる」

 殺さなくても採取できると言う言葉に一部の生徒が明るさを一瞬だけ取り戻すが、その直後の言葉にすぐさま押し黙る。

 そして『どうして?』と言う感情を込めた視線をデコン先生に送る。


「ブランチディールにとって、角は身を守るための武器なのだ。敵対者を威嚇するのにも、攻撃するのにもブランチディールは角を使う。角を使ってのマーキングも時折だがある。そんな物を無くせば、捕食者……この場合はレッドベアーなどの肉食、雑食性の魔獣になるだろうが、彼らは喜んで角を無くしたブランチディールを襲い、喰い殺すだろう。つまり、最後の部分を自分でやるか、他の生物任せにするかの差でしかないのだ」

 生徒の何人かがその光景を想像してしまったからだろう。

 軽く咳き込む。


「血の場合はもっと悲惨だ。紋章魔法の素材として使える量の血を奪えば、それだけで身体能力は大きく落ちるし、血を採取できる大きさの傷はかなり痛むだろう。そして周囲にばら撒かれた血の臭いは捕食者たちを際限なく招きよせるだろう」

「……」

「血の臭いが捕食者を招くなら、回復魔法などを使って傷を塞いでやればいい。そう考える者も居るだろう。だが、血止め薬などを使っても傷の痛みは消えないし、回復魔法による再生は対象者に激しい体力の消耗を強いる。そもそも人間用に調整された薬や回復魔法を魔獣に使えば、まず間違いなく不都合を生じることになるだろう」

「……」

「では、傷が治るまで保護すればいいなどと考える者も居るだろう。だがそうして人の生活に触れてしまった魔獣が元の野生の生活に戻る事は出来ない。保護するならば、それこそ年老いて寿命で死ぬまで保護し続けるぐらいの覚悟が無ければ、保護などするべきではない」

 デコン先生の言葉に迷いはない。

 故に、生徒たちが反論などを挟む余地もない。

 いや、ハーアルターを初めとした数人は、自分で少し考えた末に、デコン先生の言葉が正しい事だと認識して、自分の意思で何も言わない事を決めているようだった。


「それでも、魔獣を保護しようとするならば、犬や猫を飼うのとは比較にならない程の知識と財力が必要になる。そして……魔獣が暴れ出した時には、その魔獣を自分の手で殺す覚悟と実力が要求される事になる」

「……」

「故に、先程の問いの答えはただ一つ。ブランチディールを殺す。それだけになる。納得してもらえたかね。ハーアルター君」

「はい。納得できました」

 ハーアルターはそう言うと、ゆっくりとその場に座る。


「これで諸君らも気づいただろう。我々の文明は、他の生物の犠牲と献身の上に成り立っていると言う事実に」

「「「……」」」

 生徒からの返答はない。

 だが、全員嫌でも理解しただろう。

 紋章魔法と言う神秘の術法が、一体何と引き換えに為されているのかを。

 まあ、爺ちゃんに狩人としての技と心得を仕込まれ、コンドラ山で狩りをし、狩った獲物の肉を長年食べてきた俺から言わせてもらうのであれば、そもそもとして、俺たちが普段食べている物からして、他の生物の犠牲を前提としたものなのだが。

 人間主観の考え方になるが、つまり大切なのは、狩った獲物の死を無駄にしないと言う心構え。

 ただそれだけなのだ。


「さて、この先についてだが……」

 デコン先生は一度生徒全員の事を見回してから、次の話に移る。


「今から二十分の休憩を挟んだ後、この檻の中に居るブランチディールの屠殺と解体を行う」

「「「!?」」」

 一部の生徒から動揺し、ざわめきが俺の居る場所にまで伝わってくる。


「だが、その光景は少々どころでなく衝撃的なものになるだろう。故に、この先については成績に加味することはない。見たいと思った者だけが残ってくれれば構わない。見たくない者は、去ってくれて構わない」

 どうすればいいのだろうか。

 そんな事を思っている気配が殆どの生徒から伝わってくる。


「重ね重ね言うが、残っても成績が良くなる事はないし、去っても成績が悪くなる事はない。これだけははっきりと明言しよう。その上で、誰に頼る事もなく、自分自身の意思でもってこの場に残るか、それともこの場から去るかを決めて欲しい。では、休憩を始める」

 デコン先生は生徒たちがそんな事を思っている事を、当然知っているだろう。

 だから、知った上で無視をして、休憩の開始……あるいは決断までのカウントダウンが始まった事を宣言した。

賛否両論ありそうですが、本作の魔法を扱う上で絶対に出すべき話なので出します。

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