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BBC-黒い血の狩人  作者: 栗木下
第四章:射抜く狩人
183/185

第183話「黒鵺と剣士-4」

「ふぅ……」

 イマジナを無事に仕留めた俺は『血質(アッスーム)詐称(レッドブラッド)』、『能力(アッスーム)詐称(ヒュムパラメタ)』、『肉体(アッスーム)詐称(ヒュマフィジカ)』を発動。

 黒い獣の姿から人の姿へと変わっていく。

 そして俺の姿の変化に伴って、ベグブレッサーの弓も普段通りの姿へと変化していく。

 そうして身体を縮めるのに伴って、体外に出た状態で余った魔力を使って傷ついた身体を修復、それでも余った魔力は髭と髪の毛に回しておく。


「お疲れ様ですティタン様」

「メルトレス」

 人間サイズに戻った俺の下にメルトレスが近づいてくる。

 その顔には間違えようのない笑みが浮かんでいる。


「ありがとう。色々と助かった」

「ティタン様……お役に立てたなら幸いです」

 俺が声をかけるとメルトレスは更に嬉しそうにする。

 俺を助けられてうれしいのか、俺に褒められてうれしいのかは分からないが……まあ、喜んでいるようだし、そこは気にしなくていいだろう。

 今は全員無事であることを喜ぶべきだ。


「はいはい、ちょっと待つっすよ。お二人さん」

「ん?」

「はい?」

 と、そうして俺とメルトレスの二人で少々良い雰囲気になっている時だった。

 神妙な顔をしたソウソーさんが俺に話しかけてくる。


「ティタン。確認っすが、さっきの一撃でイマジナは仕留めたんでやんすよね?」

「そうです。少なくとも外した感じはありませんでしたよ」

「ふむ、じゃあまあ、後で死体の位置を教えるっすよ。回収しないといけないでやんすからね」

「分かりました」

 イマジナの死体の回収か。

 それは確かに必要だろう。

 事件が無事に終わった事を示すものとして、それ以上の物はない。


「じゃあ次、イマジナと組んでいた禁術使いの死体は何処に行ったでやんすか?」

「何処にって……」

 だが禁術使い……ルトヤジョーニの死体について問われた時、俺は返答に詰まる事になった。

 禁術使いが普通の人間ではなく杖の姿を取っていた事も説明がしづらい事であるし、その正体に至ってはノンフィーさんから話すなと言われている案件でもある。

 そもそも『魂狩り(ブラドボーンド)血矢チェイサー』によって魔力の欠片も残さず、粉々に砕け散ってしまっている。

 メルトレスたちならばまだしも、ソウソーさん相手にこれらの事を取り繕って話すのは……うん、俺には無理だ。


「えーと……とりあえず後でノンフィーさんを交えて話します。はい」

「そこでノンフィーの奴が出てくるあたりに突っ込みどころ満載でやんすが……まあ、そう言う事なら今は聞かないでおくでやんすよ」

 と言うわけで、この話については後回しにしておくことにする。

 そしてソウソーさんの文句は全てノンフィーさんに押し付ける事にしよう。

 それが一番だ。


「ん……?」

「ティタン様?」

 と、ここで俺の感覚が、こちらに近づいてくる気配の塊を二つ捉える。

 一つは学園長が寄越したであろうイマジナ・ミナタスト捜索隊の物だ。

 そしてもう一つは……うん、色々と拙いものだ。

 これは急いでこの場から離れた方がいい。

 何時かはと思っている相手だが、今やり合うのはどれだけ良い条件が揃っていても御免こうむりたいぐらいの相手である。


「メルトレス、ソウソーさん、ゲルド、イニム、今はこの場を離れましょう。一番厄介な敵は去ったとはいえ、ここは夜のオース山の中ですから」

「……。分かりましたわ。ティタン様」

「ま、それは確かにそうっすね」

「分かりました」

「はい」

 だがこの状況で慌てさせるのも拙い。

 そう判断した俺はそんな考えは顔に出さず、メルトレスたち四人を普通に説得して、この場を去る事にした。

 メルトレスには何か勘付いた様子もあるが……今はまだ黙っていてもらう。

 そして、道中で学園長率いるイマジナ・ミナタスト捜索隊とも合流。

 彼らにイマジナの死体の位置を教えると、彼らの半分と共に俺たちは下山した。


「あのティタン様……」

「狩るなら狩猟用務員としての仕事が無い時ですよ」

 そうして俺たちが校庭に集まっている一般の生徒たちの下にまで辿り着いた頃だった。

 オース山の上の方から微かにドラゴンの翼が動く音が聞こえてきたのは。

 それはつまり、上で何かしらの異常事態が起きているという事でもあった。


「いいの……ですか?」

「確かに仇ではあります。ですが、今の俺は狩猟用務員であり、一番に優先するべき事は生徒の安全。なのにあのまま行っていたら、死んだ爺ちゃん含めて色々な人から怒られますよ。それに……」

 メルトレスにもその音が聞こえたのか、あるいは何かしらの気配を感じ取ったのだろう。

 何処か不安そうな顔で俺の方を見てくる。

 だから俺はメルトレスを安心させるように言い切る。


「十年ぶりに気配を感じてはっきりと分かりました。俺はアイツを憎めない。アイツはアイツで生きるために行動していた。それを思ったら、イマジナと違って今すぐにどうこうしようとは思えませんよ」

「そう……なのですか?」

「目標には変わりありませんけどね」

 挑むならもっと力を付けてから、狩人として狩るのだと。


「とにかくこれでイマジナの起こした事件は終わりです。今はその事を喜んでおきましょう」

「そうですね。そうしましょうか」

 そうして俺とメルトレスはイニムが持って来てくれた温かいスープに口を付け、微笑み合うのだった。

後はちょっとしたエピローグで終わりです。


06/16 誤字訂正

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