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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第一章:学園にやってきた狩人
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第27話「枝バラし-1」

「ティタン。お前は話を聞いておけ」

「分かりました」

 始業式から一週間経った。

 狩猟用務員としての仕事にもだいぶ慣れてきた俺は、昼休みなどの休憩時間を使って『発火(イグナイト)』と『仄暗い(ディム)』の復習、『ぼやける(ヘイズィー)』の修得の為の学習を行っていたのだが、今日は特別な授業があるとかで、そんな暇はなさそうだった。


「お、来たでやんすね」

 昼休み、百人近い新入生と複数人の教師たちが用務員小屋へとやって来たからだ。

 今日の授業の詳しい内容は聞いていない。

 だが、特別な事情が無い限り、新入生全員の出席が義務付けられている重要な授業であるらしい。


「よく来たでやんすよ。デコン先生」

「今日はよろしく頼むよ。ゴーリ君は?」

「裏で持ってくるための準備をしているでやんす。あっしもこれから行ってくるでやんすよ」

「そうか、では合図に合わせて頼む」

「分かっているでやんす」

 教師の一人とソウソーさんが握手を交わす。

 そして、挨拶が終わると、ソウソーさんは用務員小屋の裏に向かい、デコンと呼ばれた教師は新入生たちを一ヶ所に集めて、座らせ始める。

 新入生たちの様子は……特別な授業であるとしか聞かされていないためか、何処かざわついた雰囲気がある。


「……」

「なんでわざわざ外で、それも用務員小屋の前で授業なんてするんだ?訳が分からない」

 新入生と言う事で、入学式で俺ともめたハーアルターも居る。

 態度は変わらずだが……あの時とはどこか違う感じがする。


「さて、時間だ。では、これより本日の紋章魔法学についての授業を行う」

 そうして紋章魔法学についての授業が始まった。



-------------



「さて、諸君らも知っての通り、紋章を書く為の道具……魔具は術者の体液と一部の植物、あるいは魔獣と呼ばれる動植物の一部を混ぜ合わせる形で加工することによって作られている」

 どうやら今日の授業内容は、魔具についてであるらしい。

 そして、魔具について教えると言う時点で、俺は何故今日の授業がここで行われるのかを察した。

 そうだと聞かされた時の衝撃も含めての授業だと思うので、口にも顔にも出さないが。


「例外はミガワリーフだ。諸君も良く知っているだろうが、低位の紋章魔法ならば、ミガワリーフの汁は術者の体液の代用品として使用する事が出来る」

 ミガワリーフは用務員小屋近くの畑でも育てられている植物で、十字架型の葉と、根っこさえ残しておけば毎日収穫できるほどの生命力、そして葉を絞るとデコン先生が言った通りの効果を有する汁を採れるのが特徴である植物だ。


「が、今日の主題はミガワリーフではない。他の魔具の素材についてだ。ゴーリ班長」

「あいよっと」

 デコン先生の言葉に応じる形で、ゴーリ班長たちが檻に入れられたそれを荷車に乗せて生徒たちの前に運んでくる。


「……」

「魔獣……」

「生きた魔獣だ……」

 それは檻の中でこれから自分の身に起きる事を察しているのか、察していないのかは分からないが、ただ静かに佇んでいた。


「ブランチディール、木属性の紋章魔法に適した素材が数多く取れる魔獣であり、狩猟用務員の皆さんが今日の為にオース山で捕獲して来てくださったものだ」

「……」

「うわっ、こっちを見た」

「すげぇ大きさの角」

「綺麗……」

 ブランチディールは自分の姿に騒ぐ新入生たちの存在を煩わしく感じたのか、その角を魔法によって鋭く立て、蹄を軽く踏み鳴らす事によって威嚇を行う。

 が、実際に何かをする事は出来ないだろう。

 捕獲したのは始業式の前日で、あの鉄檻を破れるのであれば、この一週間の間に破っているはずだからだ。


「あまり騒がないように。魔獣でない普通の獣もそうだが、騒げば騒ぐだけ彼らを刺激することになる。そうして暴れ出した時、危険に晒されるのは自分自身だぞ」

「「「……」」」

 デコン先生の睨み付けるような視線と共に発せられた言葉によって、新入生たちは揃って静かになる。

 そして、新入生たちが落ち着いたことによって、ブランチディールも幾らか大人しくなる。


「さて、諸君らに質問だ。魔獣であるブランチディール、いったいどの部位が魔具の素材として有用だ?」

 デコン先生の言葉に、少なくない数の手が生徒たちの中から挙がる。


「ふむ、では一人一個ずつ答えていきたまえ」

 デコン先生に指名された数人の生徒が立ち上がる。


「では、答えたまえ」

「角が使えます。特に角の先は高い木属性適性を持っています」

「血が回復魔法などに使えます」

「蹄が使えます」

「骨」

「内臓の一部……えーと、胆のうが使えたと思います」

「脳も使えたと思います」

「毛皮をひも状にすれば、一応使えたと思います」

 生徒たちの答えにデコン先生は満足げに頷くと、答えた生徒たちを座らせる。


「素晴らしい、全員よく学んでいるようだ。では、続けて質問だが、君らならば、どうやって今君たちの前に居るこのブランチディールから、それらの素材を採る?」

「「「っつ!?」」」

 そして、続けて発せられたデコン先生の言葉に、一部の生徒たちがあからさまに動揺し、残る生徒たちも何かしらの反応を見せる。


「どうしたのかね?誰も答えられないか?」

 デコン先生が生徒たちの前を行き来する中、場の空気が今までの和気あいあいとしたものから、重たくて陰鬱なものになっていく。


「……」

「おや」

 そんな中、一人の生徒……ハーアルターがゆっくりと手を挙げる。


「よろしい、ではハーアルター君。答えたまえ、君ならどうやって素材を採る?」

「はい」

 デコン先生に名前を呼ばれたハーアルターはしっかりとした手付きと足取りで立ち上がると、一度深呼吸をした上で口を開く。


「ブランチディールを殺します。角や血ならばともかく、その他の部位はそうしなければ絶対に採取できません」

 そして、ブランチディールを殺すと言い切った。

01/23誤字訂正

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