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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第一章:学園にやってきた狩人
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第26話「仄暗い-2」

「『仄暗い(ディム)』の発動成功おめでとうっす」

「ソウソーさん」

 『仄暗い』の発動に成功して気を抜き、一息ついていた俺に向けて用務員小屋の中からソウソーさんが話しかけてくる。


「いやぁ、勉強を始めて二週間ちょっとで発動成功ならまずまずってところでやんすかね」

「ありがとうございま……」

「別に褒めてないでやんすよ。適性がある、出来が良い生徒で、一時間かからずに修得する奴も居るでやんすから」

「……」

 褒められたと思って下げようとしていた頭が止まる。

 そして、まるで俺の心の動きに影響されたかのように、『仄暗い』によって生み出されていた薄暗い空間が一度震えた後に消滅する。


「ま、そこら辺は個人個人の才能や頭の出来、それまでの経験によるところでやんすから、別にショックを受ける必要はないでやんすよ。学園の外じゃ、四大と二極の内、どれか一つでも使えれば、便利屋扱いされるのが紋章魔法でやんすしね」

「はい」

 まあ……俺は今までほぼ狩人一筋の人生を送っていたのだし、二週間と少しで上手くいったのは、俺としては頑張った方なのだと思っておこう。

 ちなみに四大と言うのは、火、風、水、地属性の事であり、二極と言うのは光、闇属性の事をまとめていう時の俗称であるらしい。


「で、『仄暗い』を使えるようになったティタンに聞くでやんすけど、何か感想とか質問とかはあるでやんすか?」

「……」

 ソウソーさんの言葉に俺は顎に手をやって、しばし考える。


「感想としては、『発火(イグナイト)』に比べて、『仄暗い』は随分と難しいと感じました」

「ふむふむ、それはたぶん今までに使ってきた回数や、イメージのしやすさに起因する問題でやんすね。何度も使ううちに安定してくると思うでやんすよ」

「なるほど」

 当然の話ではあるが、紋章魔法を使う上でも反復練習は必須である。

 と言うのも、発動の意思を込めつつ紋章に魔力を注ぐ行為にはそれなりの慣れが必要だからである。

 そして、この魔力を注ぐ行為は、それぞれの属性で個人ごとに微妙に差異が生じる厄介な代物であるらしい。

 と、そこで俺は一つ思い出す。


「そう言えばソウソーさん」

「何でやんすか?」

「どうして火属性下位紋章魔法じゃなくて、闇属性基礎紋章魔法……それも『仄暗い』を優先して修得するように言ったんですか?」

「ああそれでやんすか」

 数日前、どちらから修得を始めるか悩んでいる俺に対して、ソウソーさんは『仄暗い』を優先して覚えた方がいいと言って来たのだが、あれはどうしてだったのだろうか?

 あの時は特に疑問に思わなかったが、闇属性を優先するように言った理由も、数種類存在している闇属性基礎紋章魔法の中から『仄暗い』を選んだ理由も聞いていない。


「んー……一言で言ってしまうのなら、今後の為っすね」

「今後の為?」

「一属性特化が悪いとは言わないでやんすが、狩猟用務員と言うあっしらの仕事内容を考えると、一属性特化はあまりよくないんでやんすよ」

「あー……」

 一属性特化……つまりは一つの属性だけを修めると言うやり方だが、俺の場合は火属性が元から使えていたので、火属性に特化することになるだろう。

 では、その火属性を狩猟用務員として頻繁に出入りするオース山の中で使ったら?

 生木は燃えづらいが、それでも酷い事にはなるだろう。

 そしてそれ以上に致命的な事として、火も矢も効かない魔獣に出くわした時、打つ手が無くなると言う問題がある。

 狩猟用務員として多種多様な魔獣を相手取る身としてそれは確かに問題である。


「で、複数属性を扱えるようにするなら、慣れの問題もあるでやんすから、出来るだけ早めに複数の属性に触れるだけ触れておいた方がいいんでやんす」

「なるほど」

 加えて言うなら、狩猟用務員はとある理由から魔法による直接攻撃とは縁遠い方がよく、火属性はゴーリ班長とクリムさんも使えると言う事情もある。

 そう言う諸々の事情に、慣れの問題もあって、ソウソーさんは闇属性の紋章魔法を勧めたと言う事であるらしい。


「『仄暗い』を選んだ理由については、多少補助記号が多めで、紋章魔法の基礎の勉強にはちょうどいいからっす。高位の紋章魔法になるほど、補助記号の種類、数、複雑さは増して行くでやんすからね」

「なるほど」

 俺は改めて『仄暗い』の紋章を見る。

 『仄暗い』の紋章は『発火』の紋章よりも明らかに複雑で、補助記号の内容を覚えるのは確かに大変だった。

 だが、もしかしなくても、高位の紋章魔法はこれを何個も繋げたような代物になるのだろう。

 それは確かに大変そうだ。


「さて、『仄暗い』が修得できたなら……そうっすね。『発火』と『仄暗い』を交互に使って違う属性の魔力を扱う感覚を磨きつつ、次の紋章魔法を習得することを目指すべきっすね」

「次の……ですか」

 次の紋章魔法……果たしてどのような物だろうか?


「あっしから提案するのは三つすね」

 ソウソーさんが三本の指を俺に向けて立てて見せる。


「一つ目は火属性下位紋章魔法として、効果時間や明るさ、熱量なんかを増強した魔法の修得」

 攻撃の為ではなく、照明や煮炊きに使うための魔法、と言う事だろうか。

 確かに使えれば便利そうである。


「二つ目は闇属性下位紋章魔法として……そうっすね。『黒煙(ブラクスモーク)』の習得。汎用性が高いから、使えれば便利な魔法だと思うっすよ」

 『黒煙』……ソウソーさんがわざわざ指名して便利だと断言すると言う事は、有用な魔法であることは間違いなさそうである。


「三つ目は適性のある妖属性基礎魔法の修得。まあ、『ぼやける(ヘイズィー)』辺りが良いっすかね。『仄暗い』に近い感覚っすから」

 妖属性魔法……『紋章魔法学―基礎』を読んでいても、いまいちよく分からなかった属性魔法である。

 よく分からない事こそが特性であるらしいのだが。


「ま、業務優先で、暇な時間に少しずつ学べばいいっすよ」

「はい、ありがとうございます」

 いずれにしてもまずは『仄暗い』の安定化、そして『発火』を使う感覚を忘れないようにする事。

 そう判断した俺は、ソウソーさんに頭を下げると、次にどの魔法の修得を目指すかを考えつつ、早速『仄暗い』の反復練習を始めることにした。

08/30誤字訂正

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