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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第一章:学園にやってきた狩人
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第23話「始業式-4」

「いやはや、本当に素晴らしかった。あれほど見事な一射を魔法無しでやって見せるとは、驚かされたわい」

 学園長が俺の事を褒めながら、笑顔でこちらに近づいて来る。

 その目は素直に俺の事を褒めていると思いたいが……射る前にしていた事がしていた事なので、本心から俺の事を褒めてくれているのか、微妙に怪しい感じがする。


「いえ、俺は的の中心を狙うつもりだったので、やはりまだまだです」

 俺は本心からそう言いつつ、改めて木製の的を見る。

 木製の的には同心円状に幾つも円が描かれているが、俺の矢は中心ではなく、中心から少し右側にずれた部分に矢が突き刺さっている。

 これでもしも相手が本物のアースボアであれば、矢は目に刺さらず、顔の部分を覆う厚い毛皮に阻まれて刺さる事すらなかっただろう。

 その後の展開は狙ったアースボアの気質次第だが……必ず逃げてくれるとは限らないし、こちらに逃げる余裕があるなら、逃げた方がいいだろう。


「まだまだ……か。素晴らしい向上心じゃな。ならば紋章魔法の習熟共々、今後とも期待させてもらおうかの」

「はい」

 そんなこと俺が考えるともつゆ知らず、学園長は俺の手を取り、半ば無理矢理握手してくる。

 周囲の観客が妙にざわついているのは……ああ、学園長の言葉のせいか。

 学園長の言葉を少し捻って考えると、俺が紋章魔法を使えない事が分かるわけだし。


「さて、ハーアルター君」

「っ!?」

 俺との握手を終えた学園長は、最初に仕掛けてきた新入生の彼……ハーアルターに話しかける。

 すると、学園長の言葉にハーアルターはビクンと一瞬だが身を竦める。

 きっと怒られると思っているのだろう。


「これで分かって貰えたかのう。世の中は広い。君がまだ知らぬ事も、信じがたい事も、認めがたい事もたくさんある。じゃが、これが現実という物じゃ」

「……はい」

 ハーアルターは微かに体を震わせながら、返事をする。


「しかし君はまだ若い。自分が知らないと言う事を知れば、それだけで大きく成長する事が出来るじゃろう」

「!?」

「ここは学び舎じゃ。どうすれば強くなれるかも、どのような力こそが真に人々から称賛を集めるのかも、学ぶことが出来る。紋章魔法が関わる、関わらないに限らずじゃ」

「……」

「さて、君が強くなるための一歩じゃ。無理にとは言わんが、まずは彼……ティタンが狩ってきたアースボアの肉を食べて、自分の感じたままを、己の心の内だけでいい。思う存分吐露してみるのじゃ」

「はい……」

 いつの間にか学園長の横にクリムさんが立っていた。

 その手にはアースボアの丸焼きを切ったものを乗せた皿がある。

 そして、学園長の言葉に合わせてクリムさんがハーアルターに皿を渡し、少し涙を流しつつアースボアの肉を食べた。


「さて、メルトレス君」

「はい……」

 学園長がメルトレスの方を向く。

 その行動に新入生や一部貴族を中心に、驚きの声が方々から上がる。


「学園の中に居る限りは王族だろうと生徒の一人である。が、それでもやはり外での地位は中での影響力にまで影響を与えてしまう。王族ともなれば、それは決して看過できない程じゃ」

「はい……」

「落ち着いて行動するように」

「はい……申し訳ありませんでした」

 が、それを無視して学園長は話を続け、穏やかにだが、メルトレスに対して明らかな注意を行う。

 ただ一ついいでしょうか、学園長。

 貴方凄く楽しんでましたよね、この状況。

 そんな方に落ち着けと言われても、説得力が無いんですが……まあ、言っていること自体は間違っていないし、俺から何かを言う必要はないか。


「では、宴に戻ろうか」

 そうして学園長の言葉と共に晩餐会が再開された。

 そして、その言葉を聞いた俺は、人目を避ける様に移動し、この場を離れた。



--------------



「ふぅ……」

 用務員小屋に戻ってきた俺は弓を置くと、この一週間で俺の定位置になった椅子に腰かけ、大きく息を吐き出す。


「疲れた……」

 どうやら何百人と言う見知らぬ人に見られながら、遠く離れた的を射ると言う行為は、俺が自分で思っていた以上に、俺の身体に対して負担をかける行為だったらしい。

 緊張が抜けると共に、全身に気怠さが襲ってくる。


「お疲れさまでやんすよ」

「ソウソーさん……」

 と、何時の間に用務員小屋の中に戻って来ていたのか、何かしらの飲み物を入れたコップを持ったソウソーさんが立っていた。


「飲むでやんすよ」

「ありがとうございます」

 俺はソウソーさんからコップを受け取ると、ゆっくり口に含み、香りと甘さを味わいながら喉の奥へと運んでいく。

 それだけで、疲れが幾分か取れた様な気がする。


「いやぁ、よくやったでやんすよ」

「当てられるかどうかは五分五分と言ったところでしたけどね。後、的の中心には当てられませんでした」

「当てただけでも十分っすよ」

 コップに続けてソウソーさんがアースボアの肉などをパンで挟んだもの……サンドイッチと呼ばれている食べ物を取りだす。

 ああそう言えば、夕飯も食べていないんだったか。


「いただきます」

 俺はサンドイッチを食べ始める。

 ああ、アースボアの肉がとても美味しい。


「じゃっ、あっしは晩餐会の会場に戻るでやんすが、ティタンはもう休んでいていいっすよ」

「いいんですか?」

「どう見ても疲れてる後輩を働かせるような非情な先輩はウチには居ないでやんすよー」

 ソウソーさんはそう言うと用務員小屋の外に出ていく。

 そしてサンドイッチを食べ終わった俺は、満腹感と疲れから、その場で眠り始めた。

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